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威嚇のつもりか。身体を精一杯縮こませて睨んでくる上司の頭に、落合はぽんと手を置いて、さらさらと髪を撫でる。
「…我妻さんは、どうですか。」
部下の柔らかな声音に、我妻はくしゃりと顔を歪めた。上司はまず、頭を撫でていた落合の腕を強く振り払った。
「俺は…っ。」
我妻の手が、年下の男のYシャツ袖を握る。指先が白くなるほど握り締めてから、我妻は深々と俯いて喉から声を絞り出す。
「俺は、お前の思うような人間じゃない。」
ぽたぽたと、俯いた顔から伝い落ちた透明な雫がソファーの生地を濡らしていく。目を丸くする落合に、相手は続ける。
「俺は、お前が考えるような完璧な上司なんかじゃない。むしろ、頑張っていてそれでも凡ミスやらかして、見栄張ってやっと立っていられているような人間なんだ…。」
上司の矜持か。我妻は俯いた顔を決して起こそうとはしなかった。落合も、揺らぐ彼の肩を眺めはするが無理矢理顔を覗き込もうとはしない。
「…いっつも完璧に憧れて、理想ばっかり高くって…。誰かを好きになって両思いになると、常に不安がつきまとう。”いつまで俺を好きでいてくれるのかな”って。”飽きたら捨てられてしまうんだ”って。いつ頃からか。俺は付き合う人間に”証”を求めるようになった。」
「証…って。」
何でもいいんだよ、と我妻は嗚咽の狭間で答える。定期的に渡してくれれば、男は安心する。
「お前は、入社仕立ての頃からキラッキラした目で俺を見て…。身体の関係を持った時から、俺はお前に”証”を強請るなんて出来なくて…。代わりに金を要求した。お前はまだ若いんだから、身体の関係と引き換えに高額を脅し取られていたら、その内俺に懲り懲りして弱音を吐いてくれないかって。異動願いでも書けば、簡単に関係は切れると思っていたんだ。」
「我妻先輩…。」
途端、我妻はがばっと顔を上げる。赤くなった目元にすっかり潤んだ瞳。普段からは想像もつかないような扇情的な顔に落合は己の欲望が疼くのを感じた。が、その前に我妻が枯れた声で叫ぶ。
「呼ぶな!!」
落合は、キョトンとする。
「…え。でも、我妻さん、この呼び方が好きなんですよね??”我妻先輩”って。」
「呼ぶなってば…っ!!」
大仰に手で耳を塞ぐ我妻。彼の姿を目撃した部下は意地悪くニヤリと笑い、背後から抱きついてねっとりと囁きかける。
「…もしかして、俺が新人だった頃を思い出して、照れています??我妻先輩??」
トマトみたいに真っ赤な顔で、我妻は小さく呻いて部下から身を引く。
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