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「あっ、悪い…!!」
落合の厚い胸板の前で顔を上げた男に、エレベーターの先客は静かに息を呑む。
「…あ、我妻先輩!?」
噂をすれば影。何で、と言葉を失う落合に上司も瞬きを繰り返す。
「…お前、珍しいな。こんな早い時間に来るなんて…っ!?」
最後まで口にして、我妻はようやく自身が部下のスーツを握り締めているのに気がついて、慌てて距離をとる。
(も、もう少しそのままでもよかったのに…。)
落合は臍を噛みながら、早めに会社に来た経緯を説明する。
「なるほどな…。」
納得した風の我妻に、部下は同じ質問を返す。
「我妻先輩は、どうして一緒に??」
「…ああ。朝一からある会議に提出する書類の方を、最終チェックしたくてな。」
二人が喋っていると、開きっぱなしだった鉄扉が音を立てて閉まり出す。一ミリの隙間なく閉じた扉を見て、落合は冷静にこの状況を理解した。
(好きな人と、二人っきり。)
茫然としている落合に、上司は毛ほども気がついていない。腕組みをして、部下に横柄に言い放つ。
「おい、早いとこフロアのボタンを押せって。お前の無駄にデカい図体が邪魔になって、俺じゃ簡単に押せねぇんだよ…。」
「…先輩。」
ピッと落合はフロアの最上階を押して、くるりとUターンすると驚いている上司をひんやりと冷たい壁に縫いとめる。
「もっと、かわいくおねだりして下さい??」
小首を傾げる部下に、我妻は三秒で状況と危機と甘ったるい雰囲気を把握した。
「なッ、何やってんだ、お前はァァァッ!!」
猛り吠えると、我妻は四肢をバタつかせて抵抗する。落合は難なく取り押さえてはいるが、唇を尖らせる。
「え??…我妻先輩とエレベーターでドキドキしようと。」
「んだよ、その『一緒にお茶しよう』と同じ調子で危ないセリフ吐きやがって!!」
離せ、と上司は叫ぶ。え~、と落合は不満げに唸る。
「異議申し立ては却下だ!!何十回も言ってんだろ、ここは会社!!職場!!仕事場!!仕事をするところであって、現を抜かすとこじゃねぇんだよ!!」
落合は肩を僅かに下ろして、一言告げる。
「…けど、先輩、さっきっから顔が真っ赤。」
早速視線を急降下させ、深く俯く我妻に部下は微苦笑を口元に刻む。
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