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「何とか言えよ」
「何を?」
「だから否定するとか言い逃れするとかさ。何かあんだろ?」
「うーん。何かって言われても…」
別に腹は立たなかった。
4人の中で俺だけが悪い意味で別格なのは自負してるし、そりゃ疑いたくもなる。
(それよりさっきのは何だったんだ…?)
認識するには程遠いほどの"何か"。記憶だろうか?
それは白く霧がかった断片のようなもので、自分を思い出すには余りに力素なかった。
「じゃーさ、否定はしないのか?」
違和感に囚われていた俺をアランの追求が引き戻した。
「否定か…。それはもちろんしたい所だけど、何の記憶も無いのに無責任に否定するのも変じゃないか?」
「まあ…。でも記憶喪失が嘘かもしれねーだろ?俺達を騙してるとか」
「あ、そうか。その可能性もあるのか。けどそれなら否定出来る。俺は確かに記憶が無い。それを信じるかどうかはあんた次第だけどな」
「……」
自分でも不思議で仕方ないが、俺は自分の事のはずなのに丸っきり他人事のように思える。
疑われてる事も、生き延びなきゃならないって事も。
そこにまるで現実味を感じない。
かと言って、こんな所で勝手に勘違いをされて殺されるのは嫌だ。
「じゃあ最後にもう一つ。もし俺が敵の親玉だったとしたら、俺みたいなスパイは送り込まないな。何と言うか、不安しかない」
無言の眼差しを向けていたアランに、俺は情けなくも心底自分で思った事を口にした。
するとフッとアランの表情が緩む。
「それは同感だ。お前みたいなスパイに殺られでもしたら、死んでも死にきれねーよな」
「…。そこは少しくらいフォローしろよ」
「いやー悪い悪い。お前って何を考えてんのかいまいち読めなくてさ。ちょっと探りを入れようと思ったんだ」
「ふーん。で、その結果は?」
「そうだな~。馬鹿正直で役に立ちそうにはないってとこか。お、そろそろ俺達も行くぞ。先行を見失いそうだ。」
「……」
俺は言い返す機会を奪われ、アランをひと睨みしてから先に斜面を登り始めた。
「自分自身を客観視でき、そしてドライ。こういう奴が一番危ない。何をするか分からねーからな───」
その言葉は、木々を撫でる風の音にかき消され、俺の耳には届かなかった。
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