アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
それは5歳の時のことだ。
父に連れられ、ユエグァンを挟んだ向こう、スディング王国まで出かけた時、精霊王の森の近くで野宿をすることになった。
この辺りは精霊王の森が近いこともあり、盗賊がいない。
旅人の聖地でもある。
好奇心旺盛だった俺は付近を散策するといって精霊王の森まで一目散に走ったのだった。お供を撒いたことはあとでこってりと絞られた。
精霊王の森に入った、と自覚したのは辺りの様子がやや暗くなった時だった。
日光の入り具合とは違う、静けさを伴った陰り。
そこらの生物とは違う、不思議な気配をまとった生物を感じ取った。
やたらと魔力の気配が動くのだ。
おそらくそれが精霊なのだろうと幼いながらに悟った。
決して姿を見せることはなかった。
すると、精霊の気配とも違うたしかな生き物の動きを感じ取る。
明らかに動物の類であった。
それはガサゴソと茂みを動く。
俺は危険を顧みず、不用意に近づいた。
「わっ!」
「!?!?」
動物ならば問題はないと驚かせるつもりで声をあげたのだが、相手は想像以上に驚いたようで、隠れていた場所から見事に転げ落ちた。
「やべっ」
動物の正体は人間だった。
しかも子供だ。
「おい、大丈夫か?」
転げ落ちた先をそっと覗けば、頭を打ったのか、打ち付けたところをさすっていた。
「ん……イタ、イ……」
子供は何かをつぶやいたが俺には聞き取れず、聞き返した。
「すまないが、もう一度いってくれるか?」
子供はこちらを見た。
怪我に関しては大丈夫そうなのだが、キョトンとした顔でこちらを見ていた。そして、口を開く。
「コトバガワカラナイ」
「え?」
子供はたしかに何かの言葉をつぶやいたのだが、またも聞き取れなかった。
言語として認識しなかったのだ。
「言葉が、通じない?」
この辺りの国は殆どが共通言語を使っている。しかし、それは外交でのことで、国内では自国の言葉を使っていることもある。
幼いながら隣国の言葉をマスターしている俺にとって、初めての言語との遭遇だった。
仕方ない、と王族であるがゆえに滅多にしないことだが、自分から名乗ってみることにした。
「クラウス」
自分を指差し、名前だけの簡潔的な自己紹介。
通じたのかはわからない。相変わらずキョトンとした顔でこちらを見ており、何も返ってはこなかった。
手を差し出し相手を起こす。
同じくらいの背丈。
少し泥まみれになっているが身なりは普通。
近くの村民だろうか。
色々と推測を立てるが正直今は意味をなさない。
しかし、精霊王の森の中というならば、この子供が果たして迷子なのか違うのか、そこははっきりしなければならない。
ひとまずきた道を戻るか、と北方向を向いた時、一瞬意味がわからなくなっていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 13