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言いたいことはいくつかある。
だが、その前に
「手、離せ」
一向に緩む気配のない握られた手
指が長く少し骨ばってはいるが形のいい綺麗な手だな
なんて、無意識に考えてしまったがそうではない
「えー、離したら美人さん逃げそうじゃないですかー」
「あ、たりまえだろ……!」
「じゃー嫌です!」
なんっなんだよ!
たまたま用事がなかったからって本当に来るんじゃなかった!!
しかしこのままずっと手を握られているんじゃ埒が明かない
そんなんだったらさっさと作業を終わらせて帰った方が幾分かマシだ。
はあ、とため息をついて
「わかった。逃げねーから、手離せ」
逃げないと聞いた瞬間ピクっと尻尾が反応した…気がした。
何がそんなに嬉しいのかニコニコと笑みをたたえながら手が離される。
「美人さん美人さん!」
「その美人さんってのやめろ」
「だって俺、美人さんの名前知らない…」
今度はあからさまに落ち込み出す。
ふわふわと揺れていた、あるはずのない尻尾が下がったように見えた。
コロコロ変わる表情に忙しい奴だな、と思うも
しゅんっと寂しそうな顔に何故か罪悪感みたいなものが沸きあがる。
「………二葉だ」
「ふたば、さん?」
教える気なんてなかったのに
その顔に負けてしまった。
何してんだろうな
復唱された自身の苗字に小さく頷く
と、何故かフルフルと身体を震わせるミルクティー色
「か、」
「か?」
小さくつぶやいた言葉を今度は俺が繰り返す。
なんだ…?
「かわいい名前ですね!!!」
「苗字だバカ!」
可愛い可愛いと顔に書いてニコニコと笑みを浮かべられては
思わず勢いに任せて突っ込んでしまう。
これは逆効果なんじゃないか?
言った後にそう思ったがつい勢いで言ってしまったのだから仕方がない
美人もありえないけれど可愛いはもっとありえないだろ……!
あほだ、あほすぎる。
こいつほんとに大学生か……!?
こいつと話すとコントになる呪いでもかけられているのか???
自分の物差しで人を図るのは良くないことかもしれないが
この際そんなこと言ってられない
完全にこの男のペースに巻き込まれている。
「えー、じゃあなんて名前なんですかー!」
「うるさい、いいからやること教えろ」
人に聞くのにこの態度は自分でもどうかと思う。
しかし、このままでは一向に作業が進まないため致し方なし
「あ、そっか!えっと、あっちに置いてある資料をざっと200部ホッチキス止めですね!」
あっちと示される研究室の奥に足を進める。
そこには机いっぱいに今にも崩れ落ちそうなプリントの山
これ今日中に終わんのか?
まあ、途中まででもキリのいいとこまでやって帰ればいいか
「あ、山本教授が終わるまで帰るなって言ってたな、なんか途中で帰ったら次の課題倍にするとかなんとか」
あのクソ教授!
せめてもの逃げ道も潰されイライラは募るばかりだ。
「あー、じゃあとっとと終わらせようぜ」
「そーですね〜……ああっ!」
「っ」
お互い向かい合っていざ作業を始めようとした時
急な大きな声にビクッと肩が跳ね、声はかけずに視線だけで向ける。
「俺そういえばホッチキスの芯探してたんだった」
「……机の引き出しの二段目」
「へ?そうなんですか!二葉さん物知りですね〜」
「……。」
間抜けな顔してホッチキスの芯を取りに行く男の後ろ姿を視界の端に映し、返事はせずに黙々と自分の作業を進める。
窓の外の夕日が傾き始めた頃
大きくもない研究室に紙の束を留めるパチンパチンという音だけが響いていた。
一刻も早くこの場所から逃げ出したい
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