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30〔裏番外〕ゆくえ……
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3日目。
難航するだろうと思われた人探しは、意外にも順調に足取りを掴んでいた。
仕事といいプライベートといい、烏磨の仕事の速さのおかげだろうと思うが、色々風向きがいい。俺にも運が向いてきたか?
俺は昔から運のない男だ。
くじ引きは当たらないし、いろんな意味で運から見放されていた。
それもこれも全部、マキと出会うためだというなら、それはそれでいい気がする。
マキみたいに俺の全部を許そうなんて奴は、この先一生現れはしないだろう……
マキの手から渡されない腕時計……
そのことが気に掛かりながらも、俺は……
その日の夜、思いの外早く全ての調査が終わった俺は、電車に飛び乗った。
早く帰って烏磨から受け取りたいものがあったので、駅から烏磨の自宅まで走っていた。
烏磨「驚いた。走ってきたんですか?」
百目鬼「まさか、暑かっただけだ」
額にジワリとかいた汗を笑われ、誤魔化してみたが、烏磨はお見通しだと鼻で笑う。
烏磨「フッ、今は10月ですが…」
百目鬼「ッ…………。ん?」
その時、烏磨の部屋の中からフワリと甘い香ばしい匂いがしてきた。
百目鬼「なんだ?焼き菓子でも作ってるのか?」
烏磨「ああそうだ、茉爲宮優絆ちゃんのお土産に持って行きますか?」
百目鬼「お前が作ったのか?」
訝しげに眉を寄せると、烏磨はそんな訳ないでしょうと笑う。玄関を良く見ると、見覚えのある靴が置いてあった。
百目鬼「は?…雪哉?」
烏磨「そうです、雪哉さんです。今丁度私のリクエストした焼き菓子が焼き上がるところです」
百目鬼「いつの間に…そんなことに…」
キツイ物言いの多いい烏磨を雪哉が好むのは分かるが、烏磨が雪哉をってーのが想像できずに驚きを隠せない。
烏磨「〝そんなこと〟にはなってませんよ。貴方が引退したお菓子作りの試食係を私が引き継いだだけです。まぁ、一回見学して欲しいと言われたので自慰を見ていて差し上げましたが」
百目鬼「はぁあッ!!?」
意味がわからねぇー!!
烏磨のぶっ飛んだ話に頭が痛い。だが、俺も人のことは言えない、いや、俺の方がタチが悪いか。
いやしかし…これをマキが聞いたら喜んで飛んできそうだ。
マキ『お相手見つかったの雪哉さん!僕がお手伝いしてあげるね♪♪』
勘弁してくれ…
俺がげんなりしていると、部屋の中からエプロン姿の雪哉が慌てて走ってくる。
雪哉「神ッ!?」
百目鬼「雪哉…、どうして烏磨なんか…」
雪哉「ええッ!?何々!?烏磨さん何を神に言ったの!?依頼人に書類を渡すだけって言ってたじゃない!!」
烏磨「渡しますよ、渡す前に世間話を」
百目鬼「ハードな世間話だな」
雪哉「ヤダヤダ!マジ何!?僕と烏磨さんはお友達なんだよ!フツーのお友達!!」
烏磨「普通のお友達…。だ、そうです」
烏磨は、含みを込めた言い方をして、まるで雪哉がそう言うからそういうことにしておきましょうとニッコリ笑う。
雪哉「ええッ!!」
烏磨「クックックッ。雪哉さんは本当に愉快なパティシエさんですね」
完全に、雪哉がオモチャにされてる。
雪哉は雪哉で、そんな扱いであわあわしてるが、内心はきっと喜んでやがるに違いない。
烏磨は癖のある奴だが、そこさえ目をつむれば仕事のできる敏腕弁護士だ。ずる賢いし負けず嫌いだが、いい奴だし、俺は苦手な部類の人間だが…、勉学とユウモアを兼ね備えた烏磨から学ぶことは多いい。烏磨は悪戯っぽいところがあるから、雪哉が純粋に反応するのが面白いんだろう。だが、烏磨の奴、雪哉を相手する気があるのか?
…雪哉がこの先悩むようなら、マキに話してみるか…。俺じゃ相談相手にならないだろうし、マキは雪哉が好きだからな……。あのマゾ雪哉がマキを襲うことはないだろうし……。何より、俺とマキとのことで世話になった…。
そんなことを考えながら、雪哉の作った焼き菓子を4個お土産に持って、自宅に向かった。
今晩マキは修二の家だ。明日は修二の家から大学に行き、夕方帰ってくる予定。
むつの言葉を気にした訳じゃないが、帰ってくるのが1日早まったのをマキには伝えなかった。奏一がマキがいるから今晩も泊まるとマキからのメールに入っていた。奏一も忙しい身だ、マキのために時間を作ってくれて、マキも奏一と過ごせるのを楽しみにしてる。
腹違いの兄である成一に甘やかしてもらえなかった兄への憧れを、奏一に求めてるんだ。
俺も男だ、1日や2日、マキの好きにさせてやろう、それが余裕のある大人の男ってもんだ!!
………。
うぅ……。
我慢我慢…。
………。
ぅぐぐぐ……。
んガーー!!イラつく!!
俺にもっと、奏一みたいな包容力があれば…
こんなことには………
ングググ……。
道行く人が、俺の様子に見て見ぬ振りをして足早に通り過ぎる。
ハッとして、眉間のシワを指で伸ばしながら、そそくさと家路に急いだ。
すると、二階の事務所の電気が一部付いていた。もう誰もいないはず、時計を確認したら23時を回っていた。
百目鬼「泥棒?」
警戒を強めて静かに二階に上がり、周りを注意深く見渡してから、音を立てないようにそっと事務所のドアを開けた。
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