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目が点になる。あれだけ、定時に執着していたのだ。約束があるのだとばかり思っていた。
「いやぁ、でも俺は今日ちょっと用が…。」
落合は後頭部に手を持っていき、ペコペコとお辞儀を繰り返す。やんわりと断ろうとするが、鬼上司の眼差しに鋭さが増したのを目撃して、即座に思考ごと全身を凍結させた。
「…俺と酒は飲めないと??」
ゆっくりと腕を組み、距離を詰めてくる冷血人間は圧が半端ではない。
(アンタみたいな鬼と酒を飲んで楽しい気分になる人間なんているかァァァッ!!)
落合は涙を飲んで、その場で姿勢を正し、こくこくと頷く。
「ハイ。…ヨロコンデ。」
定型文で返す他ない落合だった。
《褒美に、俺と二人で飲みに行かないか。》
我妻の言葉には二点の誤りがある。一つ目、鬼上司と飲みに行くのは拷問であって、褒美でないこと。二つ目は…。
「いらっしゃいませ。…二名様ですか??」
我妻が案内した先は、会社近くにある古民家風の居酒屋だった。看板などをそっと出しているところから、穴場スポットではないかと容易に想像できた。店内の人入りは疎らで、通にしか知られていないのか。同じ社の者は、全く見かけられない。通りがかった中年のおばちゃんに話しかけられ、落合は再び事実を突きつけられ、天を仰ぎたくなる。
(な・ん・で!!他の誰も呼ばないで、大して親しくもない部下の俺とサシで飲もうとすんだよ!?)
「ああ、はい…。あの、カウンター席、空いていますか??」
カウンター席の向こうには店長や店員がいて、二人で飲みに行ったとしても他の者に話しかけやすい。二人きりという状態は回避出来る…と落合は睨んでいた。
「あ~…。すいません。ちょっと今、満席で。」
おばちゃんが片頬に手を添えて申し訳なさそうに腰を折って謝るまでは、だった。
「じゃあ、テーブル席で。」
背後の我妻が部下を無視して話を進めていく。店主の奥さんか。愛想のいいおばちゃんは、すぐさま奥の座敷の席に案内してくれた。近くに客があまりいない位置で、とても平穏な空間…。
「…。」
「…あっ、我妻さん、なに飲みます!?」
で、静寂がとっても目立つ。
(そうか、厄日か。今日は朝の星座占いで最下位か。外出しちゃダメな日だったんだ、これは…!!)
両手で頭を掻き毟りたい気分で、落合はメニュー表を持つ手に力を込める。部下と対面する席に座った我妻は、頬杖をついてぼんやりと店内の天井に設置されているテレビを眺める。
「…お前は。」
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