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番外編⑥泡になって消える狂愛に口づけを
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水族館のレストランは、昼時で混んでいた。
セルフで料理を取ってくるタイプの作りで、人が結構並んでいた。ここにくるまで、マキは歩きっぱなしだ。百目鬼は、まずは席を取り、マキを座らせる。
百目鬼「座っとけ俺が行って来るから。何食うんだ?」
マキは、百目鬼を不思議そうに見て瞬く。
料理を買ってトレーに乗せ、最後にフォークやお手拭きを取って、アイスコーヒーにガムシロとミルクを三つづつ取りマキの待つテーブルへ。
テーブルにトレーを置くと、何故かマキがトレーをジッと見つめた。
疑問に思った百目鬼がマキの視線を辿ると、マキは、アイスコーヒーに添えてあったミルクとガムシロを見つめていた。
百目鬼「…足りなかったか?」
マキ「え?あっ…違うよ、これで足りる」
何故か不思議そうにしたマキを疑問に思ったが、マキは頬を緩ませ、楽しそうにミルクとガムシロとを開けて投入する。
明るいところで向かい合って座り、改めてマキを見る。
今までは、暗がりばかりだった。今朝は椎名を紹介されマキを観察するどころじゃなかった。
修二のことでかなり思考も回ってなかった。
探偵なのに、こちらの弱みを垂れ流しだったことを悔いてももう遅い。今からマキの弱みを握って立場を対等に持ってがないと、後で面倒ごとになるかもしれない。
マキは、美味しそうにパスタを頬張る。朝も思ったが、細いのによく食べ、頬張り頬がリスみたいだ。
彼の髪はクリーミーなラベンダーアッシュ。
猫っ毛がふわっと跳ねたりしてウルフカットの髪を後ろに束ねている。
顔は中性的で、ハーフっぽい。肌は色白。
よく見ると、黒のカラコンを入れてた。
タレ目で、左の下の涙ボクロ。それが、やたら色気を放っている。
体格は修二とあまり変わらなかったが、肌触りは…滑らかで女のように柔らかい、まさに魔性的。
さらにヤバいのが指だ、綺麗な長めの指、ピアノやをってそうな整った手だった。
あの手の仕草や触り方が物凄いいやらしい。
マキ「…百目鬼さん?」
百目鬼「なんだ」
マキ「そんなジッと僕を見たりして、僕に惚れちゃった?」
百目鬼「…おちょくるのもいい加減にしろ」
昨日の今日で簡単に変わるものなら、修二をあそこまで追い込まなくて済んだ。
マキは口の中に食べ物を詰めてモゴモゴしながら、イタズラっぽく笑う。
分かってる、マキは本気でそう思って聞いたわけじゃない。つい口が…
マキの本性が分かりずらいのは…カラコンのせいか…?、マキはよく動く表情をしているが、目がほとんど笑ってない。
修二も、無表情になったり張り付いたみたいにキレイに笑うが、目は誤魔化せてなかった。マキが、黒のカラコンをしてるのは、目の色が日本ぽくないからだろうか?
百目鬼「……お前、ハーフなの?」
マキの顔を見れば、誰でも聞きそうな質問だと思う。なのにマキは、驚いたように〝なんでそんなこと聞くの?〟って感じの瞳でキョトンとして目を瞬かせた。
百目鬼「…なんだ…」
マキ「え…、ぁ…僕はクオーターだよ」
百目鬼「黒のカラコン入れてるな、本当は何色なんだ?」
マキ「……、よく気がついたね」
百目鬼「職業柄な…」
マキ「さっきまで機能全停止してたじゃん」
言葉も無い、その通りだ。
俺は、情けないことに、マキという得体の知れないこの子供に、どうやら、慰められていたらしい。
こいつは、修二に対する俺の気持ちを吹っ切れさせて、メイと呼んでいる椎名とくっつけようとしているようだ。
修二との思い出をなぞるのは、こいつの作戦。より強力な思い出を作って過去を薄くしようとしたのだろう。
映画館での号泣。
水族館で煩く、やたらふざけたのも。
そう思うと、さっきこいつが〝人魚役を代わってあげる〟と言ったのが理解できる。
じゃあ、さっきっからこいつが嘘ばかりなのか?と言うと…、そうは見えない。
騒ぎ方はワザとかもしれない、でも、輝いてる瞳が嘘には見えなかった。
修二が、本音をなかなか言わないやつだったから、俺は目の色を注意深く見ることが自然だ。表情や言葉で嘘をつけても、人間なかなか瞳で嘘はつけないものだ。
マキは瞳を見ても分かりずらい、それは、マキという人間をまともに知らないし、黒のカラコンがガード役をしているように思う。
百目鬼「カラコン外してみろよ」
マキ「……なんで?」
百目鬼「お前の素顔が知りたい」
マキ「…」
百目鬼「俺ばかりが裸だ、お前も少し脱げよ、慰めてくれるんだろ?」
マキ「…ふふ…分かった」
少し困った顔をするかと思ったが、マキは挑発的に鼻で笑って、カラコンを外した。
瞳は、吸い込まれそうな惑星、不思議な色をした木星のようで。…外側が銀色、中心に向かうに連れてブラウンにグラデーションしている、しかし角度によって他の色に見えたりする不思議な色。言葉にできない色だった。
百目鬼「…凄っげぇな…」
マキ「ふふ、気に入った?」
百目鬼「…綺麗だ」
マキ「…」
マキがカラコンを戻そうとしたので止めた、やっと正体に近づけそうなのに、また隠されてしまう気がしてカラコンを外したままにさせた。
食事を済ませ。レストランを後にすると、丁度イルカショーの開演時間だった。
マキは興奮気味に腕を引き、行こう行こうと騒いだ。瞳を見ると星がちってるみたいにキラキラしていて、本当に見たそうで有る事がわかる。百目鬼が分かったと返事するとパァッと花が咲いたみたいに喜んだ。
子供…、子供だ。この顔は、おそらく本物。
イルカショーで大げさに騒ぎだしたので、百目鬼が「ワザとらしいのはもう要らない」と言うと、マキが百目鬼を慰めるためにオーバーにしていたのがバレたのが分り、マキはケラケラ笑った。
〝やっと頭動いたの?〟と言いたげな瞳が憎らしい。
注意してみたものの。
マキはうるさく騒がなくなっただけで、驚いたり、感動したり、リアクションは近くに座る小学校低学年と変わらなかった。
コレが修二を調教していたのと同一人物かと疑いたくなるほど、今目の前にいるマキは子供そのものだった。
イルカショーが終わり、階段状の座席から降りるのに、マキの手を引いてやる、また転ばれたらかなわないからだったが、マキはその手に瞳を瞬かせた。
これは、どういう心理だ?
考えていると、マキは園内に放し飼いのペンギンを見つけ、後をついて回ったり。魚の顔真似して回ったり。楽しそうに幼稚園児みたいにはしゃぐ。しまいに、イルカに調教体験とかに参加して、マキがわざと百目鬼に水が引っかかるようにイルカをジャンプさせた。
百目鬼「スーツを濡らす奴がいるか」
マキ「あはは、ごめんごめん。あんなにうまい具合に水しぶきが上がるとは思わなかった♪本当にゴメンね百目鬼さん♪」
嘘だ。瞳がキラキラ輝き放って心底楽しそうにしてやがる。
ジュゴンの前で見た深い闇の瞳は見ることなく。時間は、意外にもあっという間にたった。
最後に立ち寄ったのはお土産コーナー。
そこでのマキは、一番高いテンションで騒いだ。両手いっぱいにぬいぐるみを抱えて「可愛いね♪どれが好き?」と、聞いてきた。
百目鬼「しらん」
マキ「えー、選んでよぉ。修二とは楽しく買い物したんじゃないの?」
百目鬼「修二は欲しがらなかった、あいつはそういう奴だ」
いつの間にか、変に卑屈に修二とマキを比べないで、自然と名前が出る。
吹っ切れたとか、清算できたとかじゃなく、昨日の、醜くく修二に爪を立てるような生々しい気持ちが、少し落ち着いた。胸の痛みと共にどうしてやればよかったのか考える。
〝あんたは本当に優しかった。セックスの時乱暴だから、それを取り返すみたいに昼間は優しかった〟
酷いセックスに暴露で傷つけた記憶だけだった。穏やかな思い出を一つづつ思い出す。
恋人みたいな甘いことは一つもないが、映画を見たり、水族館に出掛け、水槽の前で静かに話をしたこと…。
〝好きだから、そばにいたい〟と思ったシンプルな気持ち…。
今更だが…。
全て壊してしまい残ったのは残骸だが…。
マキ「ねぇ、お土産げ買って交換しない?僕とのデートの思い出♪お土産買ってあげるから百目鬼さん選んで」
百目鬼「何故俺も買わなきゃならない、自分の分だけ買え」
マキ「ケチ。選ばないなら、全部買っちゃうよ?」
百目鬼「さすが、体で稼いだお金があるってか?」
マキ「……」
マキは、黙り込み、そのままレジに向かう、店員に向かってにっこり微笑んでこう言い放った。
マキ「すいません♪、ここにあるぬいぐるみ、ぜーんぶ下さい♪カードで♪」
百目鬼「は!?」
マキの目はマジだった。
財布からカードを取り出し、ぬいぐるみが飾られてる一角を指す。困った顔した店員をよそに、マキは、棚のぬいぐるみを取ろうとしたので、百目鬼は慌てて止めにはいり、マキの持っていたぬいぐるみから一つを選んだ。
百目鬼「これだけでいい!」
マキ「ふふ、マダラトビエイ?水玉可愛いね♪百目鬼さんって面白い♪」
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