アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
お兄ちゃん
-
奏一「あー!クソ!!」
苛立ちが頂点に達した奏一が鳴らない携帯電話をガン見したまま不機嫌に吠えた。
隣で一緒にお酒を飲んでいた忽那彩が、優雅な仕草でグラスをテーブルに置き、荒ぶる奏一に声をかける。
忽那「少し落ち着いたらどうですか?」
奏一「落ち着けるか!落ち着ける訳がない!二度目だぞ!何故いちいち俺に許可を求めるんだ!!許可を求めた割に連絡の一つもよこさないとかどうなってんだ!!」
忽那「それは…、プロポーズしたんですから、そのまま熱い夜を過ごしたのでは?」
忽那がサラッと答えると、想像したらしい奏一は、赤面して激怒した。
奏一「あのロリコン野獣がッ!!今度という今度は全身の骨を粉砕してやるッ!!」
忽那「おやおや、それは大変だ」
奏一「何がマキが逃げ込んだら俺を容赦なく病院送りにしてくれだ!!言われなくても今度会ったらギッタンギッタンのグッチョングッチョンにしてやるッ!!」
両手両足を使って殴る蹴る踏みつける、と、殺る気満々の奏一は、お酒が回っていて、いつもより荒れていた。
長年の付き合いの忽那は、横で見ていて奏一の気持ちも酒癖も手に取るように分かっていたが、いくら飲み過ぎだと止めても、今日の奏一は言うことを聞かなかった。
忽那「はぁー。今更強力なライバル出現とは…。修二が家を出て手が離れてせっかく…」
ボソリと呟き、困ったため息をつく忽那は、もう、二ヶ月以上前から危機感を募らせていた。
奏一「彩さん俺の話聞いてますぅ?」
忽那「聞いてますよ。百目鬼を葬るんでしょ?」
酔った奏一が繰り返し口にするのは、愛する弟の修二の名前だけだった。しかし、二ヶ月ほど前から、奏一の口から、修二以外の名前が頻繁に現れる。
忽那「しかし、そうなると、大好きな百目鬼さんを傷つけられて、また、マキさんが泣いてしまうんじゃないですかね?」
奏一「ッ……。ぅわーん!!」
酔っ払い奏一がテーブルに突っ伏して嘆き悲しむ。
こんな光景も、ここ二ヶ月当たり前の光景。
奏一「マキはどうしてあんな奴がいいんだぁ!!」
忽那「…好きなんだからどうしようもないじゃないですか」
奏一「彩しゃんの意地悪ぅーーッ!!」
酔うと少しだけ子供っぽくなるこんなシーンも、ここ二ヶ月マキの話ばかり。
今までは可愛らしいと思えていたが、マキの名前は面白くはなかった。せっかく弟離れが順調だったのに、また、お兄ちゃんの顔に戻ってしまった。
だから、少し意地悪してしまう。
忽那「泣きたいなら胸をお貸ししますよ」
両手を広げてにっこり微笑むと、奏一は忽那を警戒して訝しげに眉を寄せた。
奏一「…」
忽那「うわぁー、すっごく嫌そうな顔…」
ニコニコしながら奏一を眺める忽那が、手を引っ込めずにそう言うと、奏一は困った顔をする。
奏一「…嫌っていうかぁ…」
忽那「嫌なんですか?」
奏一「嫌じゃないけど…、危険?」
忽那「危険?」
奏一「うーん」
頭を抱える奏一は、忽那と羚凰が告白したあの日から、少し変わっていた。
接し方について色々考えてるみたいで、忽那や羚凰を意識して行動していた。
自分に好意を持っていて、そして、その先も考えてる男としての意識。大好きな弟の修二がゲイなために、人一倍接し方に気を使ってる奏一。忽那と羚凰の告白を断ったが、その後も普通に接するということはできず、今までは普通に膝枕してもらったり、頭を撫でられたり撫でたりしていたが、その行動の意味を考えるようになっていた。
忽那としては、予定通りで、このまま少しづつ意識させて好きにさせるいくつもりだったが…
突然、マキという小悪魔が降って湧いてきた。
その時の奏一時たらパニックになって大変だった。
傷心のマキを元気づけたいと毎日通うから、忽那や羚凰や谷崎との飲み会はオールキャンセル。まさにマキにゾッコン状態。
しかも百目鬼が関わってるから冷静になりきれないし、マキと百目鬼が付き合ってると知ってかなり怒っていたが、それ以上に修二に怒鳴られたと落ち込んじゃって大変だった。
せっかく意識させたのに…
奏一はマキのことがあって色々悩んでたのに、今までこういう時に甘やかす役は忽那の担当だったのに、奏一はそれを躊躇した。
その時ばかりは告白を早まったと後悔したが、ゆっくり時間をかけて、またこの距離まで戻した。
忽那「そうですか、私は悩みを抱えた奏一を襲うような危険なオオカミだと思われてるんですね…」
奏一「ち、違ッ…、だって、彩さん俺のおでこにキ…キ…、…ッ…するから…」
羞恥に真っ赤な奏一を可愛いと思いながら、忽那はニコニコさらなる意地悪をする。
忽那「ダメなんですかぁ?」
奏一「だっ、ダメでしょッ!」
忽那「ダメなんですかぁ⤵︎」
忽那が残念だとオーバーに肩を落とすと、奏一がギクっとして慌て出す。傷つけたんじゃないかと敏感になってる奏一はちょっと可哀想で可愛らしい。
奏一「ご、ごめん彩さん!気持ち悪いとかじゃないから!それは断じてないから!」
忽那「分かってますよ、奏一は優しいですから」
奏一「優しいって…、俺優しくないし…」
忽那「優しいですよ。だから、頼りにされてるじゃないですか、そう言う悩みをも持った修二もマキも、貴方が分け隔てなく接してくれるし悩みも聞いてくれるから、頼りにして甘えてるんじゃないですか」
奏一「頼られてるのかな…?修二はあいつらがいるし、マキも、別に相談とかしてこないし…」
忽那「私はマキには会ったことありませんから分かりませんが、修二に似てるとおっしゃってましたね。修二が心に傷を負ったら、彼は一緒にいる人間を選ぶタイプです。本当に心を許した人間、または、理解してくれる人間の側を好むと思いますよ」
奏一「…理解…。出来たのかな…?。マキは何も話さない。どん底にいた時の修二と同じ目をして笑ってた。俺、何も聞いてやれなくて、ただずっと百目鬼の思い出話をしてやって、定食食わしてやることしか出来なかった…」
忽那「…それが、一番良かったんじゃないですか?修二みたいなタイプは、心の中への介入を嫌がります。修二とむつのような関係なら強引に行っても問題ないかもしれませんが、話を聞いてる限り、マキはそれすらも掻い潜って逃げ出すほど言葉が上手いのでしょう?」
奏一「…あぁ…、悟ったみたいなこと言って、なんで返したらいいか迷う…。それにマキは、俺が同性愛に戸惑ってるのを知ってたから…、言いくるめられちまって…。だから、マキが少しでも元気になるように、押すでも引くでもなく、隣にいて頭を撫でてやるくらいしか出来なかった…」
忽那「その時の対応が間違ってなかったから、今も好かれてるんでしょ?」
奏一「…間違って…なかったのかな?」
忽那「貴方は、〝あの時〟も〝その時〟も間違ってませんよ」
忽那は知っている…
奏一の心には、解決した今も、深く残ってる。
〝あの時〟何も出来なかった事。
でも、奏一は間違ってない、何も出来ないでも、側にいたその事が、一番大事だって事…。
見守る事が一番大変でしんどい事だと、奏一は分かってない。奏一は、一番大変で一番大事な事をいつも自然にしているのに……
それが、修二にとってどれだけ救われた事が…
マキにとって、どれだけの癒しだったのか、結果が出るのは、長い時間をかけて全て終わって少しづつ分かる事。そう言う即結果に結びつかない一番根気の要る事を、奏一は迷わず選べる素晴らしい男なのに…
奏一「………………………。彩さん、やっぱ膝かして…、頭使いすぎた」
忽那「喜んで」
奏一「…おでこは…無しで」
忽那「はいはい…」
そういう、男らしくて素晴らしい人間で、可愛らしい人。
ーピロン♪
ーピロン♪
奏一「わっ!メール!修二とマキからだ♪」
忽那「…」
もう少しで、膝枕でナデナデできるところだったのに、その手は行き場所を失った。
奏一は、大好きな弟たちのメールにご機嫌で夢中…
忽那の道のりは…長そうだ………………
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
885 / 1004