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放課後。部活も終わり、いつものように部長と肩を並べて帰宅する。
「山本くん、今日調子良かったね」
「そうっすか?」
「タイムが縮んでた。いい事でもあった?」
「…あぁ、いやその、今度の大会に友達が応援に来てくれるらしくて、みっともないとこ見せられないじゃないですか」
「だから気合い入ってたんだ?」
部長はにこやかに笑う。俊哉が来るってだけで練習に力が入った俺は、まだまだ俊哉への気持ちが強いんだと分からされた。
でも、そんな簡単にいく気持ちではない事は始めから分かっていたのだから焦る必要はない。ゆっくり忘れられたらと思う。
「その友達って前に来てた、背の高いかっこいい子?」
「そうです」
「そっかー。……妬けちゃうなぁ」
「え?」
驚いて顔を上げると部長は優しく微笑んでいたのだが聞こえてきた言葉と表情が一致しなくて戸惑う。
部長、今何て言った?
「ふふ、意味が分からないって顔してる」
部長は俺の目の前に移動すると優しく頬を撫でた。触れられた場所が、ぞわりと鳥肌が立つ。頭でこうなることもあるって分かってたはずだ、と言い聞かす。今まで何も無さすぎたのだ。
何より部長が相手だから失礼な態度は避けたい。
「学校でも、よく一緒にいるの見かけるけど本当に仲いいよね。彼氏として妬けちゃうな」
彼氏…。男同士だから、どっちも彼氏になるのかと今さらながら思った。部長のこと彼氏って言わなければいけないのか。違和感だらけなのは、この際無視だ。
「…す、すいません」
「謝らなくていいよ」
部長は微笑みを崩さずじっと見つめてくる。俺も見つめ返すが、どこか客観的だった。部長の手は撫でるのを止めて頬に添えるだけになった。
そしてこの雰囲気は、あの雰囲気だと察する。きっとキスだ。俺と部長は恋人同士。
それ以外なにがあるというのだ。
ニキビ一つなくて綺麗な顔。だが、いくら綺麗な顔だからって正真正銘の男で……。気持ち悪いという感情はないだが、心がついていかない。このまま流れに任せてしまっていんだろうか。まだ心は部長にはなくて、今も浮かぶのは俊哉の顔。
どうしたらいいのか。適当に理由つけてキスを止めてもらうか?だけど恋人同士ならするのは当たり前だし、断るのっておかしいよな。
優しい顔の部長を見上げながら内心ドキドキ焦っている。決して緊張とかではなくて、嫌なドキドキだ。
こうも悩んでいる内に部長の顔が近づいて来た。
どうしたらいいっ、わからないっ。が、でもやっぱり、俊哉の顔がちらつく。
やっぱり無理だ……!!
「ぶち…んっ!?」
意を決して部長に止めてもらおうとしたが、いきなり口全体を覆われる感覚にパニックになる。何が起こった!?
テンパりながら部長を見ると、さっきと変わらない微笑みが俺の背後に向けられていた。
背中に感じるのは温かい温度。
「んーーーっ!」
口を覆ってるのは手だと気づいて叫ぶが、なんせ覆われてるので話す事が出来ない。もちろん部長の手ではない。じゃあ誰だ!?
「あ! ごめん!!」
慌てて外された手。と同時に聞き覚えのある声に驚く。振り向くと本人もびっくりしているのか外された手が宙に浮いていた。
「俊哉!? なにやってんだよ、お前…」
普段から意味が分からないやつだが今回ばかりは本当に意味分からない。
「あ、いや学校内でキスするのは、ヤバイんじゃないかなーと思って…はは…ほら部活後で、まだ他に生徒いるかもしれないし…先生もいる訳で……ね?」
言い訳のように述べる俊哉に言われ気づく。見られてた……!!
顔が熱くなっていくのが分かる。よりにもよって俊哉に見られるとは。断ろうとしたとはいえ、見られたくない場面だった。
「そうだね。ごめんね山本くん」
部長が素直に俊哉に同意し俺に謝る。
「…大丈夫です」
罪悪感なのか分からないが、どんどん語尾が小さくなっていってしまった。
「あー、じゃ俺はこれで…」
そんな俺を見て気まずくなったのか俊哉は帰ろうとする。が、ただで返すと思うなよと睨みつけるとヤバイって顔した俊哉と目が合う。
「おい待て。お前さ」
「ちち、違うよ!」
「何が違うんだよ?!」
「決して尾行してた訳じゃないから! …あ」
アホだと思ってはいたが、ここまでとは思わなかった。
「くたばれ!」
「ぎゃあ! ごめんなさぁぁぁあい!」
俊哉を蹴りあげようとした足が避けられてしまい宙に舞う。と同時に叫びながら去っていく背中。
くそっ逃げられたかっ!
「あんのっ馬鹿!」
昼間にワクワクしていたのは、これを企んでいたのかと気づく。
「部長っ、ホントすみませんっ…」
「面白い子だね」
慌てて謝ると部長は笑って許してくれた。だけど俺の怒りは収まらない。アイツは本当に俺を怒らす天才だ。
「帰ろうか」
「はい…」
俺は部長に促され、トボトボ歩き始める。部長に対して失礼な事をしてしまった。俊哉がした事だけど申し訳なくて落ち込む。
それに俊哉に見られてしまった。見られたくなかった。なにやってんだろ俺。すげー惨め。
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