アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
11
-
周りは朝の挨拶で、ガヤガヤと騒がしいはずだが一切音を感じない。早足でヅガヅガと人で溢れた廊下を突き進んで行く。誰かにぶつかってしまっても今は気にしていられないほど頭がテンパっていた。
俺は、俊哉と、キスを、した。
その事実が頭をパニックさせる。
柔らかく暖かった唇の感触が顔を熱くさせていた。絶対に触れる事なかった唇と唇のはずだ。どうしてこんな事になってしまったのか。
今まで友達という隣を守ってきた。何度も俊哉の笑顔、優しさに触れては好きだと思い、胸が高鳴り、俊哉と仲良くしてる同性とは思えねぇ可愛いクラスメートにヤキモチ焼いたり。本当はこういうやつのBLとやらを見たいんじゃねえかって意味不明な対抗心燃やしたり。自分には誤魔化せない気持ちを必死に隠してきた。
それは俊哉の隣にいたかったから自分の気持ちを隠し通す事など、なんて事ない事だった。
たとえ苦しい思いをしたとしてもだ。
なのに、あいつはーー!
簡単に壁を壊しやがった。ふざけるな。俺がどんな気持ちで、あいつの側に居たと思ってるんだ。
もし、このまま俊哉と友達に戻れなかったら、今までの努力は無意味だったって事になる。
不安だけが押し寄せて俊哉の隣に居れれば、それで良かったのに、と俊哉に恋して止まない俺は今回の事をどうやって受け止めればいいか分からないでいた。
・
・
・
教室に戻って、授業が始まっても俊哉が教室に来る事はなかった。異常に丈夫な身体が取り柄の俊哉が初めて学校を休んだ。学校には来ていたのだから休んだと言えるのか分からないが。
俊哉がいない教室で昨日の放課後に起きた、部長とのキスの時の事を思い出す。あの時はいつもの俊哉だった。一晩明けたら、あれだ。一体何があったのだろうか。いつも常に笑顔だった俊哉の初めて見る冷たい表情に今思い出しても背筋がゾッとする。
理由は全く分からないが俊哉にあんな顔をさせてしまった原因は俺に間違いないはずだ。
「はぁ」
ため息が自然と零れ、俊哉と初めて出会った時と同じ、雲一つない空を見上げた。仕方ないが、その日の授業は全く頭に入らず俊哉の事ばかり考えていた。
何でこうなっちまったんだよ。
そして俺は部活に行くまで、もう一つの問題に気づく事はなかった。
・
・
・
「あ、」
学校も終わり、制服から練習着に着替えながら部長のロッカーを見て重大な事を思い出した。
そうだ。俺、今 部長と付き合ってんだ。
どんだけ俊哉しか頭にないんだよ。尊敬している、尚且つ恋人である部長を忘れるなんて、どこまで能無しだ。
果たして、どんな顔して部長に会えばいいのか。というより今日起きた事は言った方がいいのか。いや、でも言ってどうなる?俊哉と俺がキスをした、それを伝えて何がどうなると言うのだ。
だが部長と付き合っている訳だから言った方が……つか、これは浮気になるのか?
今まで付き合った事がない俺はそこらへんよく分からない。あれは俺から故意的にした訳じゃねえし俺は嫌だと言ったのだ。事故だ、あれは。そうだ。
でも俺は俊哉が好きで……、
「あーくそ、…なんも考えたくねぇ」
俊哉の事も。部長との事も。俺自身の事も。たった一回のキスで、ここまで考えなければいけなくなるなんて。……何が“たかが”一回のキスだよ。よく言えたな。馬鹿じゃねぇの。
全部、自業自得だ。俊哉を好きになったり好きでもない部長と付き合ったり。全部、自分が選んだ事なんだ。
情けねぇな、と自分のロッカーに頭をコツンとぶつけた。
とにかく今は部活に集中しなければいけない時期だ。今月末には大会が控えてる。部活も情けない事になるのは本当に避けたい事で、もしダメダメだった場合、今の俺にとってダメージはデカイ。
そうだ。他の事を考える余裕はないのだ。部活まで失ったら俺が俺でいれる気力を全て失ってしまうかもしれない。考えるのはこの大会が終わってからにしよう。
じゃねぇときつい。
「切り替えろ、俺」
俺は恋愛をする為に、ここに来た訳じゃない。後悔のない陸上をする為に、ここに来たのだ。
暗示のように言い聞かす。
「よし」
それから俺は何も考えないでいいように、ひたすら地面を蹴りあげる事に集中した。
ただ、現実から目を逸らし部活を言い訳に逃げたかったのかもしれねえ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 12