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「え??」
落合が答えた瞬間。相手の頬に添えられた指先が、もじ…っと微かに動く。
「あ~…。生、ありますかね。」
落合がメニューも見ずに呟くと、先輩は大きく頷いてみせる。
「生ビールか。じゃあ、俺も同じので。」
(あれあれ…??)
動揺している落合の目前で、先輩は慣れた様子で近くを歩いていたさっきのおばちゃんを呼び止めていた。
(我妻さん、なんか心なし落ち着きなくないか??)
普段の我妻は会社のデスクでも、きちんと席に座り、最低限エコな動きしか見せない。織戸は、そんな我妻を『氷の彫像』と評していたくらいだ。無論、人でなしの意味も含む。
(…全身が定期的に揺らいでいるような。)
小首を捻る部下に我妻は声をかける。
「…おい。」
「えっ??あ、はい!!」
ピンと背筋を正す落合に、先輩はむすっとした表情で訊ねる。
「…どうかしたのか。」
「え??いや…。」
否定しようとした落合だったが、長年教育係として傍にいた相手の様子にはぐらかしはきかないだろうと悟る。
「…我妻さん、どうかしたんですか。」
「何が??」
我妻は、まだ頬杖を続けている。どこか呆けているような…目的地を見失ってしまったかのような…表現しにくい胡乱な顔をしている。
「俺を飲みに誘うなんて…それも二人きりで。」
「…そんなに変か。」
我妻の声音は、微妙に震えていた。語尾から『?』は消えていた。落合は、目の前にいる先輩を見据える。我妻は目線を卓上に落として、自問自答するかの如く再度呟く。
「…そんなに、変なのか。」
「あの、我妻さ…??」
お前さあ、と我妻は後輩の呟きをかき消すように話し出す。声量がやけに大きくなっていた。
「なんで、俺のこと『先輩』って呼ばねぇの??」
頬杖をやめ、我妻は伸びを始める。心地よさそうに腕を伸ばす様を眺め、後輩はまるで猫のようだと束の間、目を細める。
「なんで…と、言われましても。」
落合は、視線を卓上に落とす。我妻もそれ以上呼び名について言及しようとはしなくなった。
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