アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
78
-
「空きっ腹に酒は毒ですから、一応、枝豆は頼んどきました。俺達、酒飲み勝負するんですからね。」
口は冷酷な癖に、きゅっと握りこんでくる手は切実に感じられて、我妻は瞳をそらす。
「お…、おう。」
やんわりと部下の手を解いて、我妻は違和感を覚える。
(…ま、待て。俺達、今はケンカしているんだよな??何で、ちょっといい雰囲気っぽくなっているんだ??)
訝しげな我妻の前に汗をかいた瓶ビールが置かれる。落合が注文した通り、空のグラスも届いた。枝豆は、小鉢にこんもりと盛られている。我妻は、もぞもぞと口に運ぶ。目前の落合は、ツマミを掃除機の如く吸い上げて、枝豆を二、三房食べただけで見向きもしなくなる。
「じゃっ、飲み始めるとしますか。」
「あ、ああ…。」
それぞれでグラスにビールを注ぐ。金色の液体が透明なグラスを満たしていく。泡をほどよく立て、二人はグラスを持ち上げる。肩の高さにあげると…二人の視線が炸裂するようにかちり合った。
「…乾杯!!」
「乾杯…。」
からん、と澄んだ音をたて、グラス同士がぶつかり合う。後はそれぞれがグラスを斜めにして、唇をつけ、中の液体をごっごっと飲み上げるだけだ。
キンキンに冷えたビール。喉が鳴る。やはり店のものだけあってか。保存状況がいいのだろう。のどごしがいい。
我妻は、シャープな線が特徴のグラスから顔を上げる。グラスの中身は、すでに三分の二ほど消え失せている。あら不思議だ。
ぷはぁ、と息をつく三十路の男に対面にいる部下から片腕が伸ばされる。掌で顎を固定され、伸びた指先が上唇に吸い寄せられていく。慌てて、ぎょっとした我妻は身を引いた。落合は、キョトンとしてから、すぐにふっと口元を緩める。
「…先輩。ビールの泡が唇の上について、ヒゲができている。とってあげますから、逃げないで。」
つい、と目を眇めて落合はどこか懐かしい笑みを見せる。
「逃げられちゃうと、ぎゅって抱き寄せたくなります。」
「・ ・ ・。」
(また小っ恥ずかしいセリフ吐きやがって…。)
我妻は逡巡した挙句、ずいっと身体を前のめりにして…ぼそりと呟く。
「…ヒゲを拭くのは、サンキュな。けど、拭くならお前の指じゃなくてナプキンにしろ。」
我妻の瞳が静かに伏せられる。
「…お前の指が、汚れる。」
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
78 / 103