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シンデレラは裸足 1
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「皇子様ー!」
爽やかな青空の下。
校門に入ってすぐ、僕を待ち構えている人たちに手をふってやると、こちらがびっくりするぐらいの声量で、キャー!!!! が返ってくた。いつもの朝の光景。女子にモテるのは、言い方悪いけど、もう慣れっこだ。
皇 光子郎(すめらぎ こうしろう)。
財閥の御曹司で、眉目秀麗、文武両道、清廉潔白。え、誰のことって、僕のことだけど。エリートとセレブしか入れないこの学費のバカ高い高校には、もちろん推薦であっさり合格したし、入学式には生徒代表の挨拶もした。そこで全職員・全生徒に僕が認識されて、いまやアイドル並の存在になっている。
あだ名は、苗字と名前から一文字ずつとって、『皇子様(おうじさま)』。むっちゃ恥ずかしいけど、皆がそう呼びたがるんだから仕方ない。
「佐久間さん、髪切った? 可愛くなってる」
クラスメイトに声をかけたら、めっちゃ顔を赤くしてあげくに失神した。佐久間さんの友達は彼女を介抱するけど、他の女子は自分も自分もとアピールしてくる。……えっと、そろそろ教室まで行きたいんだけどな。
「はい邪魔ー。どいてー」
ちょうどいいタイミングで、目の前の群衆をどけ、道を作ってくれるのは、僕のボディーガードの平 民雄(たいら たみお)だ。僕はタミオって呼んでる。こいつの家族ごと僕の屋敷で生活しているんだ。母親はメイド、父親は僕の親父の秘書、そしてこいつが、僕の遊び相手であり身辺警護をしている。
もちろん、ちゃんと大人で経験も山積みのSPだって付いてるけど、さすがに校内までは来れない。あとは僕がイジメや女性問題や違法行為なんかしないように、こっそり目をひからせてるってわけだ。そんなバカなことはしないのに。
僕の教室にたどり着く。タミオとはクラスが違うから、ここでバイバイだ。
「……いつもありがと」
「いえ。かたじけのうございます」
きっちり頭をさげる。学校では普通に友達でいてよ、ってお願いしたんだけど、どうもタミオはこういう性分らしい。
……さて、こんなにも大勢をとりこにしてる僕だけど、もちろん僕を嫌いな人もいる。たいていの人は、僕にひがんだりねたんだりしても、かないっこないから諦めるんだけどね。それがあれだ。
「うーわ。きも。奴隷かよ」
こちらに聞こえるように悪口をはく、目付きの悪い彼。まー絵に書いたように、不細工で人相の悪い友達を引き連れている。こんな学校にも良識のなさそうな人がいるなんて信じられない。スポーツ特待生だかなんだか知らないが、もうちょっと教養を身に付けたほうがいいと思う。
「……それでは光子郎様。また昼食時に参ります」
「あ、うん。またね」
タミオはガン無視でまた僕に一礼し、自分の教室へと去っていった。ヤンキー(?)も、シカトされるのには慣れっこだ。てか、そもそも、なにをどうやってもあいつらに勝ち目はない。教師も生徒も僕らの味方だし、この学校はイジメにも厳しいから、『本校生徒としての品格と矜持』のない奴は退学になる。意地の悪い顔は生まれつきだから仕方ないとしても、僕らにちょっとでも恫喝なり暴力なりをしたら即アウトだ。
舌打ちし、周りにゴミを出したまま去っていく。いやいやいやいや、汚いな。
僕にはなんの否もないが、見苦しいのは嫌だ。せっかく皆のご両親が多額の寄付をしているからこそ、校舎がこんなに綺麗に保たれているのに。
片付けようと近付いたところで、隣の教室から、ゴミ袋を手にした女子が出てきた。
「あ、君……」
声をかけるより早く、廊下が汚されていることに気付いた彼女は手早くゴミを集めて袋に入れる。この学校の生徒にしては珍しく、髪が乱れている。ヘアイロンとかコテとかやらないのか。あと化粧もしてない。丸眼鏡。いかにもおとなしそうな。
「……なに? だれ?」
そう訊かれて、僕は戸惑った。僕を知らないだと?
「姫野ごめんこれっ、もっ、皇子様!?」
くしゃくしゃの包装紙を手に、クラスから飛び出してきた女子が、僕に気付いて固まった。
「おーじ? なにそれ」
「バカ、あんた知らないの!?」
「……おーじ君?」
発音が違う。それだと東京都北区の地名だ。
一通り、友達であろう女子が僕の説明をする。姫野と呼ばれた彼女は、怪訝そうに眉をひそめるだけだ。
「……………あ、そう」
「それだけっ?」
「…………興味ないし」
ガーン。
「あっ、ごめん」
姫野に謝られる。
そのときまともに顔を見た。
……………これ。
原石だ。
「あー、べつに、謝らなくても。あっ、ていうか、ありがと。廊下」
てんぱる。落ち着け、自分。
「だって汚いの嫌だし」
「だよね、うん」
「姫野きれい好きだもんねー。いいんだよ? 窓掃除とかしなくてもさあ。業者がやってくれんだから」
「だって汚かったから……」
鼓動が高鳴る。この子、あれだ。きちんと身だしなみを整えたら、それなりに美少女だ。眼鏡を外したら変身するタイプだ。それにきれい好き。これはもう、むっちゃポイント高い。石鹸の匂いがするより爪がナチュラルにつるつるより、乳でかいより料理得意よりはるかに僕のドストライク。
期待をこめて、僕は久しぶりのキラースマイルを出した。これで落ちなかった人はいない。
「姫野さん、もしよかったら、放課後お茶しない?」
「あ、無理」
粉砕された。
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