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「何それ。政治的会見の場で出てきたセリフかっちゅうの。」
「い、いや…。」
落合は、深く俯くしかない。
(幾らノリのいい水越だって、『上司、襲っちゃった♪』で笑ってくれるわけないし!!)
ドギマギしていると、後ろから強く頭を叩かれる。
「痛ッ。ちょ…っ、アンタ何して…。」
そこには、般若の面で仁王立ちする鬼上司様が降臨していなさった。
「…何している、はこっちの台詞だ。」
雪山の吹雪より寒々とした声音がエレベーター内に響き渡る。
「お前らが働くオフィスは、この階にあるはずだが??下りないのか??」
後輩は、我妻の背後にゴウゴウと燃え盛る炎を目にした気がした。
「あ、我妻さ…。これには深いわけが…。」
「深かろうが浅かろうが知らんが、好き勝手おしゃべりに興じていた分際でけっこうな物言いだな。」
そこを退け、と言わんばかりに落合の身体が押しのけられる。先に下りてズンズン進んでいく我妻の後姿を眺めつつ、水越は首を傾げる。
「あっれぇ~??なぁ~んか我妻さん、機嫌最悪じゃない??ずっと一緒にいる落合にだって、手を挙げたことはなかったのに。誰よ、地雷踏んだの。」
お前だよ、と胸の内でツッコミをいれつつ、落合は小さくさぁなと返した。
落合は上司に続いてエレベーターから下りながら、ゆっくりと目を細める。…二人で食事した土曜の朝。我妻はそそくさと二人分の食器を片付けると、後輩が目を離した先にいつの間にやら、その場から去っていた。置き手紙には神経質そうな文字で『世話になった』の一言だけが記されていた。
もしかして、時間が経過して部下にあんなことをされた羞恥心を覚えただとか。まさかとは思うが落合の魅力に目覚めて顔が合わせられなくなった、だとか。真逆に『この俺があんな平々凡々男に襲われるなんて…!!』と怒りで家に引っ込んだとか。落合は色々と考えていたが、全ては杞憂に終わった。何せ本日、我妻鬼上司はちゃんと出勤して、部下と顔を合わせても変化なしだ。…土日に渡って心を乱され続けた落合にとっては、やや歯痒い思いがなくもないが。
午後二時過ぎ。涼しい表情でパソコンのキーボードを叩く落合の背後には、憑依霊のように傍らに佇む上司の姿があった。
「違う。…そこ、また数値ミスった。」
何回目だよダメ男、と背中越しに罵倒を受け、くぅぅと落合は下唇を噛み締める。少しは誰か同情してくれないものか…。隣席に目をやると、水越が手元のファイルで顔を仰ぎ、持参したらしいミネラルウォーターのペットボトルを呷っている。
(あ~、あっついもんなぁ。)
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