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ひねくれ者の、
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真っ白で空っぽな部屋の中で幼い俺が言った
そんなものに意味は無い、と
そんなものは泡沫の夢なのだ、と
ハッとして目を覚ませば真っ先に映ったのは伸ばした手と見慣れぬ天井
そう言えばホテルに泊まったんだっけか。
隣を見れば力の抜け切った顔をして眠るかなが目に入った
ゆっくりと起き上がり人差し指で眉間をつついてみる
途端に皺がより口がもごもごと動き出す
「フッ……あほ面」
静かな朝に俺の声だけが嫌に響いた
「……。」
大丈夫、まだこいつは俺の隣にいる
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
今日もいつも通りでいれば平気だ。
そうすれば、
まだこの男は俺のものでいてくれる。
、
「もー!伊澄さん酷いよ!」
「だから悪かったって」
「ぜんっぜん心こもってないよね!?」
金井が起きてからずっとこの調子だった
何やら俺が昨日寝落ちしたことを根に持ってるらしい
少しは悪いと思っているけど、眠かったんだから仕方ないだろ
溜息をつきたくなるがそれをしたら余計に面倒臭くなるので我慢
まあ一応、俺が悪いわけだし
「聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる」
「聞いてないよね!?」
「聞いてるって、それよりも早く出るぞ」
「やっぱ聞いてないじゃん!もう知らない!!」
ドキリ、と心臓が跳ねる
顔には出さずに努めて冷静に
わかってる、俺が冷たい態度を取ったせいでいつもみたいに拗ねてるだけ
飽きられたわけじゃない。
「あー、そう言えばここに来てカメラ全然触ってないけどいいのか」
「ん?ああ、それは大丈夫!」
ほら、いつも通り
なんだか今日は変だ。いつもよりも金井の一つ一つが気になる
「そうだ!伊澄さん、もう今日からモデルやらなくて大丈夫だよ!」
「え、」
「実はいいのが撮れたんだよね〜……って、伊澄さん聞いてる?」
金井の言葉は最後まで聞けてなかった
だって、写真の被写体っていうのは俺たちの繋がりみたいなものだと思っていたから
期限まではまだあと一週間くらいあるのに
「伊澄さーん、おーい?」
金井を信じてないわけじゃない。
それでも、恋人という繋がりはただの言葉でしかなくて
一緒にいて幸せだと思う度に、また一つ不安が募っていた
「伊澄さん!」
「え、ああ、悪い」
「どうしたの、顔色悪いよ?大丈夫?」
「大丈夫だ」
昨日、金井の弱さの片鱗を垣間見た。
でもまだ不安だ、昨日は知れたことに喜びを感じていた
特別なんだって
でも、何故か今は心が空っぽになったみたいだ
あの、夢の中の真っ白な部屋みたいに
「そんなことより、チェックアウトの時間そんなに遅くないだろ。早く支度しよう」
「えー!そんなことって酷い!まあその通りだけどさ!」
支度、なんてそんなに時間がかからない。
突発的な男二人の寝泊まり、準備なんかしてこなかったから荷物もお互いカバン一つ
でも今はなにか他のことを考えて無いとダメなんだ
この日から俺は、なんとも言えはない不安に刈られ
金井を避け始めた
決定的な何かがあったわけじゃない
理由をつけるとするなら、幸せになることが怖くなった、と言ったところだ
俺は逃げるしか自分を守る術を知らない
長年身についた呪いとも言えるそういう癖はすぐには治らないのだ
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