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とうとう金曜日になった。
落合は、一日中、落ち着きをなくしていた。朝、通勤途中にマンションの部屋は綺麗にしたかどうか頭の中で点検を続ける。昼、割り箸とストローを間違えて食事をしかける。夕方、『定時に帰るぞ(最早殺気)オーラ』を出し続け、周りにドン引かれ…。水越達に別れの挨拶もほどほどに、駆け足で家に帰る。
(浮かれ過ぎだろ、これ。小学生の、遠足に行く一日前じゃないんだから…。)
夕食まで時間を持て余し、近所の大型スーパーで我妻の好きそうなツマミと酒を大量に購入する。レジに並びつつ、『淡ゆくば我妻さんに一泊してもらいたいから!!』と言い含める。
スーパーを出たところで、ようやく夕食を買い忘れていたことに気づき、自分の浮かれ加減に自嘲してしまう落合だった。
夜八時。部屋のピンポンで、落合は座っていたソファーから数センチ軽く宙に浮きそうになるくらい驚いて、玄関に向かう。感極まっているからか。緊張のためか。なかなかうまく、鍵を開けられなかった。
「は、はぁい…。」
玄関扉を開くと、月夜を背景にここ数日ずっと意識していた人が佇んでいる。会社帰りか。スーツ姿の我妻は、あ~…と片腕で項をポリポリ掻き毟りながら、空いた手で何かが入っているらしいビニール袋を取り出す。
「…弁当箱。洗っといたけど、一応、中身を確認しとけよ。」
「あ、ありがとうございます…。」
受け取ると、我妻は上着の襟に口元を埋めて、小さく寒ィ、と呟く。
「え。」
「…外寒ィから、中に入れてくんない??」
「あ…。ハイ。どうぞどうぞ…。」
玄関扉を大きく開け放ち、落合は何気ない風を装って上司を招き入れるが、内心では感情の大嵐が吹き荒れていた。
『誰がお前ン家にノコノコ行くかっつの。慰謝料の受け取りならともかく。俺は二度と上がり込むつもりは…。』
(って、アンタが水曜に言ったんですよ~…!?)
先はクシャミで審議のほどは確かではないが、あの文脈から考えると二度と自分の部屋に上がろうとはしないだろう、と落合は予測していたのだ。
(えっ!?なに、これだから鬼上司ってコワい!!慰謝料の受け取りだから、部屋にまで来てくれるのか!?突然の心変わり!?まさかの計算!?ちょっと待って、一端頭ン中整理させてぇ~っ!!)
脳内密かに混乱中の部下を知らんぷりで、我妻は遠慮なくダイニングに上がると、リビングのソファーの背後に立ち、ばっさばっさと上着を脱ぎ出す。
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