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番外編60ひと夜咲く純白の花の願い
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卵を愛するような愛情が欲しい…
中身がどんなものでも
愛してくれる…
そんな愛情が欲しかった。
だけど、卵を見た人は…
その殻を好きになる…
真っ白で丸いフォルム
中身など見ない…
見てしまったら逃げていく…
だから…
ずっと卵のままでいようと思った…
高望みはしない…
殻を好きになってくれるなら、
それで愛してもらえるなら、
一生卵の中でいいと思った…
僕の外側を気に入って好きだと言ってもらえるなら、一生中身は隠そうと決めていた…
その殻に…
ヒビが入ってしまった…
早く治さないと
中身が飛び出してしまう…
決して人に見せることのできない
僕の内側…
要らないと言われた
中身が…
??????????????????????????????????
マキの、今までヘラヘラチャラチャラした雰囲気が一瞬にして消え、その急激な変化に矢田は不思議な気持ちで瞳を瞬いた。
しかし、それも一瞬のこと。
マキ「あっ!…忘れ物した。取りに行くんで待っててください」
急に無表情になってうつむいてたマキが、また、ガラッと雰囲気を変えたことに、矢田は狼狽える。今までの見たこともない表情。
マキはいったい何を考えてるのかと不思議に思う。
階段を上がって忘れ物を取りに行くと言ったマキの後ろ姿を、矢田は複雑に見上げる。
数分して、マキが傘を持って現れた。
忘れ物はどうやら傘のことのよう。
手には傘と洋服の入ったビニール袋。
矢田に「おまたせ♪」っと軽く声をかけマキは一階に下りていく。
さっきの無表情から元に戻って、またニコニコしてる。
マキ「矢田さん、車で送ってくれるんでしょ?」
マキに速される形で、矢田は慌てて車を出した。
マキの目の前に黒い車を横付けすると、マキは何故か助手席を眺めていた。
助手席には何も無い、あるのはイルカのぬいぐるみくらいしか置いてない。
逃げるんじゃないかとドキドキしたが、マキは後部座席に乗り込んだ。
矢田「先生の家でいいんすよね」
マキ「はい」
窓の外を眺めるマキは、笑顔だけど、どうも静かすぎる。矢田はマキが後ろから何か反撃してくるかもしれないと内心ドキドキしていた。
矢田「あの…、ど、百目鬼さんが、帰ったら電話しろって言ってました…」
バックミラー越しにマキを見てみると、マキは外を見たまま「了解しました♪」と返事をした。
矢田は、自分がやったことで仕返しを考えてるんじゃないかと、気が気じゃなくて、いつもと様子の違うマキをバックミラーでチラチラ見ていた。
マキ「…矢田さん信号!」
矢田「へ!?」
マキの声にビクッとして慌てて正面を見たら、赤信号なのに大通りに突っ込みそうになり慌ててブレーキを踏んだ。
ーキキィー!!
ガクンと車がつんのめって停止し
傾く車内でマキは目の前に転がってきた物に目を見開いた。
ッ!
車は通りに侵入する前に止まって
矢田はハンドルに頭をぶつけた。
矢田「イタタタッ…ハッ!マ、マキさん!?」
バックミラーにマキの姿がなくて慌てて振り返ると、前に倒れこんだマキが起き上がった。
矢田「怪我は!?」
マキ「あはっ、びっくりした。僕は大丈夫、これ拾っただけ」
マキの手の中に、マダラトビエイのぬいぐるみがあった。
矢田「あ、あ、あの、どっかぶつけて…?」
マキ「してないしてない♪」
ヘラヘラ笑うマキに、矢田はホッとした。
こうゆうところを見ると、とても百目鬼を騙す極悪人には見えないから困る。
マキ「それより、おでこ大丈夫?僕は逃げたりしないから、前向いて運転しててよ」
矢田「も、申し訳ないっす」
素直に謝って、前を向く。
それでも後ろが気になって、信号が赤なのを確認してバックミラーに視線をやる。
マキは、手の中のマダラトビエイのぬいぐるみをまじまじと見た。タグには、百目鬼と行った水族館の名前が入っている。
マキ「ねぇ矢田さん。このぬいぐるみいつからあるの?」
矢田「え?」
マキ「ほら、信号変わったよ」
マキに言われて信号を確認し、アクセルを踏んで出発する。
見てたのバレたのかと内心ドキドキしながら、矢田は質問に答えた。
矢田「えっと、去年の夏あたりっすかね?」
マキ「…ふーん…ふふ…へー、そう…」
マキは、マダラトビエイを膝に乗せて両手でいじりながら、クスクス笑う。
矢田は、マキのが百目鬼をバカにしてるような気がして、ムスッとした。
矢田「…」
マキ「…ふふ、こんなとこ置いてたら、毎度落ちてくるだろうに…」
矢田は、マキがクスクス笑うのを聞きながらイライラしていた。しかし、運転に集中しないとさっきみたいなことになり兼ねない…。不満を胸に押し込め、運転に集中した。
マキ「ヌイグルミ…、こんなとこにあるなんて…ふふ…やっぱ飽きさせないなぁ…」
矢田「…」
車が赤信号で止まった時、矢田は堪らずバックミラー越しに後ろを睨んだ。
だが、マキを見た瞬間、ギョッとした。
マキが、マダラトビエイのぬいぐるみを膝の上で硬く握りしめて微笑みながら、涙をボロボロと流して泣いていたのだ。
矢田「!!」
いくら空気の読めない矢田でも、〝男の涙〟に言葉を失う。
男は、そう簡単に泣くもんじゃない…。
ましてや、マキの泣き方は異常で、表情と心情が合ってない。ヘラヘラしながら悲しそうな涙がボタボタと溢れて落ちる。
背中越しの声は、とても泣いているようには聞こえず、バックミラーを見るまで気がつかなかった。
矢田は、自身が感動屋で涙脆いのを百目鬼に〝男だろ〟と叱咤される。言葉通り、百目鬼の涙を矢田は今まで見たことがない。
マキのことは好きになれないし信じられない。でも、魔性だと言われても、もし、騙しで涙するにしても、こんな泣き方するのか矢田は疑問に思った。
同情を誘って何かを企むにしても、すすり泣きもせず、ヘラヘラしながらびっくりするぐらい悲しそうな涙。
矢田は、見て見ぬ振りを選んで、黙々と運転を続けることにした。
車は、順調に進んで先生の家の前まで来た。
矢田はどうしたらいいのか分からず、マキを見ることができずにいると、後ろから明るい声が飛んできた。
マキ「矢田さんお疲れ様♪ありがとうございました♪」
車を止めた瞬間、いつものマキがへらっとお礼を言ってきた。
その顔に涙はなく。
その跡もない。
矢田「…」
マキ「矢田さん、安心して。もう姿を見せたりしないから♪」
そう言って、マキはシートベルトを外して車から降りる。
ニコッと笑って矢田に手を振っていた。
訳が分からずにいたが、ふと、百目鬼の言葉を思い出す。
矢田「…、百目鬼さんに、電話を…」
マキ「あっ、そうだね♪」
マキはカバンから携帯を取り出し、矢田の目の前で、百目鬼に電話をかけた。
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