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(番外編)純愛>♎︎狂愛
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もうヤダもうヤダ
もうヤダもうヤダ
トイレの洗面所で顔を洗ってみたものの、気分は吐きそうなくらいぐちゃぐちゃだ。
あんな言い方、まるで百目鬼さんのせいで食べれなくなったみたいに聞こえちゃうじゃない。百目鬼さんのせいじゃないのに…。僕の問題なのに。僕がさっさと諦めなかったのがいけないのに…。あんなこと言うから、百目鬼さん…ビックリした顔してこっちを見てた…、むつや修二が大袈裟に言いすぎなんだよ。ちょこっと少食になっただけじゃんか!
…。
毒づいてみても、本当は分かってる。洗面台を強く握りしめて、もう一度鏡の中の自分を見た。
分かってる。本当は全部分かってる。
むつは、僕のこの情けないツラを見て怒ってくれてるんだ。
修二が、ああだこうだ言ってこないのは、僕が自分と向き合う時間を作るため。どっちに転んでも僕が本当に望むなら、それを応援してくれるつもりだから…。僕の言葉が、本音か取り繕いか、それとも、そうしなきゃとただ強がってるのか。修二は、分かるんだ…。焦がれる片思いを知り、本気の恋をしてる修二には、僕の持つ複雑さを誰より分かる。
華南は、むつがあんなんだし、修二なら僕に言葉が届くと思って、あえて何も言わない、プレッシャーをかけないように知らんぷりを通してくれてる。だけど、少しでも元気になるようにってプードルを探してくれたりもした…。
本当は分かってる。
むつや修二や華南が、どれだけ心配してくれてるか…。諦めればいいって言わないのは、僕が、僕自身が諦めたくないと思ってるのを分かっているから…。
僕の望みは…離れた今も変わらない…
〝…百目鬼さんの側にいたい…〟
でもさ…
その小さな願いは、もうそれだけじゃ済まなくなった。側にいるだけじゃ足りない…、抱き合って繋がってたい…、誰にも渡したくない…、彼の中の1番になりたい。僕だけ見て欲しい…。独占欲を覚えた…。
もう、お手軽なキャラでいられない…。
女々しい重たいやつになった…。僕の恐怖は、修二が1番分かるはずなのに、修二は僕の秘密をブチまけた。きっと、今日僕を丸裸にするつもりなんだ…。修二もむつも華南も…。
もしかして…奏一さんも?
奏一さんに暴露されたら、僕、死ねる。
こんなことになるなんて…
早とちりで奏一さんに喋ったりするから…
あの時の僕は本当に馬鹿だった…
ふ、ふふふ♪
修二は〝100パーセントでぶつかってこい〟って言いたいのか…。
ふふふ♪確かに、僕が散々修二にやったことが丸っと返って来た。だけどさ修二、僕は100パーセント砕けるよ。修二、百目鬼さんは変わった。君の知ってる百目鬼さんは、変わったんだ。僕は、馬鹿じゃない、根拠なく怯える子供でも無い。僕は知ってる。百目鬼さんは、僕が100パーセントでぶつかっても、僕を100パーセント拒む。
僕は要らないんだから…
だから捨てたんだ…あの気持ちも希望も…
僕の描いた未来も…
なのに、こんなにすがってるなんて…
僕は本当に馬鹿だ…
姿を見ただけで、諦めようと蓋した気持ちが溢れ出す。体も心も百目鬼さんを求めて震えてる。必死に頭を動かしてるけど…ビリビリと痺れた体はあまり言うことを聞かない、焦がれて焼けそうな心は、愛しさに呑まれる。
賢史「酷いツラだな…」
洗面の鏡には、腕を組んで僕を嘲笑う賢史さんが写っていた。
マキ「ふ、ふふ、僕もそう思う。ウケるでしょ?」
賢史「ウケるウケる。女王様か無様なツラだ」
マキ「また、近づくなって言いに来たの?悪いけど、今回のは事故だから、僕は知らずにここに連れてこられたから」
賢史「お前の顔見りゃ分かる。余裕無い可愛いツラしてる。今にも泣きそうだな」
賢史さんは後ろから近づいて、鏡の僕を見ながら、背中側から抱くように僕の顎を持って僕の顔を鏡に写す。
マキ「…」
賢史「俺が忘れさせてやろうか?」
賢史さんのふざけた声がワントーン下がって、真剣味のある渋い声で囁く。
鏡越しに僕を見ていた視線は下がって、上から僕を見下ろした。
降ってきた声に視線を上げると、僕の顎を持っていた手に力が入り、僕は向き合うように振り向かされた。
百目鬼さんと同じくらいの背丈と体格、渋い顎ヒゲの賢史さんは真剣な顔で僕に甘く囁く。
賢史「俺と付き合えば、もれなくいつも不機嫌な神を見ていられるぜ?」
誘惑は、頭で考えるより心にジワッと響いた。一瞬想像した光景を、頭がすぐに否定する。でも、賢史さんの話しを断れば、もう見ることも叶わない…。そう思ってしまった自分に、笑うしかなかった。
賢史「ん?今度は即答しないんだな」
賢史さんの声が甘く響いて、クスクス笑ってた。賢史さんの優しい声を初めて聞いた気がする。
賢史「こうやってマジマジ見ると、やっぱ子供なんだな、ヘラヘラ笑ってない困った顔したお前は、迷子の子猫ちゃんみたいだぞ。おまわりさんが慰めてやるぜ」
マキ「ふふふ、それって確か、おまわりさんも子猫と一緒に泣くんじゃなかったでしたっけ?」
賢史「気持ちを共有して半分こってな。優秀なおまわりさんだろ?その強がりも必要無い、いっぱい泣かしてやるよ。お前は今フリーだ、誰と何しようと自由だろ?」
洗面台に押し付けられるように迫られて、密着した腰、熱を含んだ吐息が肌に触れる距離で、じっと見つめられその唇が近づく。
マキ「…ここで?」
鼻先が触れるほどの距離でそう言うと、賢史さんはフッと笑って止まった。
賢史「初めては、もっとロマンチックに行きたいか?」
マキ「トイレで口説いてる癖に、そんなこと言うの?」
賢史「美人を口説く場所を選んでいたら、肉食獣に掻っ攫われる。今もお前を狙ってるかもよ」
僕を狙うような人はいないけど…。
僕の反応に賢史さんは喉の奥で笑いながら、こっそり耳打ちしてきた。
賢史「ククッ、じゃあ見てみるか?お前を狙う肉食獣の間抜けヅラを…」
そう囁いて、僕の肩を抱いてトイレから飛び出した。
え?
ドアを開けたら、そこにはなんと百目鬼さんが居た。
賢史「よぉ、神!お前もトイレか?」
ニヤニヤした賢史さんが、僕の肩を抱き寄せて颯爽と百目鬼さんの横を通り過ぎる。
百目鬼「ッ!!」
百目鬼さんは賢史さんが僕を抱き寄せてる腕を見て賢史さんをギロッと睨んだ。
百目鬼「ッ…」
賢史「なんだなんだ神、しっぶい顔しちゃって、寝不足も限界か?菫ママに言って少し奥で寝かせてもらえば?俺のことは気にするな、俺は今から〝マキ〟と仲良くお話しするから、少し休んでりゃいいよ、連日の探しもので睡眠不足だろ?」
探しもの?
百目鬼「顔を洗ったら戻る。だからそいつは奏一に返してお前は席に戻れ」
賢史「ああ、じゃあ奏一も一緒に…」
百目鬼「ふざけんな」
奏一さんの名前を聞いた瞬間、百目鬼さんは殺気に満ちた。
百目鬼さんにとって奏一さんは特別な存在。きっと賢史さんが修二と言ってもその反応は変わらないだろう。百目鬼さんにとって、奏一さんと修二は聖域みたいなものだ。それを犯すものは、誰1人生き残らせないって勢いだった…。
だけど賢史さんは物ともせず、ますますおかしそうに鼻で笑う。
賢史「決めるのはお前じゃ無いだろ?」
そう笑って、僕の肩を抱いたまま奏一さんたちのいるテーブルに向かう。
僕は、なすがままで、現状を呑み込むので精一杯だった。
百目鬼さんにとって奏一さんと修二は特別な存在。ずっと大切な人達…。
賢史「よぉ、お子様軍団」
賢史さんはなれなれしく、修二とむつと華南に話しかけるから、むつがギロっと賢史さんを睨みつける。
むつ「おいおっさん!マキから手を放せよ」
賢史「いいじゃんか減るもんじゃないし」
むつ「減るんだよ!!」
賢史「君、むつ君だっけ?」
むつ「ぁア?」
相変わらず喧嘩腰のむつ君、だけど賢史さんは気にも留めないマイペース振りで、ニッと笑う。
賢史「主役なのにオレンジジュースやらコーラやら飽きない?俺がノンアルコールのカクテル作ってやるからカウンター来いよ。マキは飲むってよ」
へ?
むつ「ノンアルコールカクテル?ノンアルコールなのにカクテル??」
わからない言葉に眉間のシワを強くしたむつ。隣にいる修二がむつに説明してあげてるのを見て、賢史さんは笑いながら、菫ママに声を掛けた。
賢史「菫ママ!カウンター貸してよ」
菫「あら、久々に作るの?私も一杯お願いしようかしら」
賢史「王子様達の飲み物作ったらな」
賢史さんをキョトンと見上げたら、賢史さんは腕の中の僕に笑いかけた。
賢史「大昔に、振ってたんだよ」
と、バーテンダーのようにシェイカーを振る素振りを空いてる手で見せた。
賢史「恋するカクテルも作れるぜ、飲むか?」
マキ「…それ、ノンアルコールじゃないでしょ…」
賢史「ははっ、ノンアルコールなら飲むのかよ」
マキ「…やだ」
賢史さんは悪戯っぽく笑いながら、僕を抱き寄せて頭をくしゃっくしゃに撫で回す。
今日の賢史さんは、いつもの腹黒い感じはなくて、なんだか凄く楽しそう…
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