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(番外編)純愛>♎︎狂愛
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僕の誕生日は、北海道の空を見に行く。
これは、別れる前も、別れてからも、そうすると決めていた。
あの星空の下に行かなきゃ、きっと気持ちに決着をつけられそうにない。
百目鬼さんが言ってた、宿泊施設より向こうにある天体観測所に行けば、運が良ければ、オーロラが見えるかもしれないって…。
賢史「へー、オーロラねぇ。でも見えないかもしれないじゃん、うん十年に一度だろ?」
マキ「うん、いいの。凄く楽しかったから、もう一度行きたかったから、20歳の記念に行くの」
賢史「ふーん、そう、思い出の場所ってことか、いつの間に…」
賢史さんは、北海道が百目鬼さんとの思い出の場所だって気がついたみたい。
賢史さんは横目で百目鬼さんを見ながら口元がニヤつく。
百目鬼「…」
百目鬼さんは黙ったまま、どこか遠くを見て聞いてるようで聞いてないふり。
願わくばその内心が、あの夜をいい記憶として思い馳せていて欲しい…、どうか気を悪くしないで欲しい。
ほんの少しだけ僕の話を聞いて欲しい。
百目鬼さんの瞳は動かない…。いや、その瞳が気まずさに歪んだら、僕はただただ申し訳ない事してる。別れたのにこんな話し、場合によっては気分悪いよね…。
でも、僕は…、百目鬼さんが僕に別れを告げたあの日、あの時に、1%でも…0.1%でも、別れるのを躊躇していてくれたら…。そう願わずにはいられない。
百目鬼さんはあの日、汚い言葉を吐き出しながらずっと苦しそうだった…。
僕が言う事聞かないから、危険な事ばかりするからそばには置けないって、離れる事を選んだんだって…。
もし、本当に面倒くさくて嫌いで別れたなら僕の解釈はただの僕の願望で。
今、僕のやってる事はストーカーまがいでイタイ子になっちゃうけど…。
壊された時計が元に戻ってた。
百目鬼さんがどこで買ったか泉に教えなきゃ、きっと分からなかったろうから…、それに、退院の日に賢史さんが来たのも、百目鬼さんに言われたからなんじゃないかと思ってる…。
だからお礼が言いたい…。
僕は、酷いこと言われたなんて思ってない。僕がいい子じゃなかったのがいけなかったんだ。百目鬼さんは僕を大事にしてくれた。
百目鬼さんといた時間がどれだけ幸せだったか、僕は百目鬼さんに伝えたい…。
マキ「賢史さんもういいでしょ、離して」
賢史「ハイハイ」
賢史さんに解放されて、やっと百目鬼さんに飲み物を渡せる。
マキ「百目鬼さん、お代わりお待たせしました」
百目鬼「…あぁ、ありがと」
百目鬼さんは、僕を見ないように受け取って、グイッと一気に半分くらい飲んじゃった。
その様子を賢史さんが意味深に見つめてる。
さぁ、もう言っちゃったから後戻りはできない。百目鬼さんはどう思うかな?やっぱウザいかな?
北海道に連れてってくれた時の百目鬼さんは、凄く凄くカッコ良かった。僕の人生で最高の日だった。一生の宝物。きっとあの思い出は、この先もずっと大切だから…
あの時、僕のためにしてくれたこと…
僕の生まれた日を祝ってくれたこと…
死んじゃいそうなくらい幸せだった。
右手首、シャツの袖の中の青い文字盤の時計を握りしめ、あの日のことを思い出す。あんな幸せなことはもうないってくらい、幸せ過ぎた。一生分の幸せを使い果たしたのかも。
大丈夫、あの日の思い出とこの腕時計、そしてこの羽根籠ネックレスだけは、僕のために百目鬼さんが考えてプレゼントしてくれた物だから…
あの時、壊されて…
(ーパリーン)
『こんな物のために身売りするなんてアホのする事だ!』
こんな物じゃない!
僕にとっては、この腕時計だけなんだ!この腕時計だけが、唯一形ある物…
賢史「…。マキちゃん、俺もお代わり」
マキ「ハイ♪お酒は同じ量で良いですか?」
賢史「ああ、丁度良かったよありがとな」
賢史さんのお酒を作りながら、僕はいよいよ覚悟を決めた。
賢史さんにお酒のお代わりを渡して、賢史さんがそれを一口飲んでテーブルに置いたタイミングで、僕は賢史さんと百目鬼さんのほうに向き直り、膝の上で右手首の腕時計を握りしめた。
マキ「あの…」
賢史「どうした?」
マキ「…賢史さん」
賢史「ん?」
マキ「…百目鬼さん」
名前を口にしたら心臓が飛び出しそう…。
百目鬼さんは僕に改まって呼ばれて、こっちを見ないふりをやめて僕を見てくれた。
マキ「…ちゃんとお礼が言えてなかったから、言わせて。瀧本の件でご迷惑おかけしてごめんなさい!助けに来てくれてありがとうございました」
ソファーに座りながら、可能な限り頭を下げた。
賢史「おおっ!女王様にお礼言われるなんて光栄だな」
賢史さんはその場の空気を重くしないように笑ってくれた。
百目鬼さんは、無言で視線をそらす。
賢史「まぁまぁ、今後はあんな無茶してくれるなよ。被害者だろうと加害者だろうと、知ってる面が現場にあるのは胸が痛い訳よ」
マキ「うん。あの後、色んな人に怒られた。泉に、修二にむつに華南、先生にも怒られたし、それに、奏一さんにはみっちりお説教された。〝その根性叩きなおす!〟って毎日授業してもらった」
賢史「ハハッ、いるいるそういう熱血系。奏一お兄ちゃんは厳しそうだねぇ」
マキ「うん、厳しかった。でも、忙しいのに毎日会いに来てくれて、僕が納得するまで色んな話をしてくれた…」
お説教がメインだけど、事の経緯を聞きながら、丁寧に僕の気持ち聞いてくれた。ほとんど面識ないのに、前からの知り合いみたいに…
百目鬼「………」
修二ともこんな風にちゃんと話し合ってるのかと思うと、あの兄弟があれだけ仲が良くて修二が奏一さんを尊敬する気持ちが良くわかる。
マキ「僕ね、昔はずっと1人で行動してたんだ。同級生とか子供に見えるし、だから、こんなに大勢の人と一緒にいたりワイワイする事なくて、修二達と知り合って、なんか楽しくなっちゃって、百目鬼さんと知り合って百目鬼事務所のみんなと出会って、こんな楽しいところがあるんだって、本当に、嬉しかった…」
賢史「俺とも出会えたしな」
意味深に笑う賢史さん。僕はそんな賢史さんをじっと見つめて言った。
マキ「賢史さんには、意地悪いっぱいされたけど。僕…、賢史さん嫌いじゃないよ」
賢史「えッ?」
百目鬼「………………」
真っ直ぐ見つめて言ったら、賢史さんはビックリしてた。自分で茶化した話題なのに、僕が肯定するとは思わなかったみたい。
マキ「友達思いで、信じた正義に真っ直ぐな所。百目鬼さんに敵が多いいからいつも目を光らせて百目鬼さんを守ろうとしてる所はカッコいいと思う」
賢史「バッ…!!おいおいやめろよ」
マキ「百目鬼さんのこと好きなんだよね♪大好きなんだよね♪」
賢史「ハァー!?キモい!だから、そんなんじゃねぇって」
百目鬼「賢史…」
賢史「見るな神!そんな目で見るな!蕁麻疹出そうだ!」
百目鬼さんはここぞとばかりにドン引きだと嫌そうに賢史さんを見てる。
賢史「俺はマジに、知ってる顔に手錠かけるとか嫌なんだよ!だいたい何度俺が止めてやったと思ってんだよ!俺がいなきゃ神はとっくに刑務所だろうが!」
百目鬼「俺のはほとんど正当防衛だ」
賢史「おーおー、そのほとんどの残りを俺が止めてやってんだろうが」
百目鬼「頼んでない」
賢史「ッとに可愛くねぇ男だよお前は、それでよくマキちゃんに注意できたな」
百目鬼「…」
百目鬼さんは子供みたいにムッとして、お酒に逃げちゃった。可愛い…。
それに、羨ましい…。
マキ「僕ね、賢史さんみたいになりたかった…」
賢史「?」
マキ「僕って、まだ20歳でもないガキで、そんな僕には、百目鬼さんみたいな大人は凄いかっこ良くてさ。百目鬼さんの役に立ちたかった。百目鬼さんが色んなこと頑張ってるから、僕もそのお手伝いがしたかったし、賢史さんみたいに背中を預けてられる存在になりたかった……」
百目鬼「…」
賢史「…」
マキ「僕、百目鬼さんみたいに甘やかしてくれる人に初めて会ったから、どうしていいか分からなかった。だって、僕だって男で、今までは守られるとかされた事なくて、なんかくすぐったくてさ、最初は凄く心地よかったけど、僕だってなんかできるって思ってて、百目鬼さんに何回も遊びじゃないって注意されたけど、僕は僕なりに百目鬼さんの為になったらって思ってて…。だって男だもん、大事なものはこの手で守りたいじゃない」
百目鬼「……それががガキだっつってんだ」
百目鬼さんがボソッと呟く、その瞳が、苛立って歪んでいく…
……
マキ「…うん、奏一さんに凄く怒られた。〝そういう生意気な事が言いたいなら、それだけの頭と力をつけてから言え〟って…」
百目鬼さんの眉間にさらにシワが寄る。
でも、まだ話し終わってない…
マキ「大事な友達とか、大事な仲間とか、大好きな場所とか、僕の力で守りたかった。だけど結果として、事態を大きくしちゃって助けられてちゃ意味ないよね。返っていっぱい迷惑けちゃって、ごめんなさい」
百目鬼「………ッ」
マキ「僕の我儘で、百目鬼さんにはいっぱい心配させて、ごめんなさい。ナイフの前に飛び出すのも、掴むのも殴られて当然だって奏一さんにもゲンコツもらいました」
百目鬼「ッ…」
百目鬼さんはだんだん苛立って来ていた。
僕の話は我慢ならないのか、僕の目は見ようとしない。
賢史さんはそんな百目鬼さんをチラッと見て、項垂れる僕を見て、溜息つく。
賢史「………。まぁ…、反省してるなら良いじゃん。
なぁ、真面目な話でし喉渇かねぇ?マキちゃん飲み物無いし、なんかもう一杯作って来てあげよう」
マキ「あ、ありがとう」
賢史「気が効くイケメンさんだろ?」
賢史さんはウインクして、カウンターへと向かった。
この席には、僕と百目鬼さんの二人きり…
騒がしいお姉様方の声は緊張で聞こえない。
心臓が、もう、破裂しそう…
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