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番外編69ひと夜咲く純白の花の願い
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ーズキン、ズキン、
痛い…
ーズキン、ズキン、
これは、ナイフを握った手が痛むんだ…
決して、百目鬼さんが修二の名前だけ呼んだからじゃない…
百目鬼さんにとって修二は〝大事な人〟…
百目鬼さんはやっと進む気になったんだ…
良かったじゃないか…
だから…
ーズキッ
この締め付けるような痛みも全部…
ナイフを握った手が痛むんだけ…
むつ「百目鬼!!」
修二の前に現れた百目鬼に向かって、むつが激怒して詰め寄る。
むつ「てめぇー次会ったらぶっ飛ばすって…」
修二「ストーップ!!」
むつが百目鬼の胸ぐらを掴む寸前で修二がむつを抱き込んで取り押さえた。
むつ「止めるな!!」
修二「百目鬼さんは僕らを助けてくれたの!!それに今それどころじゃないんだよ!!」
足元に瀧本が転がっていて、彼の持っていたポケットナイフも落ちていたが、刃に血が付いていた。
むつ「修二!!怪我したのか!?」
修二「僕ちゃんじゃないよ!マキだよ!」
その言葉に直ぐに華南が僕に駆け寄って、僕の服のお腹の部分が破れてる事に気づいた。
華南「マキ!どこやられた!腹か?」
マキ「やだぁ♪、大げさぁ、なんともないからぁ♪…」
右手で服の破れたところをピラピラして、左手を背中に隠したまま後ろに後ずさる…。
心配されるのは得意じゃない。
修二「嘘つけ!!。百目鬼さん!マキは左手でナイフの歯を掴んだんだ!マキ、左手見せて!」
何故百目鬼さんに報告する!
必要ないだろ!
百目鬼さんは修二が心配なんだ!
修二が無事ならそれで良い話しだ!
百目鬼「言っても無駄だ。こいつは大丈夫じゃない」
は?!
百目鬼さんは、僕の腕を掴んだと思ったら、無理やり左手を引っ張り上げた。
どうやら百目鬼は、マキに確認するまでもなく、マキが怪我してると分かってて。怪我してるか分からない修二にだけ安否を確認したようだ。
マキ「痛!!イタタタ!痛いよ百目鬼さん!!」
高々と上げられた僕の左手、必死に隠そうと手を握りしめてグーにしていたが、滲んだ血がわずかに溢れて、それを見たむつと華南がギョッとして驚いた。
百目鬼「手を下げるな、上げてろ馬鹿が」
マキ「分かった分かったから離してよ!」
百目鬼「駄目だこのまま病院に連れてく」
マキ「や!ヤダ!!先生にやってもらう!」
百目鬼「先生様は田舎だろ!」
ゲッ!!何でバレてんの!?
ギロッと睨まれ、苦笑いでごまかす。
ってか、修二には〝心配してます〟的だったのに、僕にはずいぶん乱暴!ってか嫌々ならやんなよ!睨むくらいなら僕を視界に入れなきゃいいじゃんか!
僕は若干パニクってる…酒のせいか、百目鬼さんに会ったせいか、彼に腕を掴まれてるせいか、また連れてかれそうになってるせいか分からない…。
いや、全部か。
僕と百目鬼さんのやりとりに、むつと華南が驚いてる。修二も多少驚いた風だけど、彼には半分想定内なのかもしれない。
むつ「お、おい!嫌がってんだろ!」
華南「マキ、暴れるな!」
修二「僕ちゃんハンカチ持ってるよ」
修二が綺麗に畳まれたハンカチを出す。僕は嫌だと言ったけど、そこにいた全員に睨まれ、渋々左手を開く。僕が「そこまで深くはないから大丈夫♪」って言うと、修二にさらに怖い顔をされて僕の左手にハンカチを縛って止血した。
百目鬼「病院行くぞ」
マキ「ヤダ!自分で行く!」
引かれた手を拒んでも、百目鬼さんの手は離れない。
怪我したからって優しくするな!
同情は嫌いだ!!
怪我してなかったら僕になんか構わないだろ!僕はあんたにとって金出して買う娼婦みたいなもんだろ!もう清算は終わったんだよ!!そんなに金を受け取らなかったのが気にくわないの?
むつ「おい百目鬼!手を離せ!マキは俺たちが病院へ連れてく!」
マキ「むつ君やっさしい♪」
むつ「チャラけんな!病院終わったら説教だ!!」
マキ「えー!」
華南「百目鬼さん、助けてくれたのはありがたいけど、マキもこう言ってるし…」
むつ「華南!こいつにはそんな丁寧に言ってやる必要ないだろ!」
修二「…」
むつは怒りで吠えるし、華南は空気を読み解こうと頭を働かしてる。
状況を半分分かってる修二は何故か黙ってる。
マキ「まぁまぁむつ君落ち着いて、僕と修二は百目鬼さんに助けてもらったんだから、ね?ここは間をとって僕一人で病院に…」
言いかけた僕に、すかさずむつが噛み付いてきた。
むつ「てめー馬鹿だろ!」
華南「マキ、バックレるのは諦めろ」
百目鬼「とにかく病院には連れて行く」
むつ「だから、てめーにマキは渡さねぇっつってんだよ!!」
あん!色んなタイプがいすぎて捌けない、この子達全員相手にするには僕は万全じゃなさ過ぎる。
するとここにいる全員を黙らせる人物の声が聞こえてきた。
奏一「君達は馬鹿なの?さっきっから黙って見てればグダグダと…、さっさと怪我人病院連れてけよ」
修二「兄貴…」
奏一「神、目障りだからさっさと用事済ませろよ」
修二「!?。もしかして〝匿名のタレコミ〟って」
奏一「そう、神だよ。ハッテン場に修二がうろついてるってね。しかも3人揃ってこんなことになってるし…」
奏一の恐ろしいほど冷ややかな睨みに、修二とむつと華南がゾッと身を震わせる。
そして奏一は、足元で転がってる滝本を冷めた瞳で見下ろした。
奏一「こいつ、死にたいらしいな」
ゾッとするほどの表情は、引退して数年経ってるにも関わらず、朱雀特攻隊隊長の風格が一切衰えない睨み。睨まれただけで相手が気絶するという、噂が事実かと思うような恐ろしさだった。
マキ「あー、皆さん忙しそうだから、僕はここで失礼します」
みんなが奏一さんの鬼の形相にビビってる間に抜けだろうとしたが、掴まれていた腕をぎりっと引き上げられた。
マキ「イタタタ!!ど、百目鬼さん!痛い!痛いってば!」
百目鬼「逃がさないぞ」
マキ「逃すも逃がさないも、僕に構ってないでさっさと修二に言ってやる事やれよ!せっかく一歩踏み出したんだろ!」
百目鬼「何言ってんだ。俺が用事があるのはお前だ」
マキ「はぁあ!?此の期に及んで何躊躇ってんだよ!奏一さんの許可とったんだろ!修二を目の前にしてヘタレんなよ!さっきみたいにカッコよくバシッと決めてこいよ」
百目鬼「…勘違いだ。俺はお前を探してた」
マキ「は?!」
意味分かんない意味分かんない!!
百目鬼「行くぞマキ」
マキ「嫌だ!」
百目鬼「傷を手当てしに行くんだぞ」
マキ「…傷?傷があるから何だよ、もう関係ないだろ!」
百目鬼「…」
いくら不器用でヘタレなティーカッププードルだとしても、ここまで来てそれは無いんじゃないか?修二を目の前に何ビビってんだよ!さっさと本題入って長年の気持ちを整理するんだろ?
僕と百目鬼さんのやりとりに、むつと華南が意味が分からないと、唖然と見つめ、修二は見守るように口を挟まず。奏一はイライラしていた。
むつ「お前…、マキにもなんかしたのかよ、最低だな」
華南「…」
修二「…」
むつの軽蔑の眼差し。
押し黙って状況を図る華南。
無言で見つめる修二。
3人の視線に百目鬼が目を細める。
百目鬼「頼む、お前らも付いてきてくれ、じゃないとこいつは病院行きそうにない」
百目鬼の返しに、むつはキッと睨んだ。
むつ「だから、俺達が連れてくからてめーは消えろよ」
百目鬼「話しは後だ、手当てを先にしたい。お前らじゃ足がないだろ。むつ、お前がマキについてやってくれ、車は駅前に止めた」
むつ「は?」
華南「俺も行く」
百目鬼「なんでもいい、移動する」
勝手に話しをまとめて、百目鬼さんは僕を無理やり肩に担いだ。
マキ「ギャッ!!お、下ろせ!!」
意味分かんない意味分かんない!
修二に会いに来たんだろ?!
百目鬼「マキ、大人しくしてろ!傷に触る」
マキ「だったら下ろせ!」
むつ「お、おい!」
ズンズン進む百目鬼に、むつが続き、華南も追いかける。
百目鬼「奏一!この先の市立病院に行く、修二と一緒に来てくれるとありがたいんだが…」
奏一「………」
修二「…兄貴が送ってくれないなら、僕ちゃん百目鬼さんの車に乗るよ」
修二の言葉に、奏一は視線だけ修二を見た後、百目鬼とその肩にかつがれ暴れるマキを見る。
そして、深いため息をついた。
奏一「………行くぞ修二」
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