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どこに連れて行くつもりなのかと思っていたが
金井が足を止めた先は見慣れた俺たちの通う大学だった。
まだ残っている生徒はいるらしくチラホラと窓から覗く灯が見える。
腕を引かれるままに連れていかれたのは部室棟の四階
つい数時間前までいた場所だ。
パチッ
蛍光灯のスイッチを点け人工的な白い灯に目を細める。
俺から何か話すことはなく
金井も何も言わない
しばらくの間、夜の静寂な空気だけが流れた。
俺は懐かしさと形にならない感情にただただ戸惑っていた。
四年か
そんなに経っていたのか。
向こうから話しかけてくるなんてどういう神経してるんだと
怒りにも似た感情と変わらない先生の姿にどこか喜んでいる自分がいる。
「……さん」
時間が全てを解決してくれないことを俺は知っている。
だってその証拠に俺は未だにあの人を想ってる。
「…みさん」
今でも俺が喜ぶのも苦しくなるのもあの人が関係してる。
前に進む気なんか全くないのに
形だけでも変わろうなんて笑えてくるな
いつまで経っても普通にはなれなくて
それに幻滅しては自分のせいじゃないと誰かの責任にして
傷つかないように済む方法を探してる。
「いずみさん!」
「っ、」
大きな声と共に触れていた手の温もりを思い出した。
そういえば、金井に連れてこられたんだった。
「大丈夫ですか、」
「……ああ」
「嘘」
「…」
手は握られたまま
金井は俺に目線を合わせるように屈み、俺の顔を覗き込むよう首を傾ける。
大丈夫だ。
少し取り乱したけれどなんともない。
そう伝えればいいはずなのに言葉が出てこない
言葉は出てこないのに熱い雫が頬をつたった。
ずっと溜め込んできた四年間
前に進む進んだなんて自分に言い聞かせて
本当はまだ前に進めてなんかいないくて。
忘れられなくて、忘れたくなくて。
俺は普通じゃないから周りに迷惑をかけて
俺が普通じゃないから苦しいのは当たり前で全部全部俺のせいで
そう思って、一度も吐き出したことが無かった本当の気持ち
諦めてしまえば楽になれるなんてわからない。
諦める術も知らない。
期待せずになんか居られない。
自分が間違ってないって言われたい。
ゆるされたかった。
この四年間、一度も先生に会うことなんてなかった。
会いたくなかった。
会いたかった。
会ってしまったら色んなものが溢れてしまうってわかっていた。
ボロボロ溢れ出る雫を止める方法なんて知らない
泣くことなんて許されたことなどなかったから
涙を流す俺を見た金井は一瞬だけ驚いた顔をしたけれど
何も言わずにそっと俺の頭の後ろへ手を回し自分の肩に押し付ける。
子供をあやす様にポンポンと背中を叩かれ
俺はされるがまま、身を任せた。
触れ合う場所から感じる俺のではない心臓の音にまた涙が溢れた。
声は出すまいと思っていたのに自然と口からは嗚咽が漏れる。
それでも泣くことしかできない俺を
金井は何も言わずに抱きしめていた。
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