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咄嗟に、間抜けな声を発してしまう部下だった。
「昨日さ、伊月に泣きついて聞き出したんだよ。何で俺が出世出来ないのか。」
「…!!」
まだ酔が抜けていないのか。我妻は、自らの苦悩をぽつぽつと語りだす。
「そしたら、俺の評判が悪いからじゃないかって言われた。部下の扱いが酷いからって。」
だからお前に優しくしようとしたんだ、と弱々しい本音がエレベーターの稼動音と重なる。
「…何で、そんな話を俺にしてくれるんですか。」
年上の男を背負い直して、落合は訊き返す。…本当は両腕とも痺れが来ていて、床に下ろす機会を伺っていたのだが、当面先になりそうだった。
落合の首にかかっていた男の腕に力がこもる。指が一度開閉をしてから、我妻の低く唸るような声が聞こえてきた。
「お前は、俺の傍にずっといてくれた奴だから。あのオフィス内では一番信頼しているんだよ。…これでもな。」
拗ねた声色に、落合はふっと笑う。背中に乗っけている荷物がひくっと動いて、意地っ張り屋が喋る。
「そっ、それに!!お前自身、居酒屋でしょっちゅう俺のことを変とか抜かすから…。」
「はいはい。…ああ、俺の部屋の前に着きました。下ろしますね。」
そこで、屈んで…落合は背中の違和感を確信した。が、顔には出さず、扉を開く。
「我妻先輩。さぁ、どうぞ。」
「…ぁ。」
我妻は項をガリガリと掻き毟ってから、気怠げに頭を下げる。
「その…悪い、落合。もう、先輩呼びしなくていいから。ごめん。その…昔の呼び方を俺、ちょっと気に入っていて…。」
落合は一瞬キョトンとしたが、すぐにニコッと微笑む。
「ああ…。えっと、先輩呼びが良いなら会社じゃなきゃそっちで呼びましょうか。」
ますます慌てて、我妻は両腕をブンブンと左右に振り回す。
「いッ、いい!!さん付けで問題ない!!ほ、本当ごめん!!酔って、ついぽろっと言っちゃっただけだから!!」
照れているのか、恥ずかしいのか。頑なに拒む我妻に、後輩ははあ、と曖昧に頷く。
「じゃあ、我妻さん。お入りください。」
「おう…。」
落合が室内に入って、後ろ手に玄関扉を閉める。我妻は、おじゃましますと呟いて、パタパタと室内に上がっていく。
(年下の家となると、この人容赦ねぇなぁ…。)
落合も後に続く。廊下の突き当たり、ダイニングの扉前で、我妻がくるりと踵を返した。
「…あ~。飲み直すって話だったけど。」
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