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お別れのしかた(1)
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沢口と話した次の日、俺は会社を休んで誠の地元に来ていた。東京から新幹線と私鉄を乗り継いで4時間ほど。まあまあ遠い。
駅を出ると、繁華街が広がっていた。沢口からもらった住所を検索してみると、どうやらここから少し歩いたところにあるバス停から行くのがいいらしい。
誠に何も連絡していないから、いきなり来て会えるのかわからない。でも、逆に逃げられる可能性もあると思って連絡できなかったのだ。
バス停へ行くには線路を越えないといけない。線路の上にある歩道橋を上ると、よく知っている顔が暗い顔で欄干にもたれて線路を覗き込んでいた。
「えっ…誠?」
思わず大声を出してしまった。
誠は俺の声には気づかず、ぼーっと線路を見つめている。
その様子がなんだか危なっかしくて、俺は慌てて駆け寄った。
「おい、誠!」
「つしま?どうしてここに…」
「早まるな!!」
「え?何を?」
誠はぽかんとした顔で俺を見ている。
「あ、いや…なんか落ちそうだったから…」
「大丈夫だよ。手すりあるし」
「そういう問題じゃなくて」
なんだ俺、一人で焦って馬鹿みたいだな。
「せっかく来てくれたのに、ごめん。俺、この後ちょっと用事があって」
「あ…そうか」
誠は無表情で話を続ける。
「結婚式の打ち合わせがあるんだ。明日、結婚式だから」
「…明日?」
「うん。式の後、入籍」
「へぇ…」
俺がもたもたしている間に、誠を取り巻く環境はどんどん進んでいた。誠自身がどう変わったのかは、よくわからないけど。
「つしまは、どうしてここに来たの?」
誠はじっと俺の目を見ている。
「俺は……」
明日結婚する人に言うべきことじゃないのかもしれない。でもこれ以上自分を隠して、誠を傷つけたままでいたくない。
「俺は、誠に告白しに来た」
「え…?」
「誠のことが好きだ」
「………」
誠の目が揺れている。
「誠と一緒に暮らしてて、俺、何回も救われた。天真爛漫で、明るくて、いつも俺の話を真剣に聞いてくれて…誠といると、笑顔になれるんだ」
誠は黙って続きを促した。
「男同士だとか、そういうことがすごく気になっちゃって、素直になれなかったんだけど…家に帰ってきてほしい。俺、誠がいない間に、なまずの世話もできるようになったんだよ」
「あっ…トンテキ元気?」
「元気だよ。一緒にショッピングセンター行ったりしてさぁ」
「え???正気?」
「あ、いや、それはいいんだけどさ」
「よくないでしょ?!」
うっかり口が滑った。普通に考えたら、なまずと一緒におでかけなんて頭おかしいよな。
まこちゃんが人間になった話、してもいいだろうか。いくら誠でも信じてはくれないかな。
俺があれこれ迷っているうちに、誠は再び線路の方を向いていた。
「俺は…つしまと一緒に暮らしてる時が、今までの人生で一番幸せだった」
「うん」
「でも、もう遅いよ。俺は明日結婚する。つしまのところには戻れない」
誠はポケットから小さな箱を取り出した。
「…それは?」
「結婚指輪。これをはめたら、俺もつしまの言う普通の人間の仲間入りだ。これが俺にできる唯一の親孝行なんだ」
「………」
誠は箱を見つめながら淡々と話す。
「こんな遠くまで来てくれてありがとう。俺は俺で頑張るから、つしまも俺のことは忘れて、幸せになってね」
「……無理だ」
「え?」
「誠をここに置いていくことなんてできない。さっきからずっと、今にも死にそうなくらい暗い顔してるのに。それが明日結婚するやつの顔かよ?」
「…そんなに暗い顔してる?」
「してるよ。一緒に住んでたときの誠とは別人みたいだ」
俺は誠から指輪の箱を奪い取り、線路に向かって投げ捨てた。
「えっ、ちょっ、つしま?!」
驚いた顔をしている誠の腕を、しっかりとつかんだ。
「一緒に帰ろう。俺が守ってあげるから、俺も誠も、自分らしく生きようよ」
「で、でも」
「早く行こう」
誠の腕を引っ張って、駅まで走った。
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