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カシャカシャ、
最近では聞き慣れたシャッターを切る音
音は心地がいいのに
感じる視線はどうも心地がいいとは言えない
金井の時も心地よさは感じないにしてもこの人の視線はまた別だ。
てきとーに撮ると言われたが大野先輩の目は真剣そのものだ。
にししっとまた独特の笑みを浮かべたかと思うと
次の瞬間には何もかもお見通しだと言わんばかりの視線が俺を射抜く
はっきりいって居心地云々の話ですらない。
何枚か撮られて直ぐに俺に背を向け写真を確認する大野先輩
カメラに向かっていた体をグルンと回転させ俺に向き直ると
またあのイタズラな笑みを見せる。
「で?どうだった?」
「どう、とは」
大野先輩が言いたいこと
本当は聞き返さなくてもわかる。
「またまた〜、わかってるくせに!金井っちと全然違ったっしょ?」
「それ、は……」
素人目にも違うと感じた。
そもそも写真を撮られることが今までほとんどなかったため
良いとか悪いとかはっきりはわからない
けれど、確かになにか違った。
真剣な眼差しも射抜かれるみたいな視線も同じなのに違う。
金井のはもっと、熱っぽくって…
「二葉くんはさ、もっと金井を信じてみるといいよ」
「え?」
信じる?
「入学当初から綺麗な顔した男子がおる!っつって女子連中に噂されてた誰ともつるまない一匹にゃんこ君があの人あたりバッチしなワンコこと金井翔太と親しげだっつって結構噂されてたんだよ〜」
なんだそれ
にゃんこってなんだ??
「別に詮索する気もないけどさ〜全部諦めたみたいな顔は面白くないね。写真撮る人間から言わせてもらえば、やっぱり輝いてる姿の方が見てても撮ってても面白いし」
諦めた、その言葉を否定したいのにできなかった。
何度となくそう思ってきたのだから
諦めたら楽だって思い込み
そうやって過ごしてきたのだから
「だからさ、もうそろそろ自分を許して前に進んでもいいんじゃない?」
「……は、」
大野先輩の言葉に俺の頭は真っ白になった。
雰囲気も一変し、さっきまでの独特の笑顔などではなく
口元に描いた綺麗な弧
自分を許す…?
どういう意味なのか
知ってるはずないのに
深読みのしすぎかと考えたが鼓動は早くなる一方だ。
「そのためにまず向き合うべきは金井っちじゃないと思うんだ」
「なに、を…」
言ってる意味がわからない
いや、わかりたくないだけだ。
だって、きっとこの人は知っている。
俺の事を…
でも俺は大野先輩とは昨日初めて会ったはずなのに
呼吸が乱れるのを感じる。
落ち着け、まだそうと決まったわけじゃないだろ
と、
「お待たせしましたああああああああ!!」
バンっと何時ぞやの彼女の登場と
同じくらい大きな音を響かせて開いたドア
「…っ」
「あらま金井っち。遅かったでは無いか」
先ほどの試すような眼差しとは一転して
はじめて会った時と変わらない明るい調子で金井に話しかける大野先輩
この人は、なんなんだ?
「あ!ちょっと大野先輩!それ、もしかして伊澄さんの写真ですか!?ちょ、何撮ってんの!?!?」
「ちゃんと許可とったしー。誰かさんと違って盗撮じゃないしーーー」
「ちょ、ほんとに何言ってんの!?」
二人の会話なんて全く耳に入らないくらい俺は困惑していた。
あのことを知ってる人がいる。
それだけで俺の目の前は真っ暗になる。
またあんな風になったら
父さんたちの耳に入ったら
指先からどんどん身体中を侵食するように冷たくなっていくのを感じる。
「…。」
「伊澄さん?」
大野先輩の視線が怖い
なにも考えられなくなる。
「あ!私は用事あるからここいらで失礼〜!金井っち、向き合うってことをちゃーんと考えなさいな!」
「え?あ、大野先輩!……行っちゃった。相変わらず、よくわかんない人だな〜」
もしかしたら、こいつも知ってる?
前に進むために自分を許す。
向き合うのは金井じゃない
言われた言葉を頭の中で反芻させる。
考えたいことはあるのに頭が働かない
「伊澄さん?どうしたの?」
俯いた顔をのぞき込むように視界にミルクティー色が映る。
その見慣れた色に安心を求めるように縋るように
気付いたら俺は、金井の方へ手を伸ばしていた。
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