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ひねくれ者の、
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「伊澄って意外といける口なんだ?」
「ん?ああ、酒か」
「そうそう」
「まあ、普通に好きだしな」
店内が静かなので釣られるように小さい声で話す
落ち着いた雰囲気の小さなバーに
黒が似合う無愛想な三十歳くらいのバーカウンターの中のマスターと呼ばれる男
若いから社員かと思ったけど違ったみたいだ。
そもそもここ個人経営っぽいもんな
穴場なのかあまり人はいない。
が、それがまた落ち着く
前に行ったガヤガヤと人が行き来し忙しない居酒屋もそれはそれで良かったけれどたまにはこういう落ち着いたバーもいいな
あんまり今日は飲むつもりはなかったのに先程から新木が勧めてくるものだからいつもよりペースも早く量も飲んでいる
ライムが透明なグラスによく映えるように飾られているジントニックをまた一口煽る
ん、美味しい
カクテルは実を言うとそんなに得意じゃない。
飲みやすいっていうのはアルコールをあまり感じさせない、けどそこそこ度数が高かったりする
だから気づいたら結構酔いが回ってる、なんてことも無きにしも非ず
いつもだったらセーブしているのだが
上手いこと新木に煽られ気づいたらいくつかグラスを空にしていた
と、その時自身のスマホが震える
そこに映るのは金井の名前と「明日時間ある?」というメッセージだった
「悪い、ちょっと返信する」
「ん?全然OK〜、伊澄そんな早く返信するタイプなんだ?」
「返信くらいするだろ」
「いや、お前は結構面倒くさがって放置しそう」
否定は出来ないけれど
それは興味のないヤツらとかだ、そもそも俺に来るのなんて迷惑メールとバイトの面々と学校の少数のヤツらくらいで
迷惑メール以外はそれなりに付き合いもあるし返すだろ
それに、今のメッセージは興味のないやつじゃないし…
「別に」
「へえ!そんな顔する相手なんだ?!どんなやつだよ〜!」
「そんな顔って…おい、スマホ返せ、」
突然奪われたスマホを取り返そうと手を伸ばすが既のところで交わされ画面を見られる
別に見られてまずいようなことは書かれてないが
それでもなんかヤダ
「ほうほうこれが伊澄の大事な……へぇ?」
「…?いいから返せ」
ヘラヘラ笑っていた新木は画面に移る名前を確認した途端、一瞬だけ表情を消した
もう一度返せと言うと気味の悪いほどの綺麗な笑顔を貼り付けて「ハイ、ドーゾ」とスマホを俺の手にのせた
なんだったんだ?
「そっかあ、伊澄がそうなんだ」
ボソッとつぶやかれた言葉は俺の耳には届かなかった
「マスター、アレ、この人に出して」
「……。」
ジロっと新木を睨むマスター。
実は仲悪いのか?
入った時も親しげな感じだったし新木は結構ここに来てるみたいだけど
睨まれてもヘラりと笑って躱す新木
マスターはハア、とため息をついてまたお酒を作り始める
直ぐに俺の前に置かれたのは青がとても綺麗なカクテル?だろうか
「なに?」
「俺のお気に入りのお酒っ」
「なんだそれ、怪しすぎるだろ」
「酷くない!?」
語尾にハートがつきそうな言い方で鳥肌が立つ。
せっかくマスターが作ってくれたものを飲まないのも失礼か
この人が作るお酒は素人目にみても美味しいと思う
見た目もすごく綺麗だし気にはなる…
一口、飲んでみると少しアルコールはきつい気がするが美味しい
さっぱりとした味わいに飲み干してしまう
「ね?美味しっしょ」
「ああ、サッパリしてて上手い」
「ありがとうございます、それ、テキーラをベースとしてるので少しアルコールがキツいので飲み過ぎには注意を」
今まで無言を貫いていたマスターが口を開く、低いハスキーボイスでそのルックスにその声は女がよってきそうだななって思う
「そうなんですね、美味かったです」
そう言えばマスターは、ふっと口角を上げそれ以上は何も言わない
いい男ってこういう人のことを言うんだろうな
なんて思ってると
「さ、そろそろお開きにしよっか!マスター俺につけといて」
「は?払う」
「いーらないっ!その代わりお願いがあるからさ!」
「あ?」
「いーからいーから」
あまりに強引に進めるものだから押しに弱い俺はまた流される
これがいけなかった
俺はいつも間違えてばかりだ
グイグイと俺の背を押す新木と呆れたようなため息をつくマスターを気にも止めず店から出る
頬を掠める空気が熱を含んでいて夏が近づいてることを知らせる
雲が多く月も見えない真っ黒な空はこれから起こることの暗示だったのかもしれない
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