アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
27
-
「と…っ、とりあえず!!」
『ず』のところで、声が惨めに引っ繰り返る。
(何で俺がこんな相手の考えを深読みしなきゃなんねぇんだよ!!)
悪態をつきながら、車が来ないか聴覚を集中させつつ、飼い主は犬に呼びかける。
「今日はもう遅いし、途中まで一緒に帰るぞ。」
瞬間、電気でも走ったかの如くがばっと身を起こす忠犬に、飼い主は重要な部分を復唱する。
「今日だけだかんな!!お前、マジで!!今日だけだぞ!!」
必死の形相で、横断歩道のド真ん中から振り返って叫ぶ三十路の男であった…。
「えへへ~。」
上機嫌で隣に並ぶ落合に、上司は苦渋の面持ちを見せる。
「…お前、ここ最近本当に俺に対して調子乗りすぎだぞ、バカ。」
「ええ~??そんなことないですってぇ~。」
二ヘラニヘラ笑う落合の頬は緩みきっている。つきたてのモチか、と我妻は内心密かにツッコミをいれておく。
「寒い中、我妻さんを待っていたんですから、当然の報酬だと俺は思いますケド??」
「ケド、じゃねぇよ。」
喋りながら、二人は横断歩道の向こう岸に行き着く。
…寒い中、と聞いて我妻は前触れもなく思い出した事柄を口にする。
「…あ。そういやお前、この間の土曜の朝、先にベッドから起きた時、見たぞ。」
お前、腹丸出しで寝る癖あんだろ。呟きながら、我妻は小さく、くくっと押し殺した笑いを漏らす。
「健康管理も社会人の大事な事項だからな。明日、風邪でも引いて会社休んだら、俺は容赦しねぇぞ。」
隣で忠犬がくぅんとか細く唸り出す。
「え~??…そこは我妻さんが責任感じて看病に来てくれないと。あっ、それか、毎朝横にいて布団をかけ直す役でもアリですよ♪」
「ジョーダン!!…誰がお前ン家にノコノコ行くかっつの。慰謝料の受け取りならともかく。俺は二度と上がり込むつもりは…くちゅんッ!!」
寸でのところで両手で鼻を抑えた上司を見て、落合はオロオロしだす。
「え…。我妻さん、大丈夫ですか??寒い??」
さっそく顔を覗き込んでくる落合に、相手は反射で足を止めて怯む。目と鼻の距離で、互いの吐息を感じるほどの、近さ。
「バカ…。このくらい、平気だって。」
咄嗟に目をそらす我妻に、忠犬はますます訝しむ。
「…本当に、大丈夫ですか??」
「だ、だいじょうぶだから…。顔、近いって…。」
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 103