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俺たちのバランス〜むつ〜
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しゅ…じ…
ゾッと寒くなる。心拍数が跳ね上がり手足が痺れる。店内はあんなに煩かったのに、今は何も聞こえない…ただただ修二の声がハッキリ聞こえた。
修二はヒヤリとした空気を纏いながら、美樹に優しく微笑みかける。
俺は修二が来るなんて聞いてない、そう思ってマキを睨んだが、マキは〝僕じゃない〟って目で訴える。
むつ「…どうして…」
修二「ふっ、…むつの跡つけた」
むつ「…修二…これは…」
修二「黙って。むつの話しは今聞かない」
優しい顔でやんわりとした口調で言われたが、俺には分かる。修二は怒ってる。
むつ「誤魔化すつもりじゃなくて、俺…」
修二「…」
修二の冷めた目が俺を見下ろす。
夢に出た、俺を軽蔑する修二とその姿がかぶる。
ああ…、今分かった。修二が百目鬼との過去を抱えて怯えてた時の気持ち…。怖いって思うんだな…、好きな奴を目の前にしても…、その全てが…、言葉も…視線も…仕草も…どれか一つでも否定されたらと思うと、心が痛くて冷える…。
ごめん修二…あの時、優しくしてやれば良かったな…怒って怒鳴って…悪い事したんだな…。
マキ「修二、むつの話しも聞いてあげなよ」
修二「マキは、悪いけど席を外して」
マキ「…あのさ修二」
修二「僕見たんだ」
修二がマキに言いながら、目の端で俺を見る。
修二「むつが美樹ちゃん抱いて眠ってるの」
ッ!!
そんな…
じゃぁ修二はあの日からずっと…
マキ「……」
修二「……」
マキと修二が見合って、その場は静まり返る。
言わなきゃいけない事、言いたい事がいっぱいあるのに、口が動かない…俺が言えるのは『ごめん』って謝ることだけ…、それ以外は、男らしくない言い訳ばかり…。
マキ「分かった。僕は席を外すね。お邪魔しました」
マキが俺から離れて、代わりに修二が俺の隣に座って美樹と向かい合った。
修二「美樹ちゃん。お話し、聞かせて」
怒ってた美樹は、俺と修二の険悪な雰囲気に表情が和らいで満足げだ。
美樹「むつくん、前から私のこと狙ってたみたい」
は!?
美樹「最初は恋人とラブラブな話しばかりしてたけど、だんだん私に特別優しくなって、最近は恋人の愚痴ばかり言ってたもの」
修二「…」
むつ「はあァ!?言ってねぇーだろ!!」
信じらんねぇ!
怒りのあまり席から立ち上がったら、修二の手が俺を止める。
修二「むつ、今はお口にチャックしといてくれない?。出来ないなら、席を外してもらうよ」
ピシャッと言った修二は、俺をチラリとも見ない。
美樹は、俺と修二を別れさせる気だ。
言ってやりたいのに…今の俺の言葉は修二には聞いてもらえない…、修二の気持ちを踏みにじった俺は、もう、俺の言葉は修二に信じてもらえない…
こんな風にグチャグチャした気持ちを噛み殺したまま黙ってるなんて、こんな経験したことがない、今まで思ったことは直ぐ言葉にした、やりたいことは直ぐにやった…
だけど言う機会はいくらでもあったのに、言わなかったのは俺だ。振り向かない修二に、この気持ちをぶつけて押し付けるのは、あまりにも修二の気持ちを無視してる…
胸の中に重く激しい気持ちを飲み込んで、黙って席に座る。
すると俺の気持ちを逆撫でするように、美樹が嘲笑った。
美樹「あは、ウケる。むつくんと修二くんって力関係むつくんが上かと思った。修二くんの方が強いんだ?それともむつくんは浮気しちゃったから言い返せないの?」
むつ「ッ!」
修二「美樹ちゃんは、随分キャラが違うね」
美樹「私、怒ってるんだよ。怒ってる時ヘラヘラする人いる?」
いるんだよ。目の前の修二と、笑ってることしかないマキっていうのがな。
修二「そうだね。それで、愚痴ってどんなこと言ってたの?」
美樹「ろくにデート出来ないって言ってたよ。あまり外に出たがらないし、出かけても手をつながせてもらえないし、ちっとも甘えてくれないからもっと可愛く出来ないのかって言ってたかな、ねぇ?むつくん」
…ぅっ…。
それは、身に覚えのある言葉だ。
だけどそんな風な言い方はしてない、大輝とかと話してて、デートはエスコートがめんどくさいとか言うから、こっちはしたくても出来ないって話をしたり、女は所構わずベタベタするから参るわーって大輝具言うから、羨ましいって話しをしただけだ!
修二「ふーん」
美樹「だから、言ってたもの、〝美樹は手に職つけて頑張ってるし可愛いし、いろんなところへデート行ったり、可愛く甘えたりしろよ〟って。あの日も失恋して落ち込んでる私に、〝美樹は一生懸命で可愛いから、その良さが分かる奴がきっといる〟って〝俺はお前の良さ分かるぜ〟って口説いてきた」
むつ「はァッ!?そんな言い方してねぇ!」
修二「むつ、席を外す?」
グッ!!
席を外す?この女と修二を2人にしたら、きっと好き勝手言われる!俺はあれこれ言い訳すんのは男らしくねぇって思ったけど、今の状態は最悪だ!この女のいいように解釈されて話しが変わっちまってる!
ブチ切れそうになりながら、俺は痛感して思い知ってる。
言葉の難しさ…。
美樹の言った言葉は、どれも単語では使ったことがある、俺が美樹に言った言葉だ。だけど前後の言葉をなくし、繋げることで、意味としては全く違う言葉になってる。
〝お前の良さ分かる〟確かに言った。だけど俺が言う前に、美樹が「私の良さ、むつ君には伝わってる?」って泣きながら聞いてきたんだ。それを慰めてる俺が伝わらねぇよ、なんて言えるわけねぇ!
今この瞬間、修二はどんな気持ちだろう?
きっと…傷ついてる…。あの澄ました仮面の下で、俺への怒りを募らせてる。
この女の一言一言が修二を傷つけて、修二の中の俺への気持ちは無くなってく…
例え嫌われても、黙って座ってないと…
この女がなんて修二に言うか聞けない…
俺は黙って座ってるしかないんだ…
修二「…ごめんね美樹ちゃん、続けて」
修二…ごめん…、こんなことになって…
でも、その女の言ってること全部鵜呑みにしないでくれ…頼む…
美樹「それから抱きしめてくれたの。〝安心しろ〟って言いながらね、俺がいるだろ、みたいに優しく抱いて頭を撫でてくれたわ」
嘘じゃないけど真実でもない……
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