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『俺は我妻さんを好きになりたいし、我妻さんに俺のこともっと知ってもらいたい!!一晩限りの、酔っ払い同士の事故で片付けてもらいたくないッ!!』
(これもニア”好き”。)
『あのさぁ、落合。俺は…さ、ちゃんとお前が好きだよ??』
(こっちは我妻さんのセリフ。)
『気になっている人が飯食っているところって、すっげぇ官能的ですよね。』
(うん…??)
部下は、車窓に気を取られている男の横で目をパチクリする。
(もしかしなくても、俺は我妻さんに…今まで『好き』って言ったこと、ない!??)
衝撃の事実に、落合はクルッと隣にいる男を見る。半開きになった唇。泣いた跡がうっすらと残っている、潤んだ瞳。他では見せないだろう、無防備な横顔。艶美とは彼の風情を指すのだろう。落合は首肯して、自身の考えに同意する。
(いいや、間違いなく俺、この人大ッ好きだしッ!!)
年下の男は、シートの上で自分の傍に放り出されていた我妻の片手をぎゅっと握る。我妻の視線が素早くこちらに向けられ…やがて彼は口を噤んで…重ねられた手を眺めている。じわじわと色づいていく、頬の赤が彼の許可だという証のようだった。
「我妻先輩。」
落合は運転席の肩の部分と後部席の背もたれにそれぞれ手をかけ、年上の男に迫る。じりじりと距離を詰められ、この先何があるか大体予想はつく癖に、意地っ張りの我妻は強気に返してくる。
「…何だよ。」
「俺、ずっと言っていなかったんですけど、あなたのことが…。」
はからずもド定番なフレーズになってしまったのは残念だが、ケチをつけてはいられない。
(タクシーの車内だし、我妻さんの機嫌を損ねてしまいそうだけど、悪い空気をここで払拭したい…っ!!家に送り届けられて、我妻さんだけ会社に戻って逢引の約束までウヤムヤになる華金は嫌だ!!)
「俺…俺…。あなた…ァガッ!!」
後半、言葉が途切れたのは落合がヘタレで噛んだのではなく、タクシーがブレーキをかけたからだった。強か後部席に身体を打ち付けた部下を、我妻は労い、広い背中を繰り返し摩ってやる。
「だ、大丈夫か??悪い、俺を庇ってくれたんだな??」
(ちがう…。違いますよ、我妻さん…。でも感謝してくれているみたいだし、訂正はしない。)
微妙な男心の落合だった。すると、落合の肩越しにひょっこりと中年男性のタクシー運転手が顔を出す。
「はい、着きましたよ~。」
「え、いや、まだ…!!」
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