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18歳以上ですか?
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熱い茶と熱い下事情
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染芳はその日鶴松の家に頼まれていた木箱の作成の為に来ていた。
「染芳さんいらっしゃい。上がって上がって」
「うむ」
染芳は手拭いで汗を拭いながら草履を脱いで鶴松が用意してくれた盥(たらい)に張った水に足を浸した。
「今日も暑いね」
「そうだな」
縁側に座って足から涼を取る染芳に鶴松は団扇をパタパタさせていた。
「もういいよ、鶴松」
「ううん。暑い中歩いて来て大変だったでしょう?」
パタパタと団扇を煽ぐ鶴松はニコニコと受け答えた。
鶴松が15歳で俺が18歳なら3歳しか違わないはずだが。
鶴松はさらに若く見える。髷がなかったら少年みたいだ。
まくり上げた袖から見える鶴松の二の腕の白さと細さに染芳はドキッとした。
「んー?染芳さんまだ暑い?顔赤いけど」
「随分とお天道様の下を歩いて来たからな。傘をかぶってなかったから」
と染芳は言い訳をした。
鶴松はそうなんだー、ごめんねーとなおもパタパタと団扇を強く煽いでいた。
「あ。そうだー。疲れてるだろうからこれどうぞ」
と鶴松は手元にあった本や紙切れの中から紙を取り出し染芳に渡した。
染芳は手に取りさらに赤面した。
春画(当時のエロ絵)だった。
鶴松たちが生きていた時代、木版印刷が菱川師宣により発明されて浮世絵なども木版で印刷をされていた時代だったが、春画も勿論だが、春画と物語がセットになった笑本(エロ本)というものも普及していた時代だった。
春画や笑本は鶴松が片手間で営んでいた貸本屋を通じて流通していたが当時は本は高価なものであり、借りて読むのが普通だった。相場は一日百文位だったから芝居小屋の安い席と同じ位の値段である。
たまにお上の「風紀上良くない」という弾圧もあったりしたが明治時代位まで続いたのである。
今現代の視点から見れば鶴松みたいに「どうぞ疲れたから春画、エロ絵でも見て」というのはただの変態扱いだろうが当時はそういう解釈ではなかったようである。
春画は隠れて見る物ではなく「人と一緒に見て楽しむ物」といった位置にあったようだ。
明治初期にアメリカ人商人が横浜の商家で商談を終えた後そこの商家の奥方が「お疲れでしょう、一息おつき下さい」と春画を披露したという記録も残っているところから相手をおもてなししたり、余興として見せたりする側面があったものと思われる。
ただ、その時の染芳はさらに顔を赤くさせた。
絡み合う男女や男性同士の熱い肢体を見させられて染芳の下半身は天も突く程に元気になってしまっていた。
染芳は腐っても旗本出の武士なのである。
町人の文化とは違う世界で生きて来た人間で、江戸の町人がそうであってもそういうのとは染芳は無縁の世界で生きて来たのだ。まさかいきなり春画を見させられるとは夢にも思ってなかったのである。春画すら今まで見たことがその時までなかったのだ。
染芳、初めてのエロ本なのである。
鶴松の肢体にムラッと来たところに春画でとどめをさされた。
その手渡された春画に染芳はさらに顔を赤くさせて下半身が勃っているのを悟られまいと少し前かがみになって、たらいに浸す足元の水面に己の顔をくっつけんばかりにした。
「あれ?染芳さんどうしたの?」
「う・うむ。。。。。少し腹の調子が悪くてな」
「えー?大丈夫?」
「お・おい・・・・」
鶴松が心配そうに傍らに寄ってお腹をさすって来ようとするのを染芳は片手は下腹部を押さえている振りをして違う物を押さえ、もう片方で鶴松の手が触って来ようとするのを防いでいた。
「鶴松、大丈夫だから」
「そう?でも苦しそうだよ?駄目だよ。座敷にお布団敷くよ」
「!?」
染芳も若い男なのである。
布団を敷くと言われて鶴松とそういうことをするという考えやいきり立つ己の一物に瞬時に頭をいろいろ駆け巡ったのを誰も責められはしないだろう。
「鶴松、大丈夫だから・・・・」
「えーでもー、ってあ」
お互い攻防をしている間に乱れた染芳の裾(すそ)が割れていきり立つふんどしの山が盛り上がっていた。
鶴松はそれを凝視していた。
「あ、いや」
しどろもどろに弁解しようと染芳はしたが、鶴松は不思議そうな顔をしていた。
「なんだー。染芳さん元気になってただけ?」
「おぅ?」
「そんなのよくあるよー。美坂野兄ちゃんが言ってた。男はそうなるしその時は手でこすってやれって。僕こすってやろうか?」
「美坂野は何をお前に教えているんだ!!」
あのエロ役者。
鶴松に何を教えてるんだ。
「えー?そういう時は僕がこすってあげたら落ち着いて気分が良くなるよ、って美坂野兄ちゃん教えてくれたよ?でも仲良い人以外には絶対するなって。美坂野兄ちゃんが知ってる人以外は駄目だって。なんでだろうね?でも染芳さんも美坂野兄ちゃんも友達だから知ってるよね。だからいいよね」
「ダメだ!!鶴松!!ちょっと暑いお茶をくれ!!それを飲んだら美坂野のところに行くぞ!!」
「えー?」
「いいから早く!!」
染芳の剣幕に鶴松は驚いて急いでお店の方に向かった。
生憎(あいにく)、鶴松の家では火を起こしていなかったのでお店の方にお湯を取りに行って暑いお茶を入れてもらって急いで戻ってきた。
「こんなに暑い日に熱いお茶をなんで飲むの?」
「いいから!!」
染芳はその煮えたぎるような熱いお茶をぐっと飲む。
いきり勃つ己の一物と心の中でうずまいていた気持ちは瞬時に治まった。
「ううっ!!」
「だ・大丈夫?染芳さん?」
暑さで汗はダラダラ流れるし目まいすら覚えたが染芳の心はいつもの冷静さを戻した。
「鶴松、美坂野のところに行くぞ!!」
「えー?美坂野兄ちゃん寝てるかもよ?」
「いいから来るんだ!!」
染芳はぐいっと鶴松の手を引っ張り美坂野が舞台に立つ小屋そばにある美坂野の家を訪れた。
「美坂野!!」
引き戸を引いて染芳は美坂野の家に飛び入った。
「わ・・・・・」
「なっ!?」
飛び入った染芳はすぐに回れ右をして扉を閉めてぜぇーはーと息を荒くしていた。
鶴松は扉の先に見てしまったのだろう。目を丸くして口をポカーンと開けていた。
「鶴松、見たのか?」
「う・うん」
「忘れろ」
「う・うーん・・・・」
戸の前でそんな会話を鶴松としていた時染芳の背後の戸がガラガラっと開いた。
「なんなんだよお前らは。いきなり飛び込んで来て」
「お前が何をしとるのだ!!昼間っから!!」
「はぁー?見て分からないのか?」
背後の今さっき見た布団の中でモゾモゾと動く者がいた。
「お前という奴は!!」
「いいじゃねーか。染芳は堅いんだよ。野暮言うなよ。めんどくせえ」
「お前は昼間から淫蕩(いんとう)に呆(ほう)けて鶴松にも何を教えてるんだ!!」
「何を?どういうこと?」
美坂野が鶴松を見た。
「うーんと。元気になった時こすってやれ、って教えてくれたのをね染芳さんにしようとしたら」
「鶴松!!言わなくていい!!」
「あーっはははははは!!染芳、鶴松の姿に欲情でもしたのか?」
「違う!!俺は!!」
「こいつぁ愉快じゃないか。旗本のお武家様でも町人の男にムラムラするのかい」
「バカにしてるのか!!」
「バカにしてねーよ。そっちの方が親近感湧かぁ。お前ら今から中の奴叩き出すから茶でも飲んでけよ」
そういうと美坂野は「おい、出てけ」と布団の中でモゾモゾしていた人間を布団ごと蹴った。中から出て来たのは・・・・あれは?見覚えがある。確か美坂野と同じ小屋の役者で女役をしていた男じゃなかったか。
美坂野、この前はどこかの金持ちそうな女と歩いていたのを見たが。
こいつはいつか地獄に落ちるだろうな。と染芳は思った。
前をはだけた美坂野はそれを直そうともせず、その役者を叩き出した後、布団を蹴って空間を作ると井戸水を汲んでいた桶に杓子を突っ込みぐいっと飲んで棚から誰かから貢がせた物だろう、高級品の羊羹(ようかん)と茶を出した。
「わー。羊羹だー。高かったんじゃないの?」
「蓮華王院のじじぃが買って持って来たのよ。お前ら食え」
「美坂野兄ちゃん食べないの?」
「俺はどうもこういう食べ物は苦手なのよ。歯ごたえがなんとも言えねえ。気持ち悪ぃ」
当時羊羹は高級品だった。
鶴松も数える程しか食べたことが無い羊羹を和紙に包(くる)んで大事そうに懐(ふところ)にしまった。
「どうしたい?鶴松食べねぇのか?」
「うん。春ちゃんや千代吉姐さんとか小志乃さんとか野乃ちゃんとかに持って行ってあげたい」
「そうかい。鶴松は優しいねぇ」
染芳は美坂野が鶴松を見る目に何かを思った。
それは弟を可愛がるような、それでいて何か違う。
愛おしそうな目だ。
「おい、鶴松」
「なーに?」
「俺は鶴松に元気になった時はこすれとは言ったが、俺以外にはするなと言ったはずだ。どこをどうしたら俺と仲の良い奴全員にしてやれになるんだ?染芳にしなくていい!!」
「あれ、そうだったっけ?僕間違えて覚えてた?あはははは」
「笑いごとじゃない!!美坂野も鶴松も何をしているんだ、何を!!美坂野、お前は鶴松に何を教えているんだ!!」
染芳はのんきに笑う目の前の二人に怒りを通り越して呆れ返っていた。
こうものんきに笑い合う二人を前にすると調子が狂う。
俺がおかしいんだろうか、と。
「あーあ。で、鶴松は染芳のをこすってあげたのかい?」
「ううん。染芳さん怒り出して美坂野兄ちゃんのところに行くぞって言うから」
「ふーん。染芳は何?鶴松にムラムラっと来た感じかい?」
「違う!!いきなり春画を見させられたからそうなっただけだ!!」
「はん!!春画位で反応してるなんざぁ、目の前で女か男を抱く時はぶっ倒れちまうんじゃないかい?染芳お前、まだしたことないんだろう?」
「!?」
美坂野の言葉にまた顔が赤くなった。
なんで町人共はこうもあけっぴろげに物事を話し、そしてかようにも下卑ているのだ!!
染芳は怒ってその場を坐して出て行った。
「美坂野兄ちゃん。。。。染芳さん怒ってたよ」
「いいよ。放っておけ。明日にでも謝りに行くからさ」
美坂野はそう言ってまたゴロンと寝転がった。
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