アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
俺たちに射す斜陽〜華南〜
-
シャワーの音に混じって、ボソボソ話す、むつの声が聞こえてきた。
むつ『……本当に嫌なら『嫌だ』って言え、言わないなら、全部肯定したってことにするからな?』
修二『…』
むつ『返事!』
修二『ぅ…はい』
むつ『よしよし。そんで、これからは、俺と華南が『好きか?』って聞いて『好き』って単語以外『うん』とか『僕も』は全部『嫌いだ』って言ってることにするから』
修二『え!ぇえ〜それは…』
むつ『自業自得だろ?黙ってんのは恥ずいからかと思ってたら、性欲処理にまで発展してるなら、もう言わすしかねぇじゃんよ』
修二『だから、それは誤解で、僕ちゃん言ってないし』
むつ『ほらほら、チャンネル切り替えるなよ、俺もう覚えたからソレは通用しないからな!』
修二『チャ、チャンネルって何?…んんぅ!んー…ぅ…んん』
むつ『んー、チュパッ。』
修二『ッむつ、キスしすぎ…唇溶けちゃうよ』
むつ『馬鹿、溶かしてんだよ』
修二『…溶けないよぉ』
むつ『お前、俺とキスすんの好きか?』
修二『……』
むつ『あーそーかぁ、好きかぁ、良かった良かった』
修二『…ぅぅ』
むつ『じぁあ修二からして?』
修二『…ッ』
むつ『ほらほら早く』
修二『…』
むつ『ん……』
修二からキスしたみたいで、むつの小さなくぐもった声に、言葉が途切れた。
2人がキスに夢中な間に、少し2人をドアの隙間から覗く。横から見る2人の体制はさっきと変わらず対面で、むつが修二の膝に跨り、首に腕を回している。そのむつの腰に申し訳程度に修二の手が添えてある。
2人の唇が離れ、むつがおでこをくっつけて、恥ずかしそうに口を開いた。
むつ『………、俺も一つ、打ち明けるから…、お前も一つ打ち明けろ……』
修二『…』
むつ『…お…れ…、…………華南に、…嫉妬してる』
え!?俺!?
俺に嫉妬?!なんで?!
俺も驚いたが、修二も驚いたみたいで目を丸くした。
おでこをつけたまま、視線を落としたむつは、言いづらそうに続ける。
むつ『…お前らいい雰囲気だし、華南は俺と違ってイライラしないじゃん、エロテクあるし大人な余裕あるし、お前が華南に優しい感じで笑ってんの見ると、モヤモヤした。俺には困った顔が多いいからさ…、でも、それって俺のせいだったな…ごめん』
むつ…そんなこと思ってたのか…
むつ『この1間週間で分かった。お前のこと付き合っても変わらないなぁって思ってたけど、本当は、付き合ってから…、随分変わってたんだな、俺がこだわりすぎてた…、華南に怒られたし…』
修二『…むつは何も悪くない』
むつ『お前が幸せそうに笑う顔とか、甘えた顔とか見たくて…イライラしたりしてさ…。照れた顔とか、恥ずかしそうな顔とか、困った顔とか、エロい顔とか、他のやつに見せない顔、色々見せてくれてたんだな。俺、お前の表情をもっと見てたい、だから、許してよ。俺のことまだ怒ってる?』
黙ってたら肯定と取るか…むつにしては考えたな…。これで修二は逃げられない。
少し困惑気味の修二の声が漏れて聞こえてくる。
修二『ぁ……違う……怒ってなんて…無い……違う、あれは…兄貴と喧嘩してて……』
むつ『…そっか…。あっ、華南に言うなよ恥ずかしい…』
修二は知らない…
修二がおかしくなったのは兄貴と喧嘩する前だってむつが気がついてること。
今、むつは修二に嘘をつかれて、視線が下がった。
修二のやつむつがせっかく素直に話してるのに…、このまま嘘を続ければ、そのうち取り返しのつかないことになるぞ…
修二『うん、華南には、言わない』
むつ『…俺の話はお終い、お前は?俺の恥ずかしいところ教えたんだからお前も一つ言えよ』
修二『…』
むつ『はい黙った、お返事はYesになるぜ、さぁ一つ話せよ』
修二『ぅ…ぁ…、ぅぅ』
何かに混乱してる様子の修二。
一体何を悩んで別れることにたどり着くんだ?
修二『……むつ』
むつ『ん?』
修二『僕の…どこが好きなの?』
むつ『え?どこ?どこと言われると悩むなぁ…』
修二『……そっか』
力ない返事に、むつはおでこを離してまじまじ修二の顔を覗き見る。
むつ『おいおい、勝手に自己完結すんなよ、今考えてるだろ!んー、なんだろ全体的に…』
修二『うん、大丈夫…』
むつ『待て待て、だから今…ああ、そうね、空みたいなとこかな?』
修二『そら?』
むつ『そうそう、空。俺らの上に広がってる空。なんでも見守ってくれて許してくれてさ、時には叱るために雷落ちてくる。まぁ、お前の場合、山の空?山の天気は変わりやすいってな』
むつ、全然好きなの理由になってないよ。
むしろ欠点を突き付けてない?
も〜、この二人大丈夫かな?
修二は静かに瞬きして、うつむいた。
むつ『でもさ、登ってみるまで本当の天気は分からないじゃん。俺たち今まで、ずっとそばにいて、お前は快晴ばっかりに見せてっけど、心の中難しい考えばっかで、今までは疲れねーのかな?めんどくさくなんないのかなぁ?って思ってた。自分から話さないんだからワザワザ詮索しなかったし…。ただ、難しくしないで本当の快晴が続けばいいのにとは思ってた』
修二『…』
むつ『修二の心は山の近くにあって、天気がコロコロ変わるみたいに色々考えてて。好きか嫌いか、2者選択すればいいだけなのに、裏だとかなんだとかで4択にも10択にもするし。俺、人の心を察するとか、穏やかにしてやるとか、全然出来なくて。付き合った恋人ならラブラブしたいし、本当は俺だって晴れにしてやりたいけど、山の天気に四苦八苦して、なんかモヤモヤしてる間に、華南がその山をスイスイ登るんだよ、雨風関係なく登るんだよ、悔しいじゃん、俺が先に登ってたのに!俺が空に近づくために登ってたのにさ』
…むつ。
むつ『つきあったから、恋人だからって考えてる間に、お前はお前で何か考えてるのに、何にも言ってこないと思ったら、お前の内面嵐になっちまってるじゃん。……分かるけどさ、お前がそうなっちゃったの、父ちゃんいなくなって、一人で頑張る奏一さんに迷惑かけたくなかったんだろ?』
あっ、そうだ、修二の家、小さい時に離婚してんだっけ?
それで素直になることにポンコツ?
むつ『俺、こんな短気だから、懐の深い人間にはなれないかもだけど、お前が泣かなくていいようにしてぇってずっと小さい頃から思ってた。だから、ちょっとやけになってたのかも、なんで曇るんだ、なんで雨降るんダァって。でもさ、俺が知りたかったのは、それなんだよな。他人に見せる外ヅラじゃなくて、俺と華南にしか見せない顔。俺、俺をずっとそばで見守ってくれてるお前が、何考えてるか知りたかったんだから、知れてる今、焦る意味ないなって。なんでも押し込めて感情表現上手くできないお前にイイ表情が増えるの見てるのが好きかな?』
修二『…』
華南「…」
むつの腕の中でうつむいたままの修二。
脱衣所で天を仰いだ華南。
長々語ったことに気がついて、だんだん恥ずかしくなって顔を赤くした、むつ。
むつ『って、俺、また言わされてるじゃん!なんか恥ずくねぇ?修二ずりーよ……?…修二?…あ!…ウソ…泣いてる?!泣くなよ!』
修二『…』
修二がうつむいて顔を手で覆ったまま動かない。
むつ『うわ!何々!?顔あげろよ!マジ勘弁!俺が泣かすと無いわ!マジやめて!俺自分を殴りたい!』
修二『…ない…。泣いてないよ』
顔を上げた修二は、泣いてはいなかった。しかし…
むつ『…それどんな顔なの?何考えてるの?勘弁して!晴どころか雪降りそうじゃん!』
慌てるむつ。
修二は今にも泣きそうにくしゃりとしわくちゃの顔で微笑んでいた。
修二『…ううん、大丈夫。大丈夫……。……むつ』
むつ『ん?』
修二『むつ…』
修二がしがみつくみたいにむつに抱き付き、むつがそれを包むように抱きしめた。
むつ『ごめん、俺また間違った?マジごめん』
修二『違う…、むつは何も悪くない。山の天気は変わりやすいから』
むつ『大丈夫!俺はお前より変わりやすいし、晴れか雷雨しかないから!ってか早く3人で頂上着くといいな?』
修二『…頂上?朝日が見れるから?』
むつ『は?頂上は雲の上だから晴れしかないんだぜ、知らないのぉ?』
得意げなむつは腕の中で顔を埋める修二に笑いかけた。
修二は、その知識を知っていた。
修二『!……ッ…ッ知らなかった…』
むつの胸に埋まる修二がどんな顔してるかわからない、けれど、とりあえず、絡まった糸が緩んできてるのは確かみたいで、解決するにはさらに時間がかかるだろうけど。まだ、修二が正直になるにはかかりそうだが、とりあえず…。とりあえず…。バカな考えは遠のいたろうか?
頂上が雲の上の山って…、むつ、それ登るの超大変だぞ。俺のが先に登ってる?お前には負けるよ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
241 / 1004