アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
(番外編)純愛>♎︎狂愛
-
カウンターにいた僕たちは、また席に戻ることにした。
赤い顔の奏一さんはフラフラはしてないけど、修二が気にかけてた。僕は飲み物をテーブルに移そうと修二たちの飲み物の入ったグラスを集めてたら、目の前にお盆がポンと置かれた。
お盆をくれた人をパッと見たら、それは百目鬼さん。百目鬼さんは、僕にお盆をくれると、元いた席に戻って行った。
そして、一仕事終えた賢史さんも元いた席に戻り、百目鬼さんと一緒の席にふんぞりかえってた。
さっき、百目鬼さんと一瞬交わった視線。
かけてもらったたった一言…。優しい気遣い。
百目鬼さんは、気まづそうで。でも、僕の手は振り払いはしなかったし、今もお盆を出してくれた。
耳に響く低音ボイス。震える鼓膜に胸がキュッとして、その一言を噛み締めた。
奏一さんを気遣う百目鬼さんに、チクリとしたものを感じながら、その優しさが好きで…。その声が好き…。
やっぱり…
大好きなんだ…
ダメだと思いながら、服の下にある羽根籠ネックレスを握りしめ、今同じ空間に居られることが悲しくも嬉しい。
二度と会えないと思ってた。
会っちゃダメだと思ってた。だけど、こうしてむつにチャンスを作ってもらって…。百目鬼さんに再会した事…、怖いけど…凄く怖いけど、会えたことを嬉しく思ってる。
最後のお別れの日、僕はラリってて、気持ちを伝えることが出来なかった。きっとその溜まった気持ちが重くのしかかって、食事が喉を通らなくなった気がする。
僕って、百目鬼さんに恋してからすっごくおかしくて、自分らしくなかった。
今までは、自分らしい自分を守るためにバランスとって殻に籠って、いらない感情は捨ててたのに。百目鬼さんと付き合ってからは、嫌われないように、百目鬼さんに好かれるようにってグチャグチャ考えて、色んな欲まで出てきちゃってて大変な事になってた。頑張って素直になったつもりでなりきれてなくて。全部中途半端で…。
だから終わっちゃたんだろうな…。
修二や百目鬼さんに会う前、僕はどうやって立ち回ってたっけ、そっちの方が断然僕らしくてスマートなのに。
修二とむつと華南、そして百目鬼さんは、昔の僕は僕らしくないって言う…。
ヘラヘラ誤魔化すなって言うし、僕らしいって…どういうことなのかな?
良い子でいよう…、そうやって今まではうまく立ち回ってきたのに。そういう姿より、素直でいろって言うんだ。素直ではいたよ、だけど、素直になった分何もかも上手くいかなくなった。
素直で正直な僕って、必要かな?
『良い子でいるんだよ、優絆…』
清史郎さんは、良い子でいる僕を望んだ。礼儀正しく、おしとやかで、自分のことは自分で出来て、言う事を聞く良い子。
『いいかい優絆、君は、マリアのように、清く正しく美しく、人には優しく、人のために何か出来る素敵な良い子になるんだよ』
僕は、良い子でいたんだ…だけど…
『愛してるよ、マリア…』
清史郎さんは僕を見てはいなかった…。
あの時もそうだった、僕は代わりをする事で僕を見てもらえた…、僕の中の僕は必要なかった。清史郎さんの必要な良い子の僕でいる事で、ずっと側にいてもらえた。
愛されたいと思わなければ、僕は必要としてもらえた。
良い子でいる事は難しくなかったし楽だった、それで必要としてもらえるなら、それで良かった…。
自分がいらない子だって知るまでは…。
愛人の子供。家庭を壊した元凶。
誰からも望まれてなかったってこと…
凄く納得した。
清史郎さんが本当の父親じゃない事…、妙に距離感のある親戚、僕を毛嫌いしている成一さん、いつも複雑そうな頼子さん、清史郎さんが僕を外に出したがらないこと。
いつも広い家に一人なこと…。
母親が亡くなったから、片親だからこういうものなんだと思っていた…。距離のある親戚も、いつも僕を睨む成一さんも、そこに理由があるとは思いもしなかった…。いつも色々教えてくれたりして、困ったら手を差し伸べてくれる頼子さんが、僕の母が頼子さんの夫の愛人で、愛人の子供である僕に優しく接してくれてたなんて知らなかった…
自分の正体を知った時。
あぁ、そっか、だから、僕は必要ないんだと納得した。
悲観的に言ってるんじゃない。ずっと疑問だった。その答えが見つかったんだ。僕がいるから、みんな嫌な思いをする。僕が愛人の子だと教えてくれた成一さんに感謝した。長い間僕の中にあった虚無感の正体を教えてくれた。
納得して、僕はこの人たちの所にいてはいけないと思った。だからあの場から飛び出した。
清史郎さんのことは好きだった。大好きだったけど、清史郎さんは結婚が決まってた。僕は過ちを繰り返す訳にはいかない。清史郎さんが大好きだったから、清史郎さんには幸せになってもらいたかったし、僕みたいな過ちを清史郎さんが背負う事ない…。
離れることを決意した日。胸は痛んだけど辛くはなかった。
だって、それが僕のすべきことだったし…清史郎さんの幸せのためだ。
僕は良い子でいたかった。
清史郎さんの時は良い子でいられたのに…。
なんで、百目鬼さんの時は良い子でいられなかったんだろう…。
歯車はいつからずれてしまったんだろう?
泉や、修二やむつや華南に会って、寂しいって気持ちを見透かされた。好き勝手やる僕を、彼らは受け入れてくれて…、さらにもっと素直になれば良いなんて言われて、びっくりした。僕は十分好き勝手してたのに、もっとなんて…どうすれば良いかわからない。その心地よさを知った日から、僕は僕を保てなくなった。
百目鬼さんは、僕の良い子像を壊す。甘やかされて、美味しいご飯作ってくれて、一緒にご飯食べてくれて、一緒に寝てくれる。
僕にとっては、憧れの生活。いつも側にいて貰える幸せ。それだけで十分贅沢させてもらってた。
僕にとっては、全部憧れの時間。大好きな友達が居て、大好きな人がいて、一緒に過ごせる時間があって、百目鬼さんはいつも僕を気にかけてくれて…。
百目鬼さんは、ヘラヘラ笑うな僕を知りたい、本当の望みはなんだ。と言ってくる。
僕にはよく分からない。僕は僕でいたつもりで、確かに心の中に卵を持ってて、その中に本音がいっぱい入ってるけど、それは汚い感情ばかり。だけど百目鬼さんは、その中身も見せろって言うんだ。
素直でいないと百目鬼さんに嫌われちゃう。でも、素直な僕は、百目鬼さんに嫌われる要素しか持ってないんだけどな…。
付き合ってから、壊さないようにしていた心の城壁を少しづつ溶かされて、僕は、ずっと隠してた僕になった…
だけど…
百目鬼さんは離れていっちゃった…
きっと、本当の僕が良い子じゃないから好きになってもらえなかったんだって…
僕の汚くて要らない感情ばかりを見せたからイラつかせたんだって…思うじゃない
凄くエッチで、毎日くっついてたくて、毎日エッチしたくて、いっぱいキスしたくて、甘やかされたいし、百目鬼さんを甘やかしたかった。百目鬼さんが僕で癒されて欲しいし、百目鬼さんのためならなんだってしたい、百目鬼さんを守りたかった。
不器用で、なんでも溜め込んで、ずっと生き辛そうで、頑固だからなかなか肩の力を抜いてくれなかったけど、百目鬼さんの悩みであるSEXの事なら力になれると思った。百目鬼さんは変わった、乱暴なSEXなんかしてない、もう、泣かせば満足なんて思ってない、百目鬼さんは、何故涙が見たいのか分かったはずだ。何故、閉じ込めたくなるか分かったんだ。修二や奏一さんと当時の心境を話せるようになって、修二や奏一さんを好きすぎて、自分のものにした過ぎてそうなっちゃったって。
百目鬼さんは、今はちゃんと相手のことも考えられる。怒鳴ったり、キレたり短気だけど、その中にいくつも優しさとその人への愛しさがいっぱい詰まってる。
今までは性癖を隠したり、好きな人に好きだと言えなかったかもしれないけど、もう、大人になった。狭い学生生活は終わったんだ、あの閉ざされた狭い空間の息苦しさは、もう終わったんだって、百目鬼さんは気づかなきゃ。
大人になったら大人になったなりの苦労も世間体も色々あるけど、百目鬼さんはもう一人じゃない。百目鬼さんを助けてくれる人たちがいる。相談も出来る、いくらでも話ができる。百目鬼さんはもっとみんなと話して、自分ってものを解放していかなきゃもったいない、あんなに優しくて、可愛い一面を持ってるのに、全部その強面の顔の下に隠してもったいないよ…
もっと、百目鬼さんが自由に生きることが出来るようになる手助けがしたかった…
だから、百目鬼さんを傷つける奴が許せなかった…。
瀧本も…、朱雀も…、僕の力で百目鬼さんを守れるなら、あの傷だらけの背中を守れるなら、僕の力で守りたかった…。
百目鬼さんは怒るけど…、僕にとっては、それぐらい百目鬼さんが大切だった。
大好きで、大切で、側にいたくて、いっぱいSEXしたくて、甘やかされたり甘やかしたりしたくて、百目鬼さんを独占したかった…。
百目鬼さんの持つ罪も悲しみも喜びも、感情の全て独占したかった。
百目鬼さんの1番になりたかった…
ねぇ、修二…
それが、僕の100パーセントだよ…
ねぇ、百目鬼さん
これが、百目鬼さんの知りたい僕って奴…
百目鬼さん…
こんな僕をブチまけたらなんて言う?
結局、ナイフの前に飛び出すのかって怒る?
そうだよね、なんの解決もしない。
僕の本音は百目鬼さんを怒らせる。
こんな重たい愛情…
要らないよね…
でも、これが今の僕…
百目鬼さんの知りたがってた僕の中身の全て…
僕の本音…
走馬灯のように、この半年間が脳裏に過る。そして、むつに怒鳴られたこと、華南が優しく見守ってくれたこと、泉に叱咤されたこと…、そして、奏一さんの一言が思い浮かぶ…
『俺は、話してほしかった。だから、マキ君は、彼氏に話してきて欲しい、取り繕わない本当の気持ちを…』
…。
本当の気持ち…
…。
百目鬼さんは聞いてくれるかな?
聞くだけならしてくれるかな?
今日で最後だし…。
呑み込んだ言葉は僕の中で重く溜まっていくし…、あんな別れ方だったから、百目鬼さんも気にしちゃってるだろうし…、きっと、百目鬼さんもスッキリはしてないだろうし。
百目鬼さんに、百目鬼さんと過ごせて幸せだったって言うくらいだったらいいかな?
さっき修二たちが、僕は百目鬼さんと別れて食べれなくなったなんて言うんだもん、そんなことないよって、言ってあげなきゃ百目鬼さんが可哀想だよね…。
でも…、なんて話し掛けよう…
きっと嫌な顔されちゃうだろうし…
そんな風になやんで、僕がモジモジしていたら、菫ママが見透かすみたいに微笑みながら、僕にお酒の瓶を一本差し出してきた。
マキ「え?」
菫「マキちゃん、悪いんだけど頑張った賢史ちゃんにコレを持ってってやって、ついでに神にも飲ませてあげて。折角賢史ちゃん頑張ってくれたから、1番の美人にお酌してもらって美味しく飲んで欲しいの。ね♡」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
741 / 1004