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「からかいたい」
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それは、長年のポンコツ親友が、やっと人生のパートナーと添い遂げる覚悟をして、プロポーズを成功させたというメールだった。
賢史「やれやれ、翌日報告かよ…。昨日はラブラブエッチッチかぁ?。リア充が…」
俺、本豪賢史(ほんごうけんし)
ポンコツ親友、百目鬼神。
昨日は、こちとら親友のプロポーズに無駄にソワソワして眠れなかった。そのせいで今日は仕事中大欠伸の連発。
口で文句を言いながら、口元がついついニヤついてしまうのは、きっと嬉しいからだ…。
神の過去を知っている俺は、神がどれだけ苦しんで、どれだけ悩んでいたのか知っていた。
まぁ、神の過去は、同情できるもんじゃないが、加害者と被害者の関係は、本人たちでしか分からないものがある。償いも謝罪も、和解も再出発も、本人たちでしか成立しない。
俺はそんな人間関係を、仕事柄何度も見てきた。
今日はついてない。
親友は大事な報告が翌日報告だったから寝不足だし、昼飯買おうとしたら財布を菫ママの店に忘れてる事に気がついたし…。
わざわざ菫ママの店に取りに行くとか面倒くさいが、昼飯買う金が無い。あー、ねみぃし腹減ったし…。
菫ママの店に向かっていると、道に迷ったかキョロキョロしてる男がいた。
男は帽子を目部下に被り、大きな紙袋を抱えてなんだかコソコソしてるようにも見えた。
不審者。
久しく見なかったが、神に危害を加えようとしてる愚か者共か?、に、しては、細っちいが…、もし神に危害を加えようとしてるヤワラなら容赦しない。
賢史「そこのお兄さん、何か探してるのかな?」
俺が後ろから話しかけると、男はビクッとして振り返る。男は若い青年、神をどうこうしにきた奴には見えなかったが、男は、〝百目鬼事務所〟を探してると言ってきた。
俺は最高の笑顔でめいいっぱい警戒して、男を観察する。
賢史「百目鬼探偵事務所ならダチがやってるから知ってるけど、あんた依頼人?」
メイ「あ、違います。私、椎名と申します。百目鬼さんとは仕事仲間で…、今日も仕事で…。あっ、いつもは車で来るんですが、今日は電車で来たら、道がわからなくなってしまって」
椎名と名乗った男は、表情から嘘を言っているようには見えなかった。真面目そうで柔らかい印象の若者、恐らく20代半ば?
神をどうこうは無さそうだな…
神はやっと幸せを手に入れたんだ、ついつい過敏に反応するのは仕方ないよな…
案内するよと言うと、椎名さんは〝ありがとうございます〟と、深ぶか頭を下げた。
メイ「も、もしかして刑事さんですか?」
賢史「ハハッ、私服なのによく分かりましたね」
メイ「百目鬼さんに、知り合いに頼りになる刑事さんがいるって聞いてました。それに、独特の強そうなオーラが…」
椎名さんは、なんだか嬉しそうにそう言った。
賢史「独特の強そう?怖そうじゃなくて?」
メイ「あっ!ごめんなさい!気にしないで下さい!」
真っ赤になって慌てる椎名さん、言いづらい何かを考えたみたいで、ここ後はずっと顔を赤くしたまま縮こまっちまった。なんだか雪哉と同じの匂いがする。
百目鬼事務所の前まで来ると、洗車中の矢田がいて、椎名さんが本当に仕事で百目鬼事務所に来ることになっていたと確認が取れた。
メイ「ありがとうございました!」
賢史「いえ。帰りは迷わないように、杏子さんに地図書いてもらって下さいね」
またしても、神の敵かもと敏感になっちまった…。
矢田「良かったすね椎名さん、賢史さんこんな見た目で冴えない感じて胡散臭くて顎髭なんか生やしてますけど、かなりキレ者刑事さんなんすよ!顎髭剃ったら結構イケメンなんすよ!頼りになる賢史さんに会えて良かったっすね、会えなかったらココにたどり着けず遭難してたっすね」
賢史「よし、お前が普段俺をどう思ってるかよーく分かった」
矢田「とっても頼りにしてやすよ!ヨッ!名物刑事!!」
ニコニコ嬉しそうな矢田の太鼓持ち。こいつに裏が無いのは分かっているが、分かっていても腹立たしい時はある。しかも褒めれてねーし、名物刑事ってなんだ!物が余計だろ!
矢田「椎名さんもそう思いますよね、賢史さん頼りになってカッコいいっすよね」
同意を求められ、椎名さんはかわいい者を見るように矢田の話を微笑ましくきいて、その優しい瞳で俺を見た。
メイ「ふふ。はい、とてもカッコいいと思いますよ。顎髭お似合いですし、キリッとしててキレ者だっていうのも納得ですし、犯罪は見逃さないって何でも見通しそうな目とか凄く素敵だと思います」
椎名さんの素直そうな瞳が柔らかく細められ、そんな風に褒められると何だか照れくさい。
俺の見た目はムサイおっさんだ。それをなかなか初対面で褒められることはない。
椎名さんは、先生様所の事務員で、マキの世話を焼いていたらしい、今まで何度か百目鬼事務所に来ていたらしいが、俺は今回始めて会った。
「これからも会うことがあると思いますのでよろしくお願いします」と、丁寧にお辞儀され、俺もこちらこそ、と深ぶかお辞儀して、百目鬼事務所を後にした。
矢田と椎名さんと別れ、財布を取りに菫ままの店に向かう。ついでに親友の朗報を伝えてみた。
菫ママ「きゃー♡プロポーズぅぅう!神の癖に素敵♡」
神のプロポーズを話すと、ずっと心配してくれてた菫ママが瞳をキラキラさせながら、野太いガサガサの酒焼けした声で大喜びしてくれた。
今は昼間で店は閉店状態。菫ママも可愛らしいがバカでかいネグリジェを着て、俺よりでかい体をブリブリくねらせ女の子みたいな仕草で床を軋ませる。
賢史「菫ママ…、いくら自分の薬指を眺めても菫ママには指輪の送り主はいないだろ」
菫ママ「失礼しちゃう!私モテるんだからぁ!こないだなんか…」
賢史「いやー、忘れたサイフを預かっててくれてありがとね」
菫ママ「無視!無視したわね!サイフ返してあげないんだから!」
愉快な菫ママとのやりとりはいつも楽しいが、今は仕事中に寄っただけ。菫ママの損ねたご機嫌をとって、サイフ返してもらい、仕事に戻ろうとした。
菫ママ「そうだ賢史ちゃん」
賢史「なんすか?」
菫ママ「神もやっと一歩踏み出したんだし、今後はあんまりからかっちゃダメよ」
からかってる……か…。
菫ママ「あんた、自分が寂しいからって…」
まぁ、構ってくれなくなったのは寂しいけど、俺だって出会いがないわけじゃない。出会っても、続かないんだ。職業柄ね…
賢史「菫ママ、からかうなってーのは無理だね」
菫ママ「もぉー、神のこと一番よく知ってるはずの刑事さんがそんな意地悪してぇー。また拗れたら可哀想でしょ、マキちゃんもあんたが思ってるよりいい子だし傷つきやすいのよ。なにが気に入らないのか知らないけど。コントロールしようったって出来ないんだから、やめなさいよそういうの、回りに回って自分に返ってくるのよ?」
賢史「…マキがってーのはもう分かってるよ、神を守るためにナイフの前に飛び出すバカだし、神のことが死ぬほど好きだってーのもな、そこは、分析ミスを認めるよ。わりぃーがからかうのはやめねぇーよ」
菫ママ「馬に蹴られちゃえ」
賢史「ハハッ、菫ママ分かってねぇな。
神はさ…
〝やっと、からかってもらえるようになった〟
んだよ。だから良いんだよ」
経験するべき時期に、何も経験できず。
今まさに急速に経験値を積んでるんだ…
ニヤリと笑った俺のこの楽しさが、誰に理解されなくても、俺が分かってるからいいんだ。
菫ママ「…やだわ、本当に嬉しそうに笑っちゃって…」
賢史「というわけで、これからもバリバリからかって邪魔して、女王様が神に相応しくないならとことんいびるからぁあー、菫ママまたなぁー」
菫ママ「ちょっとぉー!マキちゃん虐めんじゃないわよぉー!あんたなんか馬に蹴られて失恋すりゃ良いのよ!!」
そしてこの後、菫ママの呪いが俺に降りかかる。
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