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17〔裏番外〕ゆくえ……
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マキが、俺にプレゼントする為に購入したのに処分を依頼した腕時計は、姫香さんのお陰で俺の元に届いていた。
俺がマキにプレゼントした青い文字盤の腕時計に似せて、俺用に、シックな大人の男向けの渋いデザインになっていた。
俺は、この腕時計が、マキにとって重要な意味を込めた腕時計な気がして、マキにこの話題を聞くかどうか悩んでいた。
マキは、俺がプレゼントした腕時計を肌身離さず付けている。
心理学の世界では、腕時計は〝独占欲〟を象徴するものらしく。俺に独占されたい、狂うほど愛されたいというマキは、俺からの腕時計を死ぬ程喜んでいた。
俺は、腕時計にそんな意味があることを知らずにプレゼントしたんだが…。マキは、俺の分身のように愛でていたと、水森泉が言っていた。起きてる時も寝てる時も身につけ、唯一外す風呂に入る時は、本当に名残惜しそうにしてる。
今更だが、よく考えると、俺がプレゼントした羽根籠ネックレスなんかは風呂場にまで付けて入り、外してるのを見たことがない。
なぜマキは、こんなに物に執着するんだ?
そう感じたのは、滝本から救出した時だ。
俺は、マキが喜べばと腕時計をプレゼントしたのに、マキは、腕時計のためにその身を犠牲にしようとした。俺はそれに腹が立ち、腕時計を投げつけて壊したら、俺が居なくなってから、マキは、賢史の前で泣き崩れて号泣した。
頑なに人に弱いところを見せたがらないマキが、気を許したことのない賢史の前で壊れた腕時計握りしめ、泣いていたと…
マキはいつも、俺に一番弱い部分を見せない。
それがずっと嫌だった。
マキが弱いところを見せるのは、二人いる。
水森泉…
修二…
その二人だけでもかなりきてたのに…
よりによって
奏一…が加わった。
俺は、マキが大切だった。
だから手放した。
…怖かったんだ。
マキを、壊してしまいそうで…
独占欲と嫉妬で窒息させて、俺の狂愛がマキを喰らい尽くしそうで…
怖いんだ…
マキが俺を好きだと言ってくれてる内に、自由にしてやらなけりゃ、俺はきっと、修二にした様な酷いことをマキにしちまうかもしれない…。
だから、水森泉や修二に返したのに…
マキは、俺の知らない間に、何ヶ月も前に腕時計を買っていた。
未成年のくせに、オーダーメイドでかなり金のかかってそうな腕時計。しかも俺のプレゼントした腕時計をモチーフにしてるって…
明らかに、気持ちが篭りまくった品物だろ。
マキは、腕時計には独占欲や、相手と同じ時を刻みたいといった意味があると言っていた。
なら、マキは、その意味を、この腕時計に込めたんじゃないかと思う。
別れを切り出したのは俺なのに、手放さなきゃよかったと後悔して、腕時計を箱から出す事も捨てる事もできずにいた。
帰ってくるはずのない、マキを待ちながら…
そんな時。菫ママとむつに仕組まれて、マキと再会した。
そこでショッキングなものを目の当たりにする。
マキが奏一に懐いてた。
マキの相手が奏一になるかもしれないと思った時、俺は抑えきれないほどの嫉妬と悔しさに震えた。
奏一は、俺の認めた男だ…、奏一なら、マキを大事にできるし支えてやれる、マキにとって奏一は、きっと理想の相手になる。奏一は俺より優しいし、厳しいとこもあるが誰より誠実で、何もかも包む包容力があるし、奏一がマキを好きになったら、マキは大事にしてもらえる、きっと幸せにしてもらえる。そう思った。
と、同時に。
悔しくて悔しくて仕方なかった。
俺は、マキを泣かせてばかりだ…
俺は、マキを悲しませてばかりだ…
俺は、マキを貪って喰らい尽くす。
なのに…
〝マキが好きなのは俺だ!マキは俺のものだ!〟
そう思っちまうほど、俺の頭はどうかしてる。
マキが作った腕時計。
それを見てしまったら、別れたマキを取り返したくて仕方なかった。だが、俺には大きな罪があるし、マキを大事にできる自信もない。マキなら、俺を止められるんじゃないかとも思ったが、俺は、止まらなかった。獰猛な猛獣はいつもマキを狙ってる。
せめてそれが治って奏一にマキと付き合いたいた宣言してから、せめて、マキを狙う犯人を捕まえてから迎えに行きたいと思っていたが。
マキは、再び俺に好きだと言った。
俺の全部を独占したい、一番になりたいと…
我慢の限界だった。
どんなに突っ撥ねても俺を好きだと言ってくれる存在、どんなに忘れようとしても消えなかった存在、俺に、独占されたいと言いながら、俺を独占したいと言うそんな存在は、マキ以外存在しない…
そう思ったら掻っ攫ってた。
あれから毎日マキと肌を重ねてる。
マキを独占してる。
俺は我慢もせず、マキを貪って独占して独り占めして…それでもマキが笑うんだ…。幸せそうに恥ずかしそうに…。しまいにゃ監禁してほしいとまで言う始末で…。
薔薇色って言葉が頭をかすめるほど馬鹿になってる。
だが…
俺は忘れてない。
マキは、怯えてる。
笑顔の下で、いつ俺にまた捨てられやしないかと…
時々、不安げな顔をする。
俺は忘れてない。
マキを傷つけ泣かせたことを…
俺は、鈍感だし、上手い言葉をかけてやれず誤解させる。
だからずっと考えた。
マキが作った俺への腕時計。
もし、マキが再び必要だと感じて問い合わせたら、店には取り置きしてあると言ってほしいと言ってあったが、店から連絡はない。
マキは、腕時計を処分した時のままだ。
だから、
考えて考えて、考え抜いて決めた。
姫香さんに協力してもらう。
姫香さんが姉と誤解されて店の人に引き取りを相談された事実を利用して、姫香さんが引き取った事にしてマキに渡してもらう事にした。
あの腕時計は、マキにとってとても重要な品だ。〝俺と共に生きたい、同じ時を刻みたい〟と願いが篭ってる物だ。
マキの手で、俺に手渡すことに意味がある。
俺が逆の立場だったら、そう思う。
俺が悩んで苦悩してた間。
マキも同じように…いや、それ以上に悩んで苦しんだ。本音を明かさないマキの代わりに、むつが乗り込んできたり、修二が怒ったり、華南に諭されたり、奏一が俺の目を覚まさせたり。俺は、自分の事ばかりで、マキのことを本当に分かって無かった。マキは、食事が喉を通らないほど思い詰めて、でも、もう一度俺に好きだと言ってくれた。
その勇気は、計り知れない恐怖と隣り合わせだったに違いない。
マキが怖いとつぶやいた時。
俺も怖いと言った。
俺たちは、何処か似たものを持ちながら、お互いの怖さを知ることができたのに、俺がマキの恐怖に目を向けなかったばっかりに。マキに怯える気持ちを植え付けた。
その証拠に…
俺が頼んだ腕時計は、姫香さんからマキに手渡されて、一週間ほど経過した。
だが、いまだにマキが腕時計を持っている。
姫香さんからマキに手渡したら、直ぐにマキの手から貰えると思っていた…
マキは、あの想いのこもった腕時計を、俺に渡すことが出来ないほど、俺との未来に恐怖心があるのか…
それとも…
その手で捨ててしまったんだろうか?
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