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空には濃い灰色の雨雲が垂れこめていて、バラバラと雨を降らせている。織戸は屋上の中央辺りで立ち止まる。雨が激しくて、視界がよく見えない。片腕を眼前に翳す。風も強く吹き荒れている。追いかけてきた人物の足音が、一メートルほど手前で止まった。
「織戸!!」
落合の…ついさっきまで大好きだった声がする。この声を聞くために、織戸は毎日頑張っていた。
(…なのに、今は耳障りで仕方ない。)
他の人と思いを通じさせている声だと知ると、途端に興ざめだ。
「追いかけて来ないでよ、お人好しの皮を被った強姦魔!!あっち行って!!…あたしまで襲う気!?」
落合は苦しげに唸ると、深く俯く。
「…さっき言ったこと、本当なの??」
「何よ、さっき言ったことって。」
織戸は見え透いた嘘をついた。少しでも多く、自分の失態を指摘される前に時間稼ぎをしたかった。
「織戸は、俺が好きだったの??」
「…~っ!!」
苦々しい思いで、振り返る。そこには、一人の長身の男が佇んでいる。薄茶色が残る黒髪は、潔く刈り上げている。人当たりの良さそうなえびす顔と、服に着られている感がちょっぴり残っている紺色のスーツ姿。…落合仁。織戸の、好きだった人。
「何で、我妻みたいな…自分と同じ性別の男を好きになったのよ!?」
絶叫にも似た声で、織戸は彼の胸ぐらに掴みかかる。上下に揺らしても、彼はビクともしなかった。織戸の両手が、落合を数メートル先に突き飛ばす。
早くも、落合の顎からポタポタと雨の雫が落ちていく。織戸は髪を振り乱す。
「男同士なんて、ダメに決まっているじゃない!!考えても見てよ??男女なら、同棲して結婚して子供を生んで育てられるよ??女なら…私なら、落合君の隣で、純白のウェディングドレスを着られるよ。両親に紹介も出来るじゃない。子供だって、一緒に力を合わせて育てていける。」
でも、と織戸は下唇をきつく噛み締めてみせた。
「我妻とじゃ、この先がずっとないんだよ、落合君。同性の結婚に理解ある、有名な式場を幾つ知っている??っていうかそもそも、付き合っていることを両親に伝えることすら一苦労じゃない。数え切れないくらい交わったって、子供なんか生まれない。」
そんな人と、と織戸は声を荒らげて落合に迫る。
「そんな人と一緒に生きていく必要なんかない!!落合君の一生を棒に振る必要なんか一つもないんだよ!?」
私なら、と織戸は自分の胸に手を置く。
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