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「先輩が何を言いたいのか、今の俺には全くわかりません!!」
気づけば落合は歯を噛み締めて、嗚咽を我慢していた。まるで、子供が大好きなオモチャを取り上げられる寸前のように、心は理性的に動いてくれない。
「二つ目はな。…落合、俺はお前の人生を狂わせてしまったんだ。」
我妻は、自分の下腹部に絡みついた、肉付きのいい両腕に指を這わせる。慰めるかの如く、愛撫する。
「お前は、女性が好きな異性愛者だった。お前はな、落合。お前にふさわしい道があったんだ。お前が好きな女の人と結婚して、所帯を持つ道があった。…もしかすると、その女の人は、俺が会社に存在しなけりゃ、あの夜がないなら織戸だったのかもしれないな。そして、お前とお前の好きな女の人の間に子供が生まれるかもしれない。その子は男であれ女であれ、また好きな人を見つけて子供を…互いに添い遂げられた一生の証を生むのかもしれない。そうやって、お前はお前の血肉を未来のまだ見ない子供達に残せるんだ。残す能力があるんだ。…俺に関わるまでは、確実に存在していた。」
後暗い瞳で、我妻は肩ごしに年下の男に憐憫の眼差しを注ぐ。
「俺に関わって、お前はその道から遠くなってしまった。俺と一緒にいる間、気づいていないだけでお前はその道を迂回するように動いた。また、通らない道としてお前の中の人生設計から赤ペンでも引いて消してしまったのかもしれない。」
今ならまだ間に合うんだよ、と我妻は繰り返す。自分に言い含めるように、落合をなだめすかすように。
「…落合。どちらにしろ、俺がお前にそういう風に仕向けてしまったのは変わらない。本来関わらないだろう世界に、お前を引き込んだのは俺だ。」
静寂が、二人っきりの浴室を支配していた。一つの光明の如く、聞こえるのは互いの吐息と我妻の独白だけだ。
「許してくれとは言わない。…これが俺の、我妻京司の罪だから。」
「…っ!!」
落合は大人しく聞いていられなくなって、年上の男を力任せに組み敷いた。我妻は、されるがままに部下に押し倒される。ただ、我妻は唇を動かし続けた。凛とした声を、あげ続けた。
「お前は俺に『責任をとる』と言う。でも、俺は酷い男だから、そんな風には言ってやれない。責任なんかとれない。人の一生の、面倒なんか見られるわけがない…っ。」
我妻は年下の男を真っ向から見据える。襲われているのは我妻なのに、押されているのは年下の男だった。我妻は暴力ではなく、言葉で年下の男を捩じ伏せる。強く突き飛ばし、傍に寄せ付けない。
「お前は、ここまで俺についてきてくれた。…もう、いいんだよ。無理なんかしなくても。責任なんて、見えもしない力で雁字搦めにされなくても。」
俺はお前の上に立つ者だから、我妻は眩そうに目を細めて、笑った。
「ここから先は、お前の道を行け、落合。」
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