アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
外は暗くなっていて、部活で賑わっていたグラウンドも明かりだけが存在感を示していた。段々と暖かくなってきたとは言え、日が暮れれば風が身体を冷たくする。
「潤ちゃーん! お疲れさま」
キラキラスマイルを惜しげもなく披露する俊哉は、部活が予定より遅くなっても怒った事はなく、いつもの笑顔で待っていてくれている。普段は馬鹿で変人で迷惑ばかりかけてくるが、そういうとこは俊哉の良いとこだと思う。
だけど、今回はその数少ない良いとこを褒めてやる事は出来なかった。
それどころではない。
「……あぁ、お疲れ」
心ここにあらずとは今の俺にぴったりだ。そんな俺の様子に俊哉が不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「あ?」
「疲れた? 様子が変だけど」
練習は、確かにいつもよりハードだったが、別になんて事ない。
そうではなくて――――。
「部長にさ、告られた」
ぽつり、そう答えた俺に俊哉の足が止まる。俺も足を止めて振り返る。
「部長に、告白された」
返事がないので意味が分からなかったのかもと言い直す。すると俊哉が目をパチパチさせ信じられないと俺を見つめた。分かるよ、信じられないよな。
あの後、いつも通り他の部員は解散して、部室には話があると言っていた部長と俺だけになった。話は本当に5分で終わった。部長が話し出してから俺は一言も喋れなかった。
「えーーーーっ!?」
辺りに響き渡る声。慌てて耳を両手で抑える。
「うるせぇっ!」
「ウソウソ!? どういう事? 部長って、あの三年生の洗濯洗剤のCMが似合いそうな爽やかなイケメンの人だよね!?」
へ、え?あ、なに?ちょっと待ってと俺よりも動揺してうるさい俊哉を見ていると俺のが落ち着いてきた。
洗濯洗剤のCMって確かにそれも分かる気がするな。爽やかってのが、やっぱり部長のイメージなんだよな。ちょっと笑いそうになる。
「とりあえず落ち着けって」
「落ち着いてられるかぁ! くそぉー! 俺も部室にいれば良かった!」
「無理だろ。何で部外者が部室にいんだよ」
つかさずつっこむとチッと舌打ちされた。おい、キャラが違うぞ。さっきまで心が広いのがお前の良いとこだって思っていたんだが。
次第に悪どい顔から、いつものニヤニヤ顔に変わった。その数秒で何を考えたのか。本当に気持ち悪いと思う。イケメン顔を崩壊させてまで何を想像してるのか聞く気はないが、まじで気持ち悪いから止めて欲しい。一人でいたら変質者に間違わられるに違いない。
そんな変質者顔で俊哉は、俺を見ると
「詳しく話してもらおうか」
フッフッフッとなんとも言えない、にやけ顔で近づいてきた。後退りしてしまう。あれ、なんか怖ぇ…。一度もこいつに怯えたことなどないが、変質者特有の怖さが……。
「詳しくって言っても…付き合って欲しいって言われただけで」
「それだけ?」
「他になにがあんだよ」
「なにってナニ?」
それ、すげぇウザイんだけど。なんか、スッと普段の自分が戻ってきた。くるりと変質者に背を向けて帰路へと向かう。
「あ! 待ってよ~!」
それにしても、まさか部長からの話が告白だった時はびっくりしすぎて声も出なかった。今まで、そんな素振りはなかったし男子校だからといって同性愛者がオープンな訳ではない。中学からのエスカレートの男子校だから多少はそんな人もいるかもしれないが、今んとこ出会った事ないから免疫がないというか…どう反応していいか分からなかった。
俺も今のとこ好きな相手が同性だからか、引くとか嫌悪感はなかったけど、やっぱりびっくりはしてしまい、すぐに対応は出来なかった。
「待ってって~」
「来んな。近寄んな。話しかけるな。そして変態は転校しろ」
「えぇっ!? もうっ横暴だなあ! で、潤ちゃんは部長さんに何て言ったの?」
「あー…返事はまだいいって言われた」
「どうして?」
「俺が部長のこと好きじゃないって分かってるから少し考えてみてって言われた」
「なるほどね」
「断るけどな」
告白された時はびっくりしすぎて何も言えなかったが、冷静に考えて、めちゃくちゃ悔しいが、おれはこの変態が好きな訳だ。
だから、部長の気持ちは受け入れられないという結論になる。
「えーっいいじゃん! 付き合ってみたら? 好きな気持ちは後からだっていい訳だしっ! 案外あっさり好きになるかもよ?」
その言葉に眉が寄る。前を歩いている俺の顔は見えないはずだ。
「……くそが」
コイツは知らず知らず俺を傷つけている事を知らない。この無邪気な笑顔に何度も惹かれ、何度憎いと思ったか。簡単に違う人を好きになれるのなら、こんな苦しい思いしてまで、お前を好きでいない。そんな簡単な話しだったら、どれほど良かったか。
「…後から、か」
そんな事あるのだろうか。付き合っていく内に部長を好きになるかもしれないなんて、あるのだろうか。部長は本当にいい人だ。
だからって恋愛相手としてみた事は一度もない。
もし本当にそうなったら俊哉とは普通の友達に戻れて、この苦しい思いからも解放されるんだろう。
しかも俊哉は喜んでくれる。……一石二鳥じゃん。
罪悪感を感じず、お前の隣に居れるのか。いいな、それ。そうなりたいわ。
「そうそう! よくある話だって! 部長さん……爽やかイケメン×平凡…………うん、うんっ、いいね! 有りだよ有り! 実は爽やかに見せてドSだったりしちゃうのかなあ……言葉責めとかしちゃったり? それをツンデレで返す平凡…はあ、いいねいいね、たまらんっ最高っ! ね、潤ちゃん付き合うよね!?」
すごい勢いで両肩を掴まれる。目の前にはキラキラスマイルの俊哉に苦笑が漏れた。何が正解か分からなくなる。好きなやつがいるのに違う人と付き合うってダメだと思う。何より部長を利用するようで気が進まない。
だけど俊哉が喜んでくれるならーーと揺れ動く心。ダメだな、俺は。この笑顔が好きで、馬鹿みたいにこいつが好きで、こいつが喜んでくれるならって。部長と付き合ったら、笑ってくれるって。
だめだ、冷静になれない。
「あ、でもやっぱ潤ちゃんの気持ちが大事だし……無理はよくないかな」
あんだけ興奮してたくせに、俺に気を使うとか今更だろ。さっきとは正反対の言葉を言う俊哉がどうしようもなく愛しくなる。ほんと、どうかしてる。惚れたもん負け。
「さっきと言ってる事、全然違うけど」
苦笑が漏れた。
この恋は本当に疲れる。振り回されて、何気ない言葉に胸を痛めて……なんなんだろうなあ。
やめたいな、こんな恋。ああ、これが本心なんだな。
「そうだな、部長と付き合ってみようかな」
お前への気持ちを忘れられるのなら。
「え、本当に?」
「あぁ、いつか好きになるかもしれないんだろ?」
口元の片端を上げ、いたずらっ子のように笑う。これが正しいのか分からない。きっと正しくはないんだろう。
だけど、もう分からなくて。
「だけど、潤ちゃん」
「俺が決めたから、お前は気にすんな。何事も経験だよ」
お前への気持ちと別れを告げたい俺の逃げと、お前の笑顔が見たい俺の欲望。ぐちゃぐちゃになりながら部長と付き合う事を決めてしまった。
苦しい思いをせずに笑顔でお前の隣を歩きたいって思ってしまったんだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 12