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(番外編)純愛♎︎狂愛29
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百目鬼さんの瞳をじっと見据え、彼の反応を見逃さないよう観察した。
百目鬼さんは、どこか定まらない視線を僕に向けていたが、僕の言葉を聞いた瞬間、僅かに目を見開き、何か言いたそうにジッと瞳を見つめた後、歪むように苦悩の表情で眉を寄せた。
百目鬼「……」
何も言わない百目鬼さんが、何を感じていたのか、僕には分からない。
不安だらけの僕の頭では、悪いことばかりが頭をよぎり、百目鬼さんの仕草を見逃さないようにするだけで精一杯、百目鬼さんの複雑な心境を正確に読むことが出来ない。
そもそも、百目鬼さんは、僕のことをどう思ってるのか。
ただ、「可愛いく見えて困る」とだけ。
それだけは、ずっと言ってくれてる。
その言葉が、僕にとって、どんなに嬉しくて、どんなに恥ずかしくなっちゃう言葉か、百目鬼さんは分かってるんだろうか?
僕の顔が赤くなるからと、意地悪に「可愛いい」と言ってくる百目鬼さん。
悪戯っ子みたいに囁くその声が、カッコいいのに、可愛くて、僕は本当にたまらない気持ちになるのを百目鬼さんは、知らないんだろう。
強面の顔が、子供みたいに楽しそうに意地悪したり、笑ったり、拗ねたり、怒ってても全然怖くない、可愛く見えるだけ、僕にはずっとずっと、可愛らくい愛しむ人にしか見えてない。
過去の過ちを悔いて、一生懸命誠実であろうとする百目鬼さん。
獰猛な猛獣と戦いながら、それでも征することが出来なくて暴走してしまう百目鬼さん。
誰より優しくあろうとしながら、短気で不器用な百目鬼さん。
僕には、ライオンの着ぐるみを着て虚勢を張るティーカッププードルにしか見えない。
本当に可愛くて、大好きなんだ…
本当に…
大好きなんだ…
きゅぅぅッと胸が締め付けられて、涙が出ちゃいそう…。
この場で泣いて「別れたくない」と、すがってしまいそう…
本当はこんなこと言いたくない。
本当は、別れたくなんかない…
だけど…、僕は知ってた。
僕と一緒にいれば、百目鬼さんが苦しみ続けなきゃならないこと…
僕は、知ってて知らん顔した。
一緒にいたい。僕の我儘を通した。
いつか、百目鬼さんの苦痛が和らぐんじゃないかと、一縷の望みに縋った。
僕は半年間、ずっとずっと好きだと伝えてきた。可愛くて大好きだって、ずっと一緒にいたいって…
僕は、ずっとずっと気持ちを伝えてきた…
百目鬼さんにとっては、これっぽっちかもしれないけど、僕にとっては、素直であり続けるのも、返ってこない言葉を言い続けるのも、とっても勇気がいることなんだよ…
百目鬼さんは優しいから、僕みたいに寂しい人間をほっとけなかった。
だけど、ほっとけないのと、好きになるのは違う。
百目鬼さんは、僕のこと、好みじゃないし、修二や奏一さんより好きになることはない。
百目鬼さんにとっては、僕みたいな人間は受け入れがたいんだ…
ずっと、僕が無理に付き合きあわせてた…
そんなふうに、思いたくないのに、そんなふうに百目鬼さんが思ってるなんて思いたくないのに…
僕は、愛されてる自信はない。
百目鬼さんが、僕にくれた優しい時間は、彼なりの〝愛情〟だ。
それを疑うことはない…………。
ただ、その愛情の名前は、
「〝慈愛〟」だ……
百目鬼さん…
ごめんなさい
好きになったりしてごめんなさい。
惚れ薬なんか使ってごめんなさい。
狂う程愛されたいなんて言ってごめんなさい
お願い…
何か…
何か言って…
百目鬼「…」
マキ「…」
百目鬼「……お前が…」
切望した答えは…
とても静かに、響いた
百目鬼「そうしたいなら、そうしろ…」
睨むような苦悩の色の瞳を逸らし、僕を見なくなった瞳。
マキ「……」
その逸らされた瞳は、僅かに泳いで、固く閉ざされた。
マキ「…百目鬼さんは…」
僕のこと、一瞬でも好きになってくれた?
口にしてしまったら、砕け散るだけなような気がして、唇が震えた。
マキ「……ッ」
ここで泣き叫んだら、百目鬼さんは抱きしめてくれるかもしれない。
でも、百目鬼さんは僕の過去を知った。
百目鬼さんの中では、僕は可哀想な子だ。
そう思うと、涙は流れなかった。
同情されて情けをかけられて振らないだけか
それとも本当に
僕が願うならその通りになるのか…
百目鬼さん、
僕にも百目鬼さんが分からない。
マキ「…ワカッタ」
心の時は止まっても
青い文字盤の腕時計の秒針のだけは、
思い出を囁くように響いていた…
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