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重々しい、というか実際問題ずっしりと手にくるはずの透明なジョッキを我妻は一気に傾けて、唇をつける。ごくごくっ、とリズミカルに上下する喉仏を茫然と眺め、落合はすぐさま我に返る。
「あああ、我妻さん!?あ~づまさん!?だめだめ、それ以上はやめて下さい!!」
落合が止めに入る頃には、ジョッキの中身は半分くらい消え失せている。まるで魔法だ。
「我妻さんって、言うなよ…。その…二人の時だけでも、我妻先輩って呼べ。」
下唇にこびついた泡を親指の腹で拭い、我妻はふんと鼻を鳴らす。
「ペース早くないですか…??も、もっとゆっくり楽しみましょうよ!!せっかく二人で来たんだし!!あっ、ほら、何か食べましょうよ。我妻先輩、何がいいですか??」
メニューを手に勧めようとする相手に、我妻は間髪入れず答える。
「枝豆。」
「え。」
(ホッケとか唐揚げとかだし巻き卵とか、メニュー表を見ずに…??)
やはり人を連れてくるだけあって、慣れているのか。我妻はテレビを眺めながらこともなげに言う。
「ここの、うめぇんだ。俺のお気に入り。」
「へ、へェ…。」
「お前は、どれがいい??」
我妻が俯く。普段はきっちり分けている横の髪が影になって、我妻の表情がよく見えない。
「えっと、俺は…。」
もどかしい気持ちに駆られながら、後輩はメニューを開く…。
二人きり、という状況が拍車をかけたのだ。
来店してから一時間ほど。二人の役割は決まっていた。
まず、落合が喋る。ちびっと酒を舐めて、ぱくっと食べ、後はとにかく口を動かす。
「でね~…。水越が言うには…。」
話題はもっぱら、社内の噂や世間話だ。水越や織戸から仕入れた情報ネタのおかげで小一時間は凌げる。時たま、運ばれた料理で美味しいものがあれば、先輩に教えるくらいだ。
「…ふぅん。」
我妻は枝豆をぷちぷち開けて、口にしてはごきゅごきゅと酒を飲む。グラスが空になったら、足元に置いている。
卓上には落合が平らげた空の皿がひしめき合っている。店員が下げてくれたものもあるが、成人男性の食欲を甘く見てはいけない。唐揚げ、海鮮、串焼きの類はあっさりと食した。
食べる分量は、我妻1に対して後輩9だ。我妻は酒の方に御執心で、枝豆が尽きると注文するのを繰り返していた。相手の注文に口をはさもうとすると容赦なく睨まれるので、後輩は口を噤むしかない。
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