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野乃助(ののすけ)
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野乃助は太陽がギラギラと輝く中、日陰を求めて見知った顔の家の軒(のき)の下で扇子でゆるりゆるりと自分を煽(あお)いでいた。
「あれ、鶴松じゃないか」
通りを見ると鶴松がキョロキョロしながら通りをつまらなそうに歩いていた。
鶴松と目が合う。
鶴松は野乃助を見つけると嬉しそうな顔で走り寄って来た。
「野乃ちゃん何してるの?」
鶴松は年上の野乃助をそう呼ぶ。
外見が似通っているし年齢も1歳しか違わないから野乃助は別に気にはしていなかったが。
「暑いから涼んでいたのさ、鶴松は何してはるの?」
江戸の町人だが野乃助は京阪言葉、上方の言葉とイントネーションを使う。
「うーん。お店のお使い頼まれていたのと僕を呼んでいるから千代吉姐さんの所に行って来いって言われたけど千代吉姐さん寝てたみたいで出直して来いって言われた」
「千代吉姐さん起きぬけの姿は見られたくないやろねぇ。暇ならここで一緒に涼みやれ」
鶴松は素直に野乃助の言葉に従って隣に座った。
この前15歳になった鶴松の頭には髷(まげ)が作られていたがまだ幼さの残る顔には男らしさよりもかわいらしさの方が際立っていた。
「鶴松」
「なーに?」
鶴松は草履の緒をいじっていた手を止めて顔を上げた。
「下の毛は生えたかい?」
「へ?」
「ちゃんと処理せなあかんよ」
当時の男はふんどしから下の毛がはみ出ているのは粋じゃない、今でいう「イケテナイ」とされ、下の毛だけではなく毛のないスベスベの肌が男性でも「イケテル」という風潮があった。
「それしないといけないの・・・・?」
鶴松は困ったような顔をしている。
「鶴松、家においで」
「え?え?」
野乃助は鶴松の手を引っ張り自分の住む長屋へと連れて歩いた。
色白の整った顔立ちの二人が手をつないで町を歩いている姿は通りすがりの女も男をも振り返らせた。
「野乃ちゃん、なんで家行くの?」
「処理したことないんやないの?教えてあげよ」
「えー・・・・・」
「もう鶴松も大人よってに(なんだから)。身だしなみはきちんとしないけません。野暮(やぼ)になるんじゃあないよ。そんな友達はいらないよ」
「えー・・・・・野乃ちゃんみたいにオシャレさんになれないよー」
野乃助は女性相手に紅やお白粉(しろい)を背中に背負う籠に入れて売り歩くお白粉屋をしている。
当時色白の美男子が女性相手に紅を売ったりお白粉を売る仕事をしていたりしていたことがあった。
現代で言うところのイケメン美容部員や美容室のイケメンスタイリストの類だろうか。
時代は変わっても現代とあまり変わらないところもあるのである。
野乃助は女性にも男性にも訴えかける容姿であることを熟知していた。
少し着崩した着物に色白の肌と艶やかな髪、腕にも足にも一切毛も無く、一挙手一投足が洗練されていた。
それは全て己の外見のことをよく知ってのこと。
俺の外見は金になる。
小さい頃から知り得たことだ。
「何言ってるのやら。鶴松も自覚しな」
「へ?」
「お前も私と同じ生き物だよ」
「うーん?」
鶴松の育ちの良さから来る性格なんだろう。
全く理解出来ていない。
お金に困ったことも、身を他人に売るという考えや経験もしたことないんだろう。
自分の外見には無頓着なようだ。
もったいない。
その鶴松の裏表の無さが野乃助には心地良かった。
「とにかく鶴松、上がりな」
「うん」
鶴松を家に上がらせ座らせる。
箪笥から石を取り出した。
「なーにそれ?」
「毛切り石だよ。風呂屋に行ったらこれで下の毛の処理するんだよ」
「えー?それどうやって使うの?」
「着物脱いでふんどし外して」
「ええー!?」
鶴松がワーワー言いながら恥ずかしがって逃げた。
まだ鶴松は子供やねえ・・・・と野乃助は思った。
まだ誰とも床(とこ)を共にしたこともないだろう。
15歳って言ったらもう大人なんだけどねぇ。。。。。その髷(まげ)はそういうことなんだけどねえ。。。。鶴松大丈夫だろうか。
野乃助は鶴松には裏表のない真っすぐな優しい気持ちになれるのである。
弟みたいに、たまに心許せる友達のように思っていた節があった。
「ほらガキじゃないんだ、鶴松。じっとしな!!」
鶴松を捕まえてはがいじめにして着物の裾をたくしあげてふんどしを外す。
まだ生えそろってない下の毛が露わになった。
鶴松はワーワー言いながら赤面していた。
その時野乃助の長屋の家の扉が開いた。
「どうしたんだ!?何か叫び声が聞こえてたけど大丈夫かっ!?」
4軒先の同じ長屋に住む染芳(そめよし)がガラッと引き戸を引いて家に飛び込んで来た。
染芳は目の前の光景を見てポカンと口を開けていた。
「いや、すまん。邪魔したな」
「染芳!!違う」
「染芳さん?」
野乃助は染芳がきっと今この状況を勘違いしたに違いないと否定し、鶴松はまだよく分かっていないので染芳がなんで邪魔なのかと疑問に思っていた。
染芳がクルッとまた回れ右をして出て行こうとするのを野乃助は近くに合った筆をポーンと染芳の頭めがけて放った。
「違うと言うてるやろ。染芳、せっかく来たからお茶飲んでけば?」
「いや、まさかそういう仲とは」
「そういう仲?あ」
鶴松は下半身を露わにされているのに気付いて急いで着物の裾を直した。
「違うよ。野乃ちゃんが下の毛の処理しろ、って僕の着物脱がそうとしてたとこ。染芳さんも下の毛って処理してる?」
鶴松の言葉に振り返ってこっちを見ていた染芳が困った顔をしていた。
「さぁ、染芳はどうなんだろうねえ?江戸に出て来て野暮ったい生活をしているしオシャレには無頓着の田舎侍だからね」
野乃助はふふんと染芳の顔を流し目でニヤッと笑いねめつけた。
染芳は憮然とした顔で野乃助を見る。
すると染芳は着物の裾をたくし上げてこう言い放った。
「武士であるから余計に身だしなみには気を遣っている。金はないがその辺りを怠ることはないっ!!」
染芳の真面目くさった顔に野乃助はアハハハと笑い、鶴松は自分のよりも大きく見えるふんどしとたくましい足に「ほぇー」と変な声を漏らした。
「そういうところが野暮と言うのさ。粋じゃないねえ。どうせ暇なんだろう?お茶でも飲みやれ」
野乃助の言葉にムッとしていた染芳だったが家に上がりドカッと座った。
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