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蝉しぐれ
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マキが泊りに来て5日目。
マキの妖艶な微笑みの理由が分かった。
昼過ぎ、僕は神明家に呼び出された。
マキは何もかも見透かしたように微笑み、ヒラヒラ手を振って僕を見送る。
神明家には、皆さん揃っていた。
禅さんの父で現在神託者の覡の旦那様。
(覡:かんなぎ、巫女の男性の呼び方)
その奥様。引退された大奥様。現在巫女の桜さん。浄さん。更に僕の父と、兄。その他神明家に使える弟子数名。
そして部屋の真ん中に、禅さん。
皆さん神妙な面持ちで、僕は旦那様に手招きされ、部屋の真ん中、禅さんの少し後ろに正座した。
僕が座ると、旦那様が悩んでる様子で口を開く
「泉君」
泉「はい」
「君にはいつも世話になってる。君は優秀で、とても頼りになる青年だ…」
身に余るお言葉に謙虚に首を振ると、旦那様は申し訳なさそうに続ける。
「禅が君に話しがあるそうだ。聞いてやってくれないか?」
旦那様の言葉に返事をすると、僕の少し前方に正座していた禅が振り返った。
その表情は、驚くほど引き締まった真剣な表情で、男が覚悟を決めた顔だった。
禅「水森泉さん」
初めて耳にするような凛とした声、僕は禅さんにさん付けで呼ばれたことなど一度もない。
禅「私は心を入れ替え、覡の修行をやり直します。神明家の後を継ぎ、必ず覡になります。だから、私の覡付きになって下さい」
三つ指で綺麗に頭を下げる禅さん…
これは…一体……
昨日は、何もかも捨て俺について来いと言った人間が、今、家を継ぐと言っていた。
驚く僕に、旦那様が言った。
「泉君、断ってもいいんだよ」
泉「え…」
「君には、浄の覡付きをお願いしようと思っていた。君がお父さんの後を継ぐ決意をしたら、そうする予定だった。いくら能力が長けていても、出戻りのいい加減な者の下に付かなくていい」
旦那様の厳しい言葉にも、禅さんは動じず、僕に頭を下げたままだった。
考えておいて欲しい。
そう旦那様に言われ、僕は1人部屋に戻る。
…。
これは、僕の望んだ結果だ。でも何故こんな急に?
婚約を決めれば、禅さんは怒鳴り込みに来ると思ってた。その時、家に戻るように説得しようと思った…
だけど、禅さんはまるでそんな気はなくて、むしろ僕を連れ出しそうな勢いだったのに……。
マキ……
マキが、何か吹き込んだ?
分からない。
マキに何かを吹き込まれた所で、家を飛び出した禅さんが、いきなり旦那様に頭を下げて覡修行に戻るなんて……あるのか?
僕は、昨日の今日の急展開についていけず考え込んで歩いていたら、後ろから禅さんに呼び止められた。
禅「泉!」
泉「禅さん…」
禅さんはさっきと同じ、真剣な表情で僕に近づく。
禅「泉。俺、この家に戻って覡の修行やり直すから」
泉「…はい、先ほど聞きました」
禅「浄の覡付きにはならないで、俺の覡付きになってくれ」
意思の強い瞳で見据えられ、ドキリとした。
今の彼は、僕の憧れたあの時の禅さんの瞳。強力なオーラを放っていた。
禅「一からやり直すから、時間はかかるが、必ず立派な覡になるから」
禅さんが一歩一歩近ずく。
その真剣な瞳は、僕の動きを封じる。
禅「俺は、お前に胸を張れる男になるから。だから、1年だけ婚約するのを待ってくれないか」
泉「……まさか…邪な気持ちで覡になろうとしてるんですか?」
禅「邪じゃない。覡になったらお前が手に入るなんて思ってない。俺は、泉に人として認められたい。何もかも投げ出した男のままでいたくない」
泉「禅さん…」
禅「泉に気持ちをぶつけて玉砕して目が覚めた」
泉「…」
禅「俺、小さい頃は覡になると思ってた。だけど、いつからか用意されたレールに乗ってるみたいで嫌になって。泉への気持ちに気づいて、男を好きな俺に神の言葉なんて聞けないって…、本当は自分の我儘や反抗心だったのに、全部そのせいにしてた。…言葉を何度も呑み込む内に、自分を失ってた。お前に滅多刺しに言われて…、何やってんだろうって…」
僕?
禅「親父に頭下げた。皆にも、そんで修行をやり直す許可をもらった。俺、男になるから」
ジリジリと迫る禅は、僕の目の前に立つ。
禅「泉」
その真剣な声は、僕の鼓膜を震わせる。
禅さんの手が僕の肩を掴んだ。
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