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『おち…あい…。だ、だめだ、おちあい。いや…っ。』
土壇場になると、初心な本性を晒して人の劣情を煽る。
『それ以上、無駄口叩いて俺の仕事を邪魔するようなら容赦しねぇぞ。』
『健康管理も社会人の大事な事項だからな。明日、風邪でも引いて会社休んだら、俺は容赦しねぇぞ。』
仕事には常にストイックな反面。
『…昼休憩ン時、弁当寄越せ。』
『今日はもう遅いし、途中まで一緒に帰るぞ。』
攻め込んでみると、頑丈そうな要塞がその実は砂の城だったり。
『昨日の夜、お前は俺に『好きなだけ束縛しろ』と抜かしたな。』
強引なところがあるかと思えば。
『誰かを好きになって両思いになると、常に不安がつきまとう。”いつまで俺を好きでいてくれるのかな”って。”飽きたら捨てられてしまうんだ”って。いつ頃からか。俺は付き合う人間に”証”を求めるようになった。』
やけに脆いところがあって、目が離せなくなる。
『まあ??お前がしたいんなら??してやんないこともねぇ、けど??』
重力に引かれるように。高いところから物が落ちていくみたいに。
『あのさぁ、落合。俺は…さ、ちゃんとお前が好きだよ??』
気づけば落合は、年上の男を目で追うようになっていた。
「恋っていうのは…。」
落合は自身の服の胸部を握り締め、織戸を睨みつける。
「求めて求められて…。二人でいても、相手が遠くって、歯痒くって仕方ない。」
『お、俺だって我妻先輩が欲しい、です…。』
『もう少しだけ…お前に引っ付いといていいか??』
それでも、と落合は強い眼差しで語る。
「それでも、一緒にいたいって…この人じゃなきゃダメだって…思える関係じゃないのか!?」
二人の間に沈黙が流れる。先に口を開いたのは、織戸だった。
「…落合君は、そんなに我妻さんのことが好きなの??」
落合はしばし逡巡してから、ゆっくりと頷いてみせる。
「織戸は、好きな人に色々と与えたいっていうけど、俺は違うんだ。」
雨脚が弱まり、一気に視界が晴れてくる。目前の織戸は、ひっくひっくと肩を震わせて泣いていた。
「俺は我妻さんがいたら、それでいい。他に何も望まない。」
落合は織戸の腕を引っ張って、すぐに屋上の扉に戻っていく。…ここまで雨に濡れた二人だ。どちらかが風邪を引いてもおかしくない。大人しく落合に引っ張られながら、織戸は彼の背後でくすりと笑う。
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