アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
狭い世界の外側と俺たち
-
むつと華南が仕事している姿を、目の端で追う修二の頬が、わずかに緩む。
さっきの美女軍団がいた時と違う、修二の柔らかい表情に、克哉とマキはコソコソ話しを始めた。
克哉「あの愛しそうな微笑みはアレですかね。〝僕は信じていたよ、真面目な仕事姿、ステキ♪大好き♪〟ってことですかね?」
マキ「いやいや、そんな訳ないじゃん。心中穏やかじゃないでしょう。修二は感情を隠すの上手いからぁ」
克哉「あー。そういえば、そうみたいだな。やっぱあのお姉様達は今日だけでも、水着美人は毎日なわけだし」
マキ「そうそう、それにあの奈々っていう店員、むつに気があると見ました」
克哉「マジ?全然分んなかった」
マキ「観察力が足りないなぁ。修二はきっと気づいたよ? 。あんなのが毎日な職場にいるなんて、修二は嫉妬でメラメラだよね♪」
マキが楽しそうに修二に向かってお茶目に小首をかしげる。
すると修二は、呆れたように2人にため息をついた。
修二「もう、何楽しんでるの…、嫉妬なんかしてないよ」
マキ「嘘嘘、むつを取られるんじゃないか心配でたまらないんでしょ?」
マキは修二のほっぺを人差し指でツンツンして煽るが、修二はその指を払うこともせず、マキの言葉に冷めた言い方をする。
修二「取られるって…むつは物じゃないんだから、そんな風には思わないよ」
克哉「それってアレ?〝むつは僕のこと大好きだから、浮気するわけないじゃん〟ってこと?」
修二「…克哉…掘り下げようとするなよ」
克哉「いやいや、純粋に疑問でさ。だって男同士だとアレじゃん、浮気の心配二倍じゃん、男も女も行けちゃうから、どっちといても安心できないじゃん。海にはムキムキのイケメンとナイスバディの水着美人のお姉さんや可愛子ちゃんがわんさかいるわけじゃん。俺だったら心配で夜も寝れない訳よ。そこらへん修二はどう消化してるのかな?ってさ」
興味津々の顔、でも眼差しは真剣で、身を乗り出した克哉は、友達同士の恋バナとして、純粋な質問をしているのだ。
修二「…(ムキムキって…)…むつや華南をそう簡単にそっち系の扱いにしないでよ。2人はゲイじゃないんだから」
克哉「ゲイじゃねぇーの?3人で付き合ってるじゃん」
あまり大きな声で話すことではないので、修二もテーブルに乗り出し、克哉に近づいて声のトーンを落とす。
修二「ゲイってのは、男〝しか〟ダメな人のこと。それにセ…、ゴホン。さ、最後までできてからって男好きにはならないよ、男とも〝できたって〟だけの人もいる。そこらへんは、ややこしいからはぶくけど。男女だって最後まで出来たら相手と結婚するかって言われたらそうじゃないだろ?」
克哉「…うん、まぁ…そうだね。でも、それって、むつと華南と修二は愛がなくて付き合ってるって聞こえるけど…」
修二「そうじゃなくて…、むつと華南はムキムキのイケメンに惚れたりしないって話し」
克哉「じゃあ…水着ギャルは心配だと…」
修二「…克哉は彼女といる時、超好みの可愛い子がいたら目がいかないの?」
克哉「……行きます」
修二「男なら普通だろ?目移りぐらいするだろうし、誰を選ぼうと本人の自由でしょ。そうやって僕ちゃんに構うから、克哉はむつに睨まれるんだよ」
修二が克哉の前で指し示した方向を克哉が見ると、厨房前のむつがこっちを鬼のように睨んでいた。
克哉「あは、あはは…」
テーブルに体を乗り出して修二に迫ってるのを「近い」と口パクで指摘され、ソロリと修二から離れる。
座り直してから、目を合わせると、むつは克哉に〝ちょっと来い〟とばかりに手招きする。克哉は青ざめながら、おずおずとむつの方へ歩いて行った。
マキ「ねぇねぇ、しゅーじはぁー、むつと華南とずっと一緒にいる気はないのぉ?」
肩にもたれるように頭を擦りよせ甘えた声を出すマキ。
マキ「〝誰を選ぼうと本人の自由〟だなんて、むつと華南はノンケだから、将来自分が選ばれなくても仕方ないってこと?」
耳元で妖艶な怪しい甘さで囁いたのに、修二と目が合うといたずらっ子みたいに二パッと笑う。
修二はそんなマキに、普通に笑って返す。
修二「そんなこと言ってないでしょ?」
マキ「線引きして締め出すなら、さっきのセリフまんま華南とむつにチクってこようかな?♪」
どうする?どうする?♪
って、楽しそうなマキに、修二は少し諦めたように肩を落とす。
修二「…先のことは分からない。先のことは〝何があってもしょうがない〟ってことじゃない?」
マキ「ふふ、ハッキリしないなぁ。つまり〝2人はこの先女を選ぶ〟将来自分は〝捨てられる〟って言いたいの?」
マキはいたずらな笑顔のまま、核心を捉える。
しかし、修二はマキの言葉を可笑しそうに聞いて答える。
修二「そんなこと言ってないでしょ…。マキさぁ、今日はいつもと絡み方が逆だね。いつもは〝僕らをくっつけよう〟とするのに、きょうは〝浮気をネタに荒らしてる〟みたいに見えるけど」
修二の言葉にマキは目を丸め、不敵に笑う。
マキ「やだぁ〜、僕のこと観察してるの?修二は僕のこと好きなのかなぁ?」
修二「マキには感謝してるよ?君が何考えてるかは分からないけどね。面白がってるにしろ、マキと出会わなかったら、きっと僕たち付き合ってなかった」
マキ「そうだろうねぇ、君たちおバカちゃんだもんねぇ」
修二「そうなると、自然とマキのことが気になる。マキの恋愛はどうなんだろうって」
マキ「僕ちゃん?ふふっ、彼氏募集中♪♪寂しいけど身も心もフリーだよぉ〜♪。期待されるようなストーリーはないよ♪」
修二「マキってさ、女の子が嫌いなの?」
マキ「え?…。ふっ、おかしなこと言うなぁ。女が嫌いな男がいる?」
修二「何か…マキってよく分かんない感じだして掴み所なく見えるけど、さっきのは〝嫌ってる〟風に見えた」
先程の美女軍団との会話や仕草を思い出し、今度は修二がマキに質問をぶつけて行く。
マキは修二の指摘にわずかに眉をあげたが、ヘラヘラした表情は変わらなかった。
マキ「マジ?そんなの初めて言われたぁ♪まぁ僕はイケメン好きのホモですからぁ、女は対象外だね」
修二「…そんな感じじゃないよ、何か…恨んでる?…みたいな」
マキ「ウフフ、残念ハズレ。憶測で踏み込むと火傷するよぉ?仕返しのつもりならやめときなよ、修二じゃ相手になんない、僕を怒らせたら後が怖いよぉ〜?。って、怪しいセリフを言えばいいの?俺に暗い過去なんかないよ」
修二「マキって会話や心理を操るの上手いよね、そうやって人の事は暴いて、自分のことはかわしてきた訳だ」
マキ「…ふふ、なーにまだ続けるの?僕への分析」
修二「ずっと不思議だった、あんたのコロコロ変わる表情とか、何がしたいのか分からない行動、遊び慣れてるのか?計算なのか?無垢なのか?時々酷く刹那的に儚い」
マキ「ミステリアス?僕って不思議系?フフッ、儚いなんて縁遠いなぁー、それは修二じゃない?明るく見せて、賑やかに振舞って、なんでもあっさりしてるようにしてるけど、本当は凄く傷つきやすくて、臆病で、物凄い寂しがり屋な癖に、温もりに怯えてる。まるで人に捨てられて、好きなのにまた捨てられるのを警戒してわざと吠えてる子犬みたい」
修二「…僕が捨て犬なら、マキは、捨てられて野生化した鳥だね」
マキは目を見開いた。驚きと、興味深さと、わずかな揺らぎ。
マキ「…ああ…面白いたとえだねぇ…」
修二「当たらずとも遠からず、だろ?」
マキ「…修二は、無駄なことするなぁ、自分のこともよく分かってないくせに、ふふっ、躾直した方がよさそうだね、僕が躾けてあげるよ」
マキが妖艶に微笑む。物言いたげな修二を威圧してるように笑うマキは、修二の首に手を添える。
そのピリつきだした空気を破るように、克哉がテーブルに戻ってきた。
克哉「デザート持って来たぁ!」
克哉がデンと置いたお盆には、美味しそうなチョコサンデーが三つ。さらに、克哉の後ろからむつもやってきて飲み物を配り出す。
むつ「俺と華南の奢り。だからマキ、俺たちの修二に触んな!」
マキ「やだぁ♪、むつにはさっきの水着美人がいるんだから、修二は俺に譲ってくれてもよくない?」
むつ「ふざけんな変態!」
先ほどまで飲んでいた空のコップを下げに、マキの隣から華南も現れる。
華南「マキ、寂しいならさっさと相手を見つけろ」
マキ「寂しいからダーリンまたシようよ♪」
克哉「…また?」
華南「マキてめぇー!いらん誤解を産むんじゃねぇよ!」
マキ「酷い、僕のことは一回でポイ捨て?」
克哉「……」
華南「克哉!そんな目で俺を見るな!」
克哉「マキさん綺麗だからなぁ」
華南「ち、違う!綺麗だと思うならお前が相手してやれよ」
克哉「俺!?俺は小柄で可愛い女の子が好きだから」
慌てる克哉に、マキは修二に抱きついて不満げな声をだす。
マキ「僕にも選ぶ権利があるぅ」
むつ「おい!だから、修二から離れろ!」
マキ「やだぁ♪」
そんな賑やかなやりとりに負けず、雨は強さを増して、さらに激しく降り続けた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
314 / 1004