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今まで開いていたノートパソコンの背後。我妻の死角になっていたところに、缶コーヒーが置いてある。しかも、ホットと書かれていた。
(…一体誰が、こんなものを。)
自分で購入した記憶はなかった。何故なら、残業コースが決定してから作業続行中、悶々と『カフェインを摂取すべきか否か』と考えていたからだ。手元にはないはずである。
(俺のデスクに近づいた奴…。)
記憶を遡ること数秒。我妻は僅かに口を開く。
「…あ。」
『え~。ちょっと、労いの言葉をかけようとした部下に失礼な。』
(…一人だけ、いたか。)
いじけたのか。唇を尖らせながら、オフィスを後にした後輩を思い出す。すると、自然と我妻の口元が綻んでいく。
「…あのバカ。」
腕を伸ばして、掌でコーヒー缶を転がす。…ホットと書いてはいるものの、あれから随分と時間が経ったからだろう、すでに生ぬるくなっている。
「差し入れがあるなら、せめてもっとわかりやすいところに置けっつんだよ。」
グチグチ言いながら、プルタブを起こし、缶を口に運ぶ。缶を傾けると、口中にほろ苦い味が広がって…まるで潮の満ちひきの如く消えていく。
「…にっが。」
感想を吐いて、我妻は『ウエ~…』と舌を出す。缶のパッケージを見て、我妻は大仰に顔を顰める。
「ってか、ブラックかよ。俺が苦くて当たり前じゃん…。せめて、微糖にしろっつの。」
缶をデスクに戻し、鬼上司はイスの背もたれに身を預ける。背もたれがキィッと甲高い音を立てた。
「俺の好みを知らないだなんて、部下失格!!再教育決定、だな。」
天井を仰いで、我妻は一人、呟く。
「…きっちり躾直してやんねぇとな??」
彼以外いないオフィスに、独り言はやけに大きく響いた…。
会社の隅、壁にかけられた日めくりカレンダーがまた一枚外れた水曜日。織戸が奥のコピー機から印刷した書類を持ってデスクに戻ってくる。水越がだるそうにタイプで疲れた手をヒラヒラさせる。落合は黙々とキーボードを叩き、画面を見つめている。
誰ともなく、空中に言葉が発される。
「…ノドカだね~。」
理由は簡単。三人の場を引き締める上司…我妻を初めとする者達が上階の会議室で定期の話し合いを行っているからだ。
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