アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
70
-
「…落合。お前、今、俺に何しやがった??」
落合は緩々と笑いながら、現状恋人未満の上司に肩を竦めてみせた。
「後生です、我妻先輩。見逃してぇぇぇッ!!」
落合の懇願と、上司の頭突き音が同時に狭いエレベーター内に響いたのであった…。
水曜日。…我妻は、無視しようのない違和感に苛まれていた。
(…なんか。)
エレベーター。オフィス。食堂。
(…なんか。)
廊下で人が通り過ぎていく時。コピー機の前で佇む時。デスクにいる時。
(…なんか。)
トイレから出ていく時まで、纏わりつく好奇心の塊のような、不特定多数の視線。
(見られていないか…??)
昼休憩中。偶然、食堂に向かう途中の廊下で、我妻は伊月と出くわした。伊月は、気軽に話しかけてきて数分でいいから一階のロビーで話し合おうと誘いをかけてきた。またヨリを戻さないか云々だろうか。うんざりしながらも、我妻は同期からの誘いを断りきれず、一階に足を運ぶ。…我妻にとって伊月は特別な人間なのだ。自分をゲイと知っていて、交際したことすらある。友人以上恋…までにはいかなかった人物だ。
一階のロビーは、取引先の人間が待ち時間を退屈にしないよう、自販機、雑誌、テレビと至れり尽くせりだ。ロビーの区画に沿うよう四角くインディゴブルーのソファーが続いている。中央には、白い丸テーブルが三つ。テーブル一つにつき、黒い椅子が二つずつ添えられている。一番奥、テレビ正面にある席について、伊月は息を漏らした。
「…君、また大胆な行動をしているようだね。」
我妻が同じ席につくと、相手はそわそわと落ち着かない様子を見せて、自販機でコーヒーを買う。紙コップに自動で注がれる式だ。アツアツのコーヒーを二つ持ってきて、伊月は我妻の前に紙コップを置く。我妻は小首を傾げる。…おかしい。こんな時、いつもの伊月は調子に乗って、我妻に直接手渡すというのに。
「女子社員達が騒いでいるんだよ、君と部下がお熱いご様子だと。」
伊月は、温かな湯気煙る紙コップに唇をつけて、ずずっと小さく啜る。我妻は真っ赤になる。
「ち、ちが…っ。あれは、ほら、ただ落合が熱っぽい俺の額をはかっていただけで…。」
伊月は微苦笑を浮かべて、はっきりと言う。
「…成人男子の、それも上司と部下で、エレベーターみたいな個室に入って、わざわざやる行動じゃないだろう。」
途端にしゅんと落ち込む我妻だった。まあ、そういうわけだから、と伊月が肩を聳やかす。
「しばらく、君には気安く触れられないんだ、京司。…俺の心苦しさ、君にもわかるだろう??大好きな君に近づいたら、僕までゲイじゃないかって囃したてられるからね。」
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
70 / 103