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ひねくれ者の、
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音を立てて閉まる扉がこの部屋の静けさをより際立たせた
本当だったら今ごろ金井とこの部屋に帰ってくるはずだったのに
なに、やってんだろ
リビングのクーラーのスイッチを入れ
機械的な送風音を耳に入れながらソファに身を沈めた
視界に映るテーブルの上に投げ出された煙草に手を伸ばすも吸う気になれずまた放り投げた
金井、なんか様子へんだったよな…
いつもうるさいやつが静かになると、なんてよく言うけれどまさしくそれだ
別に怖いとかじゃないけど違和感はある
頬、叩いたのやっぱ痛かったかな
はあ、とため息を吐いて仰向けになる
それにしても、だ。
俺がまだハルを好きだの、ハルの方がいいだの好き勝手いいやがって
確かに金井と出会ったばかりの頃はまだ好き、だった。
ハルは俺の全部だったし、そのことに偽りを言っても仕方ない
だからといって今も好きかといえば答えはノーだ
特別な感情は持っている
それは仕方ないことだろ、俺の全部だったんだ。
和解、なのか、とにかくまた会話ができる関係になれたことに嬉しさを感じないわけじゃない。
隠しようもない事実だ。
けれどそれはもう前のことだ。
直ぐに割り切れるほどハルとの関係が簡単なものではなかったはずなのに、
金井が好き、というのは俺の中にすんなりと落ち着いた。
俺も驚いた
あんなに引きずっていた思いがこんなに簡単に変わっていいものなのか
だから悩んだ、必死に悩んで悩んで、俺の思いを伝えることは間違いなんじゃないかって恋人となった今でも悩んでいる
大学で金井が他のやつといるのを見る度
女に囲まれて談笑しているのを見る度に思う
本当に金井は俺でいいのか、俺が金井の邪魔になっているんじゃないだろうか
いつだって、不安だ。
俺、あんなこと言われたのにあいつのことばっかだな
疑われたことを悔しいと思う反面仕方ないかと諦めている自分もいる
金井は考え無しにあんなこと言うやつじゃないよな
それとも、俺が見てるのは金井の側面であって本当はあいつのことなんてなんにも知らないのかもな
もう一度重いため息を吐いたとき、ブブッと尻ポケットのスマホが震えた
-双葉、明日ひま?少し話があるんだけど
俺よりも金井を知っているやつに頼るのも一つの手か
スマホをテーブルに置き隣の煙草に手を伸ばす
灰皿を手前に寄せて口に一本煙草を咥える
「…」
紫煙を吐き出し天を仰いだ
額に張り付いていた前髪が流れ視界が広がる
金井の不安はなんだろう
新木の件、はもう気にするほどのことではないだろう
俺も別に気にしてないし
それで済むかは別だけど、まあ、置いといていい。
ほか、だと…
「…俺、か。」
呟きに声は返ってこないが、妙に納得した。
あいつの中の俺が閉めてる割合はどれくらいなのだろう
きっと俺が思ってるよりあいつは俺の事を思ってくれているんだよな
金井と会えば必ずそういう雰囲気になる。
そりゃ恋人同士だし当たり前だ、俺だってそういうことがしたくないわけじゃない。ただ…
『俺は時間の問題だと思うけどね』
いつかの新木の言葉を思い出した
…話すのか?金井に
俺の身体を見られて嫌われたら、
俺はまたあの寂しさを味わうのか…
いや、そうじゃない。
あいつのことを本当に考えるのなら、こんなことしてる場合じゃないな。
俺が会いたいって言っだけであんなに嬉しそうな反応するアホ犬だから。電話越しでわかる程度には俺もお前のこと知ってるよ
嫌われたら、その時に考えるしかないか…
「フー…。」
短くなった煙草を灰皿に押し付けて先程来たメッセージに返信をした。
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