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記憶のカケラ 20
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ジュ~と軽快な音といい匂いをさせて、松田さんが、ホットプレートの上に牛脂を乗せて溶かし牛肉を焼いていく。
僕も手伝おうと手を伸ばしかけたけど、その手を翔吾さんに掴まれて、膝の上に座らされた。
「あ、あの…翔吾さん?僕も手伝わなきゃ…」
「雪はここで俺と出来上がるのを待ってたらいい」
「でも、今日の主役は翔吾さんで、松田さんはお客様だし…」
困って眉を八の字にして振り向きながら見上げる僕の顔を、翔吾さんの温かい手が優しく包む。
優しく甘い目で僕を見つめながら、翔吾さんが笑って言った。
「雪は本当に優しいな…。晴樹はさ、一人暮らしが長くて料理が得意だし、任せておけばいいんだよ。なぁ、晴樹?」
「まあ料理は好きだしそこそこ出来るけども。おまえだって一人暮らしが長いじゃないか…」
「俺は、雪の為にしか作らねぇ」
「…うん知ってた。雪くん、今日は翔吾の誕生日だからいいんだ。俺に気がねしないで。雪くんは、翔吾の傍にいてあげて。それが一番のプレゼントだから」
「…すいません」
僕が軽く頭を下げて謝ると、松田さんはフワリと笑って、ホットプレートに調味料と食材を入れ始めた。
さすがにずっと翔吾さんの膝の上は恥ずかしいから、すき焼きが出来上がる前に膝から降りて、翔吾さんの隣に座る。
部屋に充満するいい匂いにお腹が小さく鳴った頃に、「出来たよ」と松田さんの声がして、僕は思わず笑顔になって手を合わせた。
すき焼きをお腹いっぱい食べて、松田さんに後片付けまで手伝ってもらって、暗くなりかけた頃に、松田さんは帰って行った。
松田さんを玄関で見送って、翔吾さんと手を繋いでリビングに戻る。
ソファーに座ろうとした僕を、翔吾さんが正面からしっかりと抱きしめた。
何も言わずに強い力で抱きしめられて、しばらくは僕も翔吾さんを抱き返して、翔吾さんの鼓動の音を聞いていたけど、あまりにも動かないから、不思議に思ってソロリと顔を上げた。
見上げた先で、翔吾さんの鳶色の瞳が僕を映していた。
途端に僕の胸が苦しくなって、また好きが積もる。
僕は今、すごく蕩けた顔をしてるのだろう。翔吾さんの瞳の中の、小さく映る僕の顔が、とても幸せそうだ。
「…どうしたの?」
「雪…。俺さ、こんなに嬉しくて幸せな気持ちになった誕生日は初めてだよ…。雪がいるだけで、毎日の一つ一つが特別になるんだ。頼むから、ずっと傍にいてくれ。おまえのいない世界には、もう戻れない…」
「ふ…ふふ、なんか大袈裟だよ?でも、そんな風に思ってくれて嬉しいっ。僕の方こそお願いします。ずっと一緒にいてね?」
「当たり前だ」
翔吾さんの顔がゆっくりと降りてきて、少し冷たい唇が僕のそれと重なる。
近づく鳶色の瞳が、キラリときらめいて見えたのは、僕の気のせいだったのだろうか…。
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