アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
普段より重い足を上げて学校へ登校し、いつもの朝練を少し早めに終わらして屋上へと向かう。
朝の屋上は滅多に人が来ない。朝から屋上に行くとか、どこの暇人って話だ。
屋上の重々しい扉を押すと強い風が体当たりしてきて、一瞬息がしずらくなってしまう。
小さく深呼吸をして周りを見渡せば、何もないガランとした屋上に一人の男がフェンスによりかかっていた。
メンズファッション雑誌のモデルみたいだと思う。改めてコイツと友達なのが不思議だ。
そんなモデルみたいなやつは俺を見つけると微笑んだ。
綺麗な顔で笑う。だが、それとは裏腹に胸の奥がざわざわと騒がしくなった。
何故なら、いつも目尻を下げて幼く笑う笑顔が、作った笑顔だったからだ。
「潤ちゃん、おーはよ」
ーー俊哉。話し方は、いつも通りだ。
「はよ」
「こっから潤ちゃん見えてたよ」
俊哉は人差し指を下に向ける。フェンスの向こうに見えるのはグラウンドだ。
「ここからじゃ誰が誰だか分かんないだろ」
俺も俊哉の隣に移動し見下ろすと蟻と同じくらいのサイズになってしまった人がチラホラ見える。ここからだと遠すぎて顔すらわからねえ。
「えー分かったよー? 3レーンで走ってたでしょ?」
「は?……お前いつから、ここにいたんだよ?」
そうだ。確かに今日は3レーンで走っていたが、レーンで走っていたのは準備運動した後に10分しかしていない。…ってことは40分前ぐらいには居たという事になるが。
「潤ちゃんがねー、こうやってしてる時から」
俊哉が俺に見せたのは陸上部特有の準備運動。それを見て予想があっていた事が分かる。あり得ねえ……俊哉は朝に弱く、いつも遅刻ギリギリだ。
なのに、そんな早く来るとは前代未聞だ。
「早すぎね? お前そんなに早く学校来た事ねえだろ」
不可解な顔を隠さずに言えば、
「昨日眠れなくてね。潤ちゃんからのメールもあったし、いつもより一時間半も早く家でちゃった」
また作ったような笑顔で俊哉は答える。
一時間半も早くって…確かに昨日の夜、話したい事があるから、いつもより20分早く来いとメールはしたが……やっぱり、なんか変だ。
だいたい普段から能天気なやつが寝れなかったとか、おかしいだろ。
確かにいつもより覇気がない気がするが、それは寝不足のせいだからなのか。
「……大丈夫か?」
「大丈夫、心配しないで。なんか潤ちゃんが優しいと怖いね」
ケラケラと笑っているが、やっぱ何処か違う。いつもなら、こんな事言われたら怒っているが、怒る事さえも躊躇してしまう。
いつもと違いすぎて。
「あれ? 怒んないの? 潤ちゃんらしくな~い」
それはお前だろと言いたいのを我慢して、俊哉を見上げる。無理して笑っているのだろうか。こんな俊哉は初めてで、どうしたらいいか分からず探るように横顔を見つめた。
「どうした、何かあったのか? 今日のお前変だぞ」
「本当に大丈夫だってー。昔の事を少し思い出してさー。ちょっとナイーブになってるだけ。潤ちゃんには関係ないから」
関係ない、か。そうかも知れないが、こんな風になってしまうほど昔に何かあったなら気にならない訳ないだろ。
「昔の事ってなんだよ」
だって今日のお前、別人みたいだぞ。
「…はあ…今、俺関係ないって言ったよね?」
冷たく放たれた、その一言はいとも簡単に俺を黙らせる。今までそんな言い方された事ねえ。
なんなんだよ?今どんな状況だ。頭がついていかねえ。昨日の事も、よくわかんねえし俊哉がこんな態度を取る意味もわかんねえ。
ただ1つ分かったのはーーーたぶん、こいつは今怒っている、それだけだ。
俺が何かしたのか……?
「話しって昨日の事だよね」
「……あ、あぁ」
「ごめんね。お邪魔だったよね」
俊哉の棘がある言い方に、やっぱ怒っているんだと確信する。
「別に邪魔とかじゃねえけどタイミングとか考えろよ。つか勝手に尾けてくんな」
「あの後さ、キスしたの?」
「は? お前話し聞いてんのか?」
返ってきた返答がおかしい。話が噛み合ず、思わず苛立ちを隠せず口調が強くなってしまった。
「聞いてるよ。で、したの? してないの?」
「…聞いてねえだろ。お前に関係ねえし」
さっきのお返しだというばかりに俺も負けじと言い返す。
「へえ…そんなこと言うんだ。潤ちゃんさ、部長さんのこと好きじゃなかったよね? 部長さんのこと好きになった?」
「………うるせーな。何が言いてえんだよ」
他に好きなやつがいるのに2週間そこらで好きになれる訳がない。例え、いつか好きになりたいと願っていてもだ。
俊哉を睨み付ける。
「ふ~ん、好きじゃない人とキス出来るんだね」
俺を見て好きになっていないと解釈したのか冷たく言い放つ。
さらに、それもと付け加え、こっちを向いた俊哉と目線が絡み合い、早く動き出す心臓。
すげえ嫌な緊張だ。
「男と」
何かで殴られたような感覚に目眩を覚えた。
ーーこんなの俊哉じゃねえ。
「あんなに男とはないって言ってたくせに軽々しくキス出来るんだ? 本当はさ、男が好きなんじゃないの? 普通出来ないでしょ」
「っ! お前なぁっ!」
俺がどんな想いで、と言いそうになりグッと抑え込む。
何故、そんなに冷たい目で俺を見る?わかんねえよ、お前が何を考えているのか。何が言いたい?何を知りたい?何に怒っているんだーー。
気持ちを落ち着かせる為、大きく息を吸い、ゆっくり吐く。
「なに?」
「………お前、今日どうしたんだ? お前が部長と付き合って欲しいって言ったんだろ。しかも前から男と付き合えってうるさかったじゃねぇか。なのに何を今更なこと言ってんだよ」
「付き合う事を決めたのは潤ちゃんだよ」
「……っ、だから、なんだ」
ああそうだ。俺が決めた。でも何で俊哉がこんなに怒っているのか分からない。俊哉を真っ直ぐ見つめるが、その真意は分からず、ただただ初めて見る俊哉に戸惑う。
「お前さ、さっきから何が言いたいんだよ?」
「質問に答えてよ。結局したの? キス」
冷たい瞳が俺を見下ろす。実際は未遂で終わったが、俊哉は好きじゃねえのにキスした事を怒ってるのか?どうしてだ?付き合えば、するのは当たり前だろうし、何より腐男子ってやつなら嬉しいもんじゃないのか。お前が普段から言っていた、萌えじゃねえの?昨日だって俺達の後を秘密にしてつけて来たのは、そういうのが見たかったからじゃねえのか?
頭の中は疑問だらけで。
今回ばかりは本当にお前が分からないーー。何を言えば正解なのか。誰か教えてくれ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 12