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31〔裏番外〕ゆくえ……
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深夜なのに、明かりの漏れる事務所のドアは、施錠されておらず、ゆっくりと開いた。
ドアを開けた瞬間。事務所の中からコンソメのいい香りが漂う。
……は?
そっと覗いた事務所の中は誰もおらず。事務所の部分は電気が付いてなかった。
電気が付いてるのは、給湯室の一箇所だけ。音のしない給湯室を足音を立てないようにそっと覗き込む。しかし、そこも誰もいなかった。
ただ、給湯室のガスコンロの上に、見覚えの無いオレンジの鍋が置かれているだけ。
火が止めてあり、蓋がしてあって中身は見えない。鍋の大きさは20㎝くらいだろう。
鍋蓋に触れてみると、熱くて、さっきまで火をつけていたんだろうことが分かる。だが、見回しても、作り手の姿は無い。
百目鬼「一体誰だ?鍵は全員持ってるし…」
自分の他に、杏子、檸檬、矢田がシュアしてる家に一本、誰でも持ち出せる。
取り敢えず杏子に電話してみようと思った、その時。俺の視線は、コンロの横のお茶っ葉の入れ物の後ろで止まった。
お茶っ葉の容器の後ろに見慣れない茶色の紙袋が置いてある。普段俺はあまり給湯室には入らないが、買ったりしたものは、レシートなどでチェックしてる。
不思議に思って手に取ると、中身はズシッとしていてコンッと中でガラスの音がした。
百目鬼「なんだこれ?」
紙袋を開けて中身を出してみると、それは箱に入った栄養ドリンク……に、似ていたが……
箱の文字を読んでみると…
百目鬼「……ゼツリンマムシドリンク…」
…ゼツリン…
…絶倫
ッ…
ハァアアアーーーーーーーーッ!!??
驚きと羞恥と苛立ちの大絶叫。
そして紙袋にはまだ…
さらにもう一本。
百目鬼「スッポンでボッキン!!?」
なんだこりゃ!!
全部、性欲剤じゃねぇーか!!!
あぁんの大バカ野郎が!!!
こんなふざけた事をするのは1人しかいない!!
『え?…挿れてくれないの?』
とかなんとか言ってやがった、魔性のド淫乱ッ!!
四日間離れると話した時、戻ったらセックスしたいと言っていた。だが平日だから最後までしたら、歯止めが利かないと言い聞かせたのに!!
あの馬鹿は〝また〟食いモンに混ぜてセックスに持ち込もうとしてるのか!?
マキの奴!薬を使うのは止めたのかと思ってたが、今度はこんなもん混ぜて食わそうとしたのか!?
案の定。鍋の中には野菜たっぷりのスープ。
これに混ぜて俺に食わそうとしてたのか?!無理だろ!味でバレバレだ!あいつは本当にどうしようもねぇな!!
あったまった鍋がここにあるということは、マキがこの事務所に帰ってきてるってことだ。俺には、修二の家に2泊すると、昼間も奏一が泊まるとまでメールしてきていたのに、あれは全部嘘だったことになる。
性欲剤入りスープに、嘘のメール。
貰えない腕時計。
マキの事を信じていこうと決めたのに、その気持ちが苛立ちで、ぐらりと揺れる。
得体の知れない感情がふつふつ湧き上がって、増殖する。
セックスが悪いとは言わない。
マキがセックス依存症なのも知ってる。
でも、言葉にして話し合うという文字は、マキの中に存在しないのか…
マキと見えないものを育てたいと思うのは、まだ早いのか?
見えないものを信じられないマキが、形にした腕時計は、もう、俺には渡す気は無いってことか?
クソッ!!
性欲剤の入った入れ物をゴミ箱に投げ捨ててやった。
酷く苛立った感情をぶつけるように…
そして右手に持っていた、烏磨から受け取った書類の入った鞄を強く握りしめる。
檻の中の獰猛な猛獣が爪を立て、牙を向く。
湧き上がる得体の知れない感情を押し込めようと必死に落ち着こうと目を瞑るが…
キレない…。
キレたくない…。
キレたらマキを傷つける!
だが、得体の知れない感情は増殖して侵食をやめてくれずに込み上がって爆発しそうで…
マキ「ギャァッ!!」
震える怒りにも似た感情を抑えようと佇んでいたら、マキの声がした。
マキの悲鳴で目を開けると、そこには、信じたくなかったマキが、給湯室に現れた。
っと、いう事は…
このスープも、性欲剤も、マキが用意したもので。修二の家に2泊すると言ったのも嘘ということになる。
マキ「ど、どど、百目鬼さんッ!?なんで?帰ってくるの明日じゃ…」
動揺するマキが、小さな買い物袋を背中に隠した。
これはもう、決定的だ。
漏れ出す苛立ちが、マキを睨みつけ、低い声で問いただす。マキは俺の声で、その危険さを感じ取ったのだろう。その瞳に緊張が走った。
百目鬼「…それは、俺のセリフだ。今日も修二の家のはずだろ。奏一が一緒に泊まると昼間俺にメールしてきたよな、俺に嘘ついたのか…」
マキ「ッ…、ごめんなさい」
俺の態度がキツイのは自覚してる。
だが、止められない。
百目鬼「…この鍋は、お前がやったのか」
違うと。
言って欲しかった。
マキ「…………はい」
最後の希望が打ち砕かれた。
たかだか性欲剤入りスープを作っただけだ、そう言い聞かせても、俺ってやつはそう簡単に整理できない。
マキを信じてた。
俺と心を通わせてくれると信じてた。
やっと一歩踏み出そうとしたんだ。
そのはずだったのに…
百目鬼「その背中に隠してるのはなんだ」
マキ「ッ…コンソメ…。弄ってたら、薄くなっちゃって……」
百目鬼「チッ。嘘ついてまでこんなもん作りたかったのか、帰ってきたら俺に食わそうとしてたのか?」
マキ「…………………………」
俺の言葉にマキが反論しない。
反論ところか、俯いてちぢこまる。
百目鬼「そうなのか!」
性欲剤を俺に飲ませてまで、セックスしたかったのか!話し合って、お前の体のために減らしたことが、気に食わなかったのか!
どうなんだ!マキ!!
俯いて震えるその身から、か細く途切れがちの掠れ声が絞り出された。
俺の聞きたくない言葉……………
マキ「………ごめ…ん…なさい…」
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