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(番外編)純愛>♎︎狂愛1
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【マキside】
真っ白な壁。
ズキズキする頭と背中。
ハッキリしない意識の中、目の前にある自分の右手には点滴が刺さっていた。
病院…?
何故病院にいるのか、思い出せない。
なんだか思い出しちゃいけない気がする…。
でも…なんでだっけ?
看護婦「茉爲宮さん、大丈夫ですよ、ここは病院です。救急車で運ばれてきたんですよ。ご家族には連絡しましたから、今、先生呼んできますね」
優しそうな看護婦さんにそう言われ、清史郎さんに連絡が行ったんだと理解した。
だけどそれ以外は、なんだか霧がかかったみたいにハッキリしない…
そして…
ーパリーン。
あっ…。
砕ける音が耳の奥で響いて、全てを思い出した。
僕は、瀧本に着いて行って、そこで変な薬飲まされて、途中から訳わかんなくなって、頭がぐるぐるしてる中、ただただそこにいる奴らを懲らしめなくちゃって思ってて、気がついたら、瀧本が僕に夢中になってムチを無防備に置いたから、そのムチを握って振り回した。気がついたら賢史さんが居て、百目鬼さんが暴れ出して…、百目鬼さんが逮捕されちゃうって思って…百目鬼さんを止めに入ったら…百目鬼さんが…僕を…睨んで…『終わりにする』って……
望みを口にしたら、叶うと思ってた…
こんなことしでかしたら、百目鬼さんが怒るの分かってた。だけど、心の奥底の願いを口にしたら、百目鬼さんは叶えてくれるって…何故かそう思ってた。
『捨て…ないで…』
百目鬼さんに捨てられたら、僕は…
薬でグルグルしてたから、こんなこと言えたんだよなぁ…。
ふふふ、バカだなぁ…、僕って…。
『ッ…捨てないで…だと?…』
でも…、期待してた…。
怒っても、許してくれるって…。
ううん、許して欲しいって。イライラしてもムカついても、ベッドに引きずり込まれてお仕置きされて、なんかかんか手放さないでいて欲しい…って。
『…そうだな…俺はお前を捨てるんだ…、俺は…お前を…ッ。
お前を修二の代わりにしてただけだ、だがお前は代わりにすらならない、手がかかるし、言うこと聞かないし、面倒くさいんだよ。だから捨てる。お前なんか、要らない』
要らない…。
要らないってさ…。
僕…
『お前の母親生きてるじゃねぇーか!』
清史郎『え?母親が生きてるか?…ってきり知ってると思っていたよ。私の元から出て行ったのは、マリアの元に行ったんだと…。ご、誤解してはいけないよ、マリアけして優絆を捨てた訳じゃない、け、けして要らなくて置いていった訳じゃ…な、ないんだよ』
今思えば。子供の時言われた言葉は、そういうことだったんだ…
『泥棒。お前の母親は泥棒だ。俺たちから父さんを奪った。〝お前も〟金目当てなんだろ、いつまで寄生してんだよ、要らない子供の癖に、〝誰からも望まれない子の癖に〟』
腹違いの兄が、涙を流しながら鬼の形相で睨んできた。その日まで、彼が腹違いの兄だということも、叔父さんだと思っていた人が父親だった事も、僕に色々厳しく教えてくれてた人が、夫を奪われた妻だった事も、何も知らなかった。
今思えば、あれは、僕の母親は金もらって僕を捨てていなくなった、ってことだったんだな………
子供の僕は、優しい嘘に囲まれて生きてた。
でも、それが僕の日常で、それが普通。
外にあまり出れなかったことが不満なだけで、あとは何も無い。愛人の子供の僕は、何も知らず。あの家の人たちに世に出しても恥ずかしく無いようにと色々習い事をさせてもらい厳しく育ててもらった。
同じ敷地に住みながら、お手伝いさんに世話してもらい離れに1人で生活したことも。
どこにも出かけず、離れで1人で食事して、1人で寝た夜も。僕にとってそれが普通だった。
だから、清史郎さんところから家出してからは、びっくりすることばかりだった。
先生に拾われて。泉が、セックスしなくても寝れると説教しながら添い寝したりして一緒にいてくれて、修二とむつと華南が友達になってくれて、百目鬼さんが可愛くて、慰めてあげながら、何気に初めてデートの水族館行って、百目鬼さんは修二を忘れられなくて悲しそうだったけど、そこが素敵で可愛くて、凄く楽しかった。再会して一緒に晩御飯食べて、一緒に眠って、起きたら百目鬼さんの眉間にシワの寄った顔があって、一緒に朝食食べたり、付き合って、月に一回デートに連れてってくれたり。
僕にとって初めてのことばかり。
それこそ、夢のような日々だった…
…だけど、自分でダメにしちゃった…
泣きたくないのに涙が溢れる
ふふふっ。泉が知ったら怒られちゃうなぁ…。
残ったのは、壊れた腕時計と、羽根籠のネックレスとキーホルダー。
楽しい思い出…
あれから5日
いつの間にか、カレンダーが捲れてた。
ついこないだまで梅雨だと思っていたのに、もう7月になっていた。
色々あり過ぎてカレンダーを意識する暇がない。
百目鬼さんは、病院に一度も来てない。
きっとこないだろう。
終わりだ、要らないと言ったのだから、来るはずもない。だけど、薬で混乱した中での出来事に、現実味は薄い。 だけど、現実を突きつけるように、百目鬼さんからもらった腕時計が壊れて時を刻まない。
きっと、もう百目鬼さんに会うことは出来ない。
清史郎「優絆、もう食べないのか?」
ぼーっとしていたら。清史郎さんに優しく問われた。
僕は笑えてるだろうか?
ゴマかせてるだろうか?
意識して口角を上げてみる。
目の前のテーブルに、半分も減ってないお昼の食事が残ってる。
マキ「病院の食事って美味しくない」
清史郎「我儘を言うものじゃないよ、そんなんじゃ、元気になれないよ」
清史郎さんが、僕の頬に触れた。
優しく撫でてくれるその手は、ずいぶんシワが増えてて、清史郎さんとのことがずいぶん昔に感じる。
清史郎「病院の食事は栄養がバランス良くなってるんだよ」
小さい子に言い聞かすように、優しく言ってくれてるが、正直、食事が美味しくないというより、味のないガムを口に入れてるようで、箸が進まない。
マキ「じゃあ、もう少しだけ…」
美味しくない、味がしない…
なんか甘いものが食べたい…
泉…今日は来るかな?
清史郎「優絆、退院したら、一緒に住もう。成人するまでの少しの間でもいい。部屋はお前の望むどんなものでも用意する。部屋に内鍵をつけても構わない、こんな事があったんだ、私にお前を守らせてくれ」
清史郎さんの真剣な瞳は、昔と違うように見えた。本当に僕の事が心配なんだろう。何度もこの話を言おうとして、僕の体調を考えタイミングをみててくれてた。
マキ「…」
清史郎「嫌なら、せめて、夏休みに別荘でのんびりするっていうのはどうだい?
…返事は、退院決まってからでいいから…」
答えない僕に、清史郎さんは嫌われてると思ったのかもしれない。別に嫌いじゃない、ただ、特別な人ではなくなっただけ…。
清史郎「優絆、退院したら何が食べたい?優絆の食べたいものを用意するよ」
箸の進まない僕に、清史郎さんが気を使ってくれてる。
清史郎「食べたいものを言ってごらん?」
マキ「…………ハンバーグ…」
清史郎「他には?」
マキ「オムライス…」
清史郎「他は?」
マキ「ミネストローネ、それから…」
清史郎「…」
マキ「デザートに、フレンチトーストが食べたい、ちょっと焦げめのついた一口サイズになってないやつ…」
あの、大きな手が手際よく動いて、大雑把だけどいつも愛情いっぱいの料理。
清史郎「……そうか、良かったそんなに食べたい物があるんだね。退院の日には全部用意するから」
マキ「うん」
2度と食べられない…。
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